24話『呼び出し』
「バレンさん……とても強かったですね」
ウォーゲームの参加権に関する争いが終わった後。
今後の方針について相談するために、俺とミゼは再び人気のいない場所で話していた。
「ああ。あれでもまだ、五割も本気を出していない筈だ」
「えっ!? そ、そうなんですか……?」
「佩帯を使う際、かなりの余裕があった。恐らく、もっと高ランクの魔法を使えるし……より多くの魔法を佩帯できるんだろう」
特に、一度に幾つ魔法を保持できるかは、佩帯使いにとって重要なステータスである。圧縮使いにとっての圧縮比率のようなものだ。
「ミゼ、エクソダスの練習はもう終わったのか?」
「はい。今日はもう自由ですから、爆弾の解体に専念できると思います」
「そうか。……なら、そろそろエリシアたちと合流しておくか」
そろそろ日も沈むため、生徒も少しずつ帰り始めるだろう。
ここからはより本格的に動くことができる。俺たちは事前に示し合わせた通り、エリシアたちとの合流場所へ向かった。
「お待たせ」
先に合流場所へ辿り着いていた俺たちに、エリシアが声を掛ける。そのすぐ後ろにはグランの姿もあった。
「エリシア、爆弾はあったか?」
「ええ。幾つか見つけたわ」
鷹組の道具だけでなく、獅子組の道具にも仕掛けられていたようだ。
「生徒たちも少しずつ減ってきた。競技祭の練習で疲れているところ申し訳ないが、そろそろ解体作業に移るぞ」
そう告げると、三人ともやる気に満ち溢れた表情で頷いた。
本当に……頼もしい仲間を持った。
◆
「すっかり夜になってしまったわね」
倉庫の入り口にて。
暗くなった空を仰ぎ見て、エリシアが呟いた。
「この時間帯にコソコソしていると、俺たちの方が不審者みてぇだな。もう切り上げた方がいいんじゃねぇか?」
「できればそうしたいところだが……今日見つけた分は、今日中に解体しておきたいな」
グランの問いに、俺は考えながら答えた。
折角、爆弾が仕掛けられた道具を調査したのに、明日になれば場所を移されるかもしれない。二度手間は避けたいところだ。
「……ん?」
その時、付近で人の気配を感じた。
爆弾の解体作業を中断して、気配がした方向を見る。隣ではエリシアも、鋭い目つきで同じ方向を見ていた。
「……トゥエイト」
「ああ。……全員、作業を中断してくれ。誰か来る」
倉庫の中にいるグランとミゼに声を掛ける。
この距離で気づかれるような相手なら、大した人間ではないだろう。だがもしかすれば――帝国の工作員かもしれない。
「こんな夜遅くまで練習ですか?」
やがて俺たちの前に姿を表わしたのは、黒髪ショートカットの少女だった。
「ミラ?」
その名を呼ぶと、ミラは「こんばんは」と頭を下げる。
釣られて会釈する俺たちに、ミラは声を掛けた。
「トゥエイトさんに、ミゼさんですね。そちらの二人は獅子組の生徒と記憶していますが」
「へぇ……私たちのことまで知っているなんて。もしかして生徒会って、全生徒の顔を記憶しているのかしら?」
エリシアが冗談交じりに尋ねる。
ミラは、いつも通りの真面目な表情で答えた。
「はい。最低でも同学年の生徒は全員記憶しています」
それは、完全に想定外だった。質問したエリシアも絶句する。
沈黙が滞る中、俺はすぐに本来の目的を思い出した。
「競技祭の練習はこのくらいにして、今日はもう帰るか」
「え……? ですがトゥエイトさん、それは……」
解体作業を続けるべきではないかと暗に告げるミゼに、俺は視線で「従って欲しい」と伝えた。
残念ながら、こうして生徒会に目をつけられた時点で今日は解散するべきだろう。今後はこの時間帯を目安に撤収するべきかもしれない。
「では皆さん、お気を付けて」
ミラの言葉に俺たちは再び頭を下げ、学園を後にした。
だが、俺たちの背中には――ずっとミラの視線が注がれていた。
◆
翌日の放課後。
グラウンドへ向かう途中で、ミラと遭遇した。
「トゥエイトさん。少しいいですか?」
「鷹組の練習には、これから参加するつもりだが……」
「その前に、お時間をいただけないでしょうか」
続けざまに、ミラは言う。
「生徒会室へお越しください。……いつも貴方が一緒に行動している、他の三人もご一緒に」
神妙な面持ちでミラは言う。
これは――感づかれたか?