モモタローと獣人エリ
ファンタジーものの桃太郎です
——モモタローよ。行くのだ! 我らが果たせなかった悲願をどうか果たしてくれ!!
そんな声が頭をよぎった様に感じて、モモタロー目を覚ます。
既に焚き火は燃え尽き、辺りは冷ややかな静寂で包まれ、月の光で神秘的に木々や地面にはびこる苔などを輝かせていた。
——まだ辺りは暗い
そう脳が認識し、身体を再度眠りにつかせようとしている。
だが眠りにつくわけにはいかない、とモモタローは眠気を払う様にして頭を振る。
まだ昨日の疲れが残っているだるい身体を無理に動かし、上体を起こす。
モモタローは背伸びをすると、立ち上がり、近くで月が映し出されている泉に向かって歩き出す。
そしてそのしなやかな身体を屈ませ、泉の水に手を浸け、椀の様にした手のひらで水をすくう。
指と指の隙間から漏れ、滴る水をチラチラと見ながら、手のひらの水で顔を洗う。
その瞬間、ぼんやりとしていた意識が鮮明になる。
そしてモモタローは泉に映し出されている、月とは違い、小さく不規則に動いている光を見つけ顔を上げる。
——神秘
まさにその言葉がふさわしかった。
何百、いや何千ものホタルがゆらゆらと空中に漂いながら光を見せつけてくる。
そんな神秘的な光景にモモタローは感嘆の声を漏らした。
自然からのちっぽけなプレゼントを渡されたモモタローは元いた場所に戻る。
まだ生暖かい熱を保っている焚き火の上に乾いた枝を置き、火打ち石で火をつける。
そして昨日の残りである粥が入った鍋を火にかける。
モモタローがいる空間が少し温まり、モモタローは荷物から地図を広げ、指で伝いながらまじまじと眺めた。
「現在地はここか。そして次に目指すのが——」
次の言葉を言おうとした時、近くでガサガサと草が鳴る。
「——鬼か!?」
モモタローは目にも留まらぬ速さで刀を取り、警戒態勢をとる。柄に手を掛けて、すぐにでも鬼を切れる様に腰を深く落とす。鬼と決まったわけでもないが、こんなまだ薄暗い時に行動するのは鬼と夜行性の動物しかいない。だからモモタローは鬼が来るのを警戒している。
だがいくらたってもその正体は姿を現さない。
モモタローは更に警戒する。相手も警戒しているということは、それなりに頭が切れる鬼の可能性が高いからだ。
「——ッ!!」
次の瞬間、それは現れた。
「何者だ?」
モモタローはそれに声を掛ける。
目の前に立っているのは、鬼ではない、頭にふかふかの耳を生やした獣人だった。
その獣人は降参する者の様に両手を上げると、その小さな腹をぐう〜、と鳴らした。
——そういうことか
目の前に立っている獣人は腹が減っているらしい。
証拠に俺の作った粥を、ヨダレを垂らしながら見つめている。
モモタローは刀を地面に置いた。
「こちらに来い。食わせてやる」
その言葉を聞いた瞬間、その獣人は耳をピコピコと動かしながら駆け寄って来る。
そして一言。
「全部、食べていい?」
無礼極まりない。しかしモモタローは快くそれを受け入れた。
横にちょこんと座り、すぐにでも粥を食べようとしている獣人を少し待て、と制止し、グツグツと煮えたぎる粥の入った鍋の中に、塩を少し入れる。
「ねえ、まだー?」
「いいぞ、食べろ」
優しく、そしてよし、の言葉が含んだ声色でそう言うと、獣人は木のスプーンを持ち、ガツガツと食べ始めた。
熱くないのか?、と心配するモモタローだが、心配は不要だったらしい。
鍋の粥は既になくなり、満足した様子の獣人が横に座っていた。
すると満面の笑みを浮かべて一言。
「これからもよろしくね!」
◆
彼女、エリは、今も横に並んで立っている。
出会って早々、無理なお願いをしてきた彼女はそれから、いつも鬼の討伐について来る様になった。
危険だからついて来るな、と言ってもちょこちょことついて来る。
モモタローも最初は本気で制止してた。だが、鬼の討伐を受けるたびに、それは本気ではなくなってきていた。
それはただ単に強かったからである。
見た目とは裏腹に、鬼の急所をナイフで突き刺し。次々に討伐していった。
そう、鬼を倒すたびに、モモタローとエリは互いにその力を認め合い、絆を深めていった。
——そして今、この時。鬼達のリーダーと思われる鬼と対峙していた。
鬼は大きな咆哮を辺りに撒き散らすと、こちらに向かって突進してきた。
だが、モモタローとエリは動じない、それどころか余裕の顔を浮かべている。
鬼の加速した強靭な肉体がぶつかる瞬間、エリは真上に跳躍。モモタローは左に勢いよく飛ぶ。
鬼は一瞬よろけるが、跳躍したエリを視界に止めようと上を向く。
だがもう遅い、上を向いた瞬間。エリが空で身体を捻らせ落下の勢いと捻らせた勢いをつけたナイフが、鬼の目めがけて突き刺さった。
鬼の目からは血が勢いよく吹き出て来る。ナイフを抜くと、そのまま鬼の顔を蹴って、すたんと安全圏へ着地。
——瞬間
「——ハァアアアッ!!」
下で待機していたモモタローが気合の咆哮とともに、鬼に向かって右足を踏み出した。
その勢いで、地面が一瞬にして割れ、弾丸のごとく黒い線が鬼めがけて放たれた。
空中で空気抵抗を物ともせず、ぎらりと光る刀を鬼の脇腹に突き当て、そして一瞬で振り抜いた。
しかし、硬い皮膚は血を噴きださせるだけで致命傷をもたらさなかった。
そして鬼は痛む目を手で押さえるのをやめ、手に持った大型の剣を自らが核となり、勢いよく一回転させた。
だがそんな遅い攻撃はモモタロー達には当たらない。
それどころか自分自身に隙を与えるだけであった。
——瞬間
鬼は自分の持っていた武器が弾かれ、その勢いで後ろによろめいた。
モモタローが己の刀で弾いたのである。
そこからモモタローは一斉に攻撃を始めた。
「ハァァァア!!《龍河洞一水/鬼喰い一刀》!!」
身体を刀と一体化させた様に自らも唸るモモタロー。全身が刀の様に跳ね、刀身が空をヒュウ、と切り裂き鬼の右腕をめがけて振り降ろされていく。
そして強靭な腕を二つに切断した。二面の切断面は刀とモモタローの全身で生み出した衝撃波によって、その断面を更にえぐり取る。
——叫ぶ鬼
しかしモモタローの斬撃はまだ終わらない。
「《龍河洞一水/刺死》!!」
鬼の身体を伝う様に回転しながら刀を突き立てその硬い皮膚から血を噴きださせる。
胸の辺りまで来た時、刀に感覚を研ぎ澄ませ気を込めた。
モモタローは腰を跳ねあげ、その反動と気を込めた刀身で心臓とその周辺の肉を円形に吹き飛ばした。
大量の血肉が背中から吹き出させながら鬼は倒れた。
ストンと着地したモモタローにエリは駆け寄っていく。
そして二人は勝利の余韻を残し、仲良く肩を並べながら自分達の居場所へ帰る。
——今日なにして食べるの?
——お前は食いしん坊だな。今日はあの時みたく粥を食べよう
——えぇー、肉がいいー
——しょうがない、肉も一緒に食おう
——やったー! モモタロー大好き!!
END




