15話『ギャップ』
「ハウゼンさん……?」
現れた生徒会役員のうち、グランは背の高い男を見て呟いた。
俺は鷹組のリーダーであるミラしか知らなかったが、グランはその隣に立つ男と面識があるようだ。
「我々は見回りをしているところだ。競技祭の開催が近づいたことで、生徒たちの訓練も一層激しくなっているからな」
ハウゼンと呼ばれた男が言う。
男はすぐに俺の方を見た。
「君とは初対面だな。私はハウゼン=グレゴリア、獅子組のリーダーを務めている」
そういうことか、と俺は納得した。
競技祭の見回りなのだから、鷹組と獅子組のリーダーが行うのは当然のことだ。
ハウゼンがしたように、ミラもグランに自己紹介した。
最後に、癖のある薄紫色の長髪をした女子生徒が、朗らかな笑みと共に挨拶する。
「生徒会副会長の、シェリア=ノーランで~す。よろしくね~」
間延びした独特な口調で名を告げられる。
ミラとハウゼンの態度から察するに、上級生だろう。
「タイミング悪かったかな~? ごめんね、邪魔しちゃって」
「……いえ、大丈夫です」
謝罪するシェリアさんに、俺は言った。
距離感を掴みにくい相手だ。ビルダーズ学園の副会長ともなれば優秀な生徒の筈だが、そのわりには貫禄というものを感じない。演技なのか、それとも素なのか。判別がつきにくい。
「二人は無茶な訓練をしているわけでもないし、問題ないと思うけど、取り敢えず注意喚起だけはさせてね~。生徒同士の喧嘩は勿論、禁止。故意じゃなかったとしても、相手に大きな怪我を負わせたら競技祭に出場できなくなっちゃうから、気をつけて~」
シェリアさんの注意喚起を聞いて、俺とグランはそれぞれ頷いた。
用件はそれだけらしい。踵を返すシェリアさんに、ミラはついて行く。
一方、ハウゼンはこちらに背中を向ける前に、グランに声をかけた。
「グラン。ウォーゲームに参加したいなら、早めに模擬戦を申し込め。流石に競技祭の直前になって、メンバーを変更したくはないからな」
「了解っす!」
威勢の良い返事をするグランに、ハウゼンは表情を変えることなく去って行った。
生徒会たちの背中を見届けた後、俺はグランの方を向く。
「あのハウゼンという男は同級生じゃないのか? 何故、敬語を使っている」
「いやぁ、なんつーか貫禄があるから、つい敬語になっちまうんだよな」
お前も似たり寄ったりだろ。
◇
トゥエイトとグランが、改めて訓練を再開する。
その光景を一瞥した生徒会副会長シェリア=ノーランは、感心したような声を漏らした。
「あの二人、強そうね~」
競技祭の準備期間ということもあり、演習場は高等部一年の生徒でごった返していた。その中でも二人の実力は頭一つ抜きん出ている。
しかし高等部二年のシェリアは、二人に対してそれ以上の評価を感じていた。
あの実力は、高等部の全生徒の中でも上位に匹敵する。
「ミラちゃん、ハウゼン君。あの二人って学科はどちらなの?」
「トゥエイトさんの方は普通科です」
「グランも普通科です」
シェリアの問いに、ミラ、ハウゼンがそれぞれ答える。
「う~ん。やっぱり、英雄科の方が強いって評価は偏見だよね~。あの二人、どう見てもその辺の英雄科より強いし~」
「普通科ができたのは今年ですから、評判と実情に食い違いがあるのは仕方ありません。そのギャップは徐々に埋まることかと思います」
「そうね~。でも、それだと来年、再来年に入学する生徒はいいけれど、今の生徒たちは暫く偏見に苦しむんじゃないかと思って~……」
シェリアの言葉にミラは口を噤んだ。
格差は実在しなくとも、当人同士があると認識してしまえば、選民思想が生まれてしまう。教師陣もそれを問題視しているようだが、中々解決には至っていない。
「取り敢えず、生徒の見回りはこれで全部かしらね~。今日中にすることは他に何かあったかしら?」
「警備態勢の見直しがあります。ここ数日、学園の付近で怪しい人影を見たという情報が数件報告されていますので」
「あぁ……そんなのもあったわね~」
ハウゼンの言葉に、シェリアは吐息を零す。
「大きな学園というのも面倒ね~。良くも悪くも、注目を浴びるというか~……」




