20話『工作員の仕掛け』
『それで、帰ってきたわけね』
「ああ。下手に騒ぎを起こしたくないからな」
工作員の処理について、俺は一通りクリスに報告した。
「少し驚いたが、相手が生徒会というなら任せてもいいだろう。元々、学園の警備は生徒会の管轄だ」
『まあ、そうね。それじゃあ後始末に向かわせた部下には引き返すよう伝えておくわ』
クリスがそう言った後、『通信紙』の向こうでボソボソと小さな話し声が聞こえた。すぐ傍に他の部下がいるだろう。早速、指示を出したらしい。
「クリス。ひとつ訊きたいんだが、ビルダーズ学園の生徒会は、他国の工作員をあっさり倒せるほど強いのか?」
『まさか。将来有望なのは間違いないけれど、在学中にそこまで優秀なのは稀よ』
やはりそうか。
あのバレンという男、佇まいからしてかなり実戦に慣れていた。あれほどの生徒はそういない。
『バレンっていったかしら。その子、もしかしたら大戦に参加した生徒かもしれないわね』
「……ああ。そういえば、参加していた筈だ」
以前、昼休みにエリシアから聞いた話を思い出した。
勇魔大戦の際、王国はビルダーズ学園の生徒会から数名の生徒を兵士として扱っている。人手不足を憂いてのことらしいが……なるほど、あの実力なら戦場での働きを期待してしまうのも無理はない。
エリシアの説明によれば、大戦に参加したのは三人いる。
現生徒会長と、先程俺が会ったバレン。そして、もう一人だ。最後の一人については何も知らない。
『大戦に参加しているなら、その実力にも頷けるわ。私も話しか知らないけど、ビルダーズ学園から大戦に参加した生徒は、いずれも目覚ましい戦果を収めたそうよ。ただ……残念なことに、そのうちの一人は死んでしまったようだけど』
「そうなのか?」
『ええ。……あまり、いい死に方じゃなかったみたい』
クリスは言葉を濁した。
下らない好奇心を押し殺す。それは今の俺にとって必要な情報ではない。
「俺はもう少し勝手に動くつもりだ。問題ないな?」
『ええ。何か気になることでもあったの?』
「工作員が学園で何をしていたのか知っておきたい。暫くの間、観察していたが……単なる情報収集ではなさそうだった」
『……分かった。くれぐれも注意して』
通信を切り、俺は再び息を殺して移動した。
持ち出した『ウィングボード』を起動し、倉庫に向かいながら考える。
敵の目的はルセクタス会談の妨害だ。そのために魔法競技祭を台無しにしようとしている。
競技祭の妨害は、恐らく本番当日に行われるだろう。王国の警戒レベルを引き上げるには、それが最も効果的だからだ。
なら、現時点で学園に侵入する理由は限られる。
例えば――競技祭で使う道具に、何か細工をするとか。
「……なるほど」
倉庫に『ウィングボード』を戻した俺は、すぐに他の魔法具を確認した。そして、工作員たちの目的を明らかにする。
工作員たちが倉庫の場所を知っていた時点で、何かしらの細工は確実にされていると予想していたが……思ったよりも厄介なものを見つけてしまった。
「爆弾か」