19話『狂犬』
「その制服……普通科だな。こんなところで何している?」
赤髪の男は、倒れる工作員の背中に片足を乗せながら俺に訊いた。
男は英雄科の制服を身につけているが、顔見知りではない。お互い学生というには少々奇妙な場面に出くわしてしまった。下手に怪しまれても面倒だし、ここは正直に話すことにする。
「……そこにいる侵入者を追っていたところだ」
「はぁ? 普通科のてめぇが、こいつらを追い詰めたってのか?」
男は眉間に皺を寄せた。
「そうだ――」
首を縦に振った直後、左右から炎の砲撃が迫った。
眼前の男が一瞬で魔法を発動したらしい。予備動作が殆ど見えず、僅かに反応が遅れる。
すぐに《靭身》を発動した俺は、そのまま右方にある壁に向かって跳躍した。壁面に足をつけながら男を観察する。男は追撃せず、ニヤニヤと笑みを浮かべながらこちらを見ていた。
「ははっ! 嘘をついてるわけじゃねぇみたいだな」
その程度のことを確認するためだけに、俺を攻撃したのか……。
面倒な相手と遭遇してしまったかもしれない。溜息をつきながら、着地する。
「ただの属性砲にしては強力だな。本当に学生か?」
「はっ! そいつを軽々しく避けたお前こそ、学生のレベルじゃねぇぞ」
属性砲は、《風砲》や《火砲》が該当するCランク魔法だ。威力が高い分、本来なら予備動作の目立つ魔法だが……この男にはそれが殆どなかった。
この男、間違いなく腕が立つ。
少なくともただの学生ではない。
「ぐ……き、貴様ら、調子に……ッ!」
男の足元で工作員が呻く。
直後、男は掌を足元に向けて炎の塊を放った。轟音が響く。
「寝てろ」
巻き上がった砂煙を手で払いながら、男は言った。
「殺したのか?」
「さぁな。運がよければ生きてんだろ」
見れば工作員の身体は僅かに動いている。
辛うじて生きている状態だ。すぐに医者に診せねば死ぬだろう。
「こいつらの敗因は……ビルダーズ学園の生徒を舐めたことだな」
不敵な笑みを浮かべ、男は工作員の身体を足蹴にした。
黙って男の様子を見つめていると、敵意を剥き出しにした瞳で睨まれる。
「あん? 何見てんだ。さっさと帰れよ」
「……その二人をどうするつもりだ?」
「てめぇには関係ねぇだろ」
「彼らを追い詰めたのは俺だ」
言外に、邪魔をしたのはお前だと伝える。
すると男は溜息を吐き、面倒臭そうに後ろ髪をがしがしと掻いた。
「ちっ……何を疑っているのかは知らねぇが、ここから先は俺たちの領分だ。右も左も分からねぇ新入生が出しゃばんな」
俺たちの領分。その言葉が何を指しているのか分からず眉を潜める。
こちらの疑問を見透かしてか、男は口を開いて告げた。
「俺はバレン=スティーレン。――生徒会だ」
短いので明日続きを更新します。