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11話『弟子入り志願』


 シルフィア先生に新しい魔法について教わった翌日。

 俺たち普通科の生徒は、運動着に着替え、基礎戦闘と呼ばれる講義を受けていた。


「本日の基礎戦闘の授業では、《靭身》を駆使した接近戦を練習してもらう」


 基礎戦闘の担当であるファルネーゼ先生が、生徒たちの顔を見つめながら言う。


「大抵、戦闘が始まる切っ掛けとなる魔法は、近接武闘式か遠隔射撃式だ。この二つは普通科の諸君もある程度は習得しておいた方がいい。いざという時の護身術としても使えるだろう。……というわけで、二人一組に分かれて模擬戦を行う」


 生徒たちは手際よく二人一組に分かれた。

 基礎戦闘は、文字通り基本的な戦闘技能について学ぶ授業だ。この授業は普通科と英雄科が別々で受けることになっている。戦う術に長けた英雄科の生徒たちと普通科の生徒たちの間では、その実力に大きな差があるからだ。


 普通科の基礎戦闘では、やむを得ずに戦うケースが想定される。

 魔王が倒され、表向き平和になったとは言え、社会情勢はまだまだ不安定だ。ビルダーズ学園もそれを考慮しているのかもしれない。


「トゥエイト、勝負しようぜ」


 誰とペアを組むか悩んでいると、グランから声を掛けられた。

 断る理由もないので頷く。


 先にペアを組んだ生徒たちから順に模擬戦を始めた。

 基礎戦闘の授業で模擬戦を行うのは初めてではない。グラウンドを四つの区画に分け、それぞれで一対一の模擬戦が始まる。


「次のペア、フィールドに入れ」


 ファルネーゼ先生の指示に従い、俺とグランは対峙した。


「どっちが勝っても、恨みっこなしだぜ」


「ああ」


 不敵な笑みを浮かべるグランに対し、俺は構えた。

 ファルネーゼ先生が開始の合図をして、俺とグランは同時に動く。


「そらッ!!」


 近接武闘式の魔法《靭身》を発動したグランが、一瞬で俺の懐に潜り込んで正拳突きを放ってきた。


 小手調べのような一撃だ。軌道は分かりやすく、威力も少ない。反面、いつでも次の一手へ移れるよう体勢を整えているため、こちらが素早くカウンターを打ったとしても決定打にはならないだろう。


 突き出された腕を側面へ受け流す。

 すると、グランは軸足を回転させて反対の側面から蹴りを放ってきた。


 攻撃の切り替えが早い。先程の小手調べのような一撃と違い、今度の蹴りは直撃すれば痛手となってしまう。


 俺は身を屈めることでグランの蹴りを回避し、同時にこちらもグランの足首へローキックを繰り出した。


「おっと!?」


 グランが跳躍して俺の蹴りを避ける。

 宙に浮いたグランの胸倉を掴み、投げ技を仕掛けようとすると――。


「――ちッ」


 不意に訪れた手刀に、俺は一歩後退した。

 対応が早い。こちらの追撃を読んでいたか。


「相変わらず、接近戦の技術は一級品だな」


「まあな。なにせ俺はトゥエイトと違って――」


 グランが瞬く間に肉薄して言う。


「――これしか能がねぇからな!」


 拳が鋭く繰り出される。

 辛うじて回避できる速度の拳と蹴りが、幾重にも放たれた。しかしグランの本領は速度ではなく膂力である。ただでさえ鋭い一撃だというのに、直撃すれば最後、ガードごと崩されてしまうだろう。一撃も受けてはならないというプレッシャーは、戦いが長引くにつれてこちらの精神を摩耗させる。


 しかし、失敗してはならない任務を幾度となくこなしてきた俺にとって、プレッシャーは慣れたものだ。


 横合いから迫る蹴りを避けた直後、グランと視線を交差する。

 一瞬だけ俺は右方に目を逸らした。するとグランも、そちらに何かあるのかと勘ぐり、目を逸らす。


「甘い」


 視線誘導に引っ掛かったグランの足を払う。

 体勢を崩したグランの腹に、俺は掌底を叩き込んだ。


「ぐは――ッ!?」


 肺に溜めた息と共に、グランは呻き声を漏らす。

 模擬戦を近くで見ていたファルネーゼ先生から「そこまで!」と制止の声が掛けられた。


「駆け引きが苦手なところも、相変わらずだな」


 尻餅をつくグランに手を差し伸べながら言う。


「……やっぱ、強ぇな。トゥエイトは」


 小さく笑みを浮かべたグランが、俺の手を取って起き上がった。


「なあ、トゥエイト。今日の放課後、空いてるか?」


「……空いているが」


「じゃあ少しだけ付き合ってくれねぇか? 話したいことがあるんだ」


 いつになく真剣な表情で告げるグランに、俺は不思議に思いながらも頷く。


「分かった」




 ◆




 放課後。

 俺は人の気配がない裏庭で、グランと合流した。


「悪いな、忙しい時に来てもらって」


「お互い様だろう。それで、話とは?」


「弟子にしてくれねぇか」


 単刀直入に告げるグランに、俺は一瞬、反応が遅れる。


「俺を、弟子にして欲しい」


 改めてグランは告げた。

 その意図は……まるで理解できない。

 黙り込む俺に対し、グランは説明する。


「事情があってな。どうしても最終日のウォーゲームに出場したいんだ。でも獅子組は、ウォーゲームに出場する選手を英雄科の生徒だけで固めている。……そいつらを引きずり下ろせるだけの実力が欲しい」


「……いいのか? 鷹組の俺に、獅子組の内情を伝えて」


「今の俺にとっては二の次だ」


 そう告げるグランは、かつてないほど真面目な面持ちだった。

 グランは筋骨隆々の強面で誤解されがちだが、相手の気持ちを汲み取れる優しい男である。そんな男が、競技祭のために一丸となっている生徒たちの気持ちを二の次と言い切るのだから、よほどの事情があるのだろう。


 トリを飾るウォーゲームに参加して目立ちたい……なんて安易な理由ではない筈だ。そんな軽薄な男ではない。


 最終日の種目は、遠隔射撃式の魔法を撃ち合うアローレインと、魔法でパフォーマンスを披露するパレード、そして五対五の真剣勝負であるウォーゲームの三つである。このうちグランが出場できるとしたら、ウォーゲームしかない。


 ウォーゲームに出場したいというより、最終日の種目に出場したいのではないだろうか。

 初日と二日目には存在せず、最終日のみ存在する要素とは何か。


 最終日は――テラリア王国とヴァーリバル王国の首脳が、見学にやって来る。


「グラン。お前、ヴァーリバル王国の出身か?」


「……勘が良すぎるぜ、トゥエイト」


 もしグランが、テラリア王国の首脳陣と関わりを持っているなら、テラリア王国の暗部で働いていた俺の耳にもその情報が入っている筈だ。そうでないなら、もう一方のヴァーリバル王国の関係者ではないかと考えたが……正解したらしい。


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