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おっさん竜師、第二の人生  作者: 謙虚なサークル
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おっさん、追跡する

 ドルトはまっすぐ、西へと竜を走らせていた。

 基本的にはニオイを頼りに、そして時折、竜を降りては足型の消し忘れを頼りに。

 進むにつれ、ニオイは徐々に薄れてはいたが、足跡はよりくっきり残るようになっている。

 どうやら完全に油断しているようで、足跡を消すのも雑になっているようだ。

 そして、先刻竜舎で見つけた以外の足跡も増えつつあった。


「む……」


 だが、無数にあった足跡が突如ぱったりと途絶えた。

 恐らく入り口の付近なのだろうと推測できた。


「さて、終着点は近いかな……?」


 ドルトはそう呟いて、ぐるりと周囲を見渡す。

 周りには短い草が繁茂し、まばらに木が立っていた。

 川が流れ、断崖絶壁の向こうには滝が流れていた。

 見晴らしはそれなりによい――――にもかかわらず、それらしき場所は見当たらなかった。


「足跡から察するに、竜の数は十頭ほどだろう。他にも竜がいると考えれば、それなりに広いスペースが必要なはずだ。見つけられないことはないはずなんだがな……」


 そう呟きながら、ドルトは辺りを注意深く探る。

 ここが盗人の本拠地であるならば、見張りの一つもいるはずだ。

 見張りに見つかっては、たった一人のドルトなどひとたまりもない。


「ちょっとここにいてくれな」

「グルゥ」


 ドルトは乗ってきた竜に待てと命じると、警戒しながらそれらしき場所を探し始める。

 平地にはところどころ盛り上がっている丘があり、もしやその中かと思い近づいて見たがニオイからするとむしろ遠ざかっていた。

 こちらではないと判断したドルトが次に向かったのは林の中。

 木々で竜の姿が隠せるこの場所にいるやも……と思ったが、やはりニオイは遠ざかっている印象を受けた。

 そもそも何より餌になりそうな動植物も見当たらず、移動もしにくいため、竜を飼うには都合が悪い場所に思えた。

 よって、却下。


「残るは崖下だが……うーん、ここは降りられないだろうなぁ」


 よく訓練を積んだ竜なら降りる事も可能だろうが、攫った竜はファームのものである。

 ファームの竜は騎竜としての訓練は受けていないため、そんな芸当は出来ない。


「なら、川……?」


 そう呟きながら、ドルトは川に近づいた。

 川からは確かに、竜特有のニオイが濃く臭った。

 だがそこでぱったりと途絶えており、ドルトは首を傾げる他ない。


「……ん?」


 ふと、ドルトが見つけたのは石についた傷跡である。

 それが竜の爪によるものだと分かったドルトは、その石が水に濡れていることに気付いた。

 更に水の中に視線を落とすと、水底の石にもところどころ傷がついているのが見えた。


 石を辿っていくと、どうやら崖に向かっているようである。

 川岸に辿り着いたドルトがよく岩壁を見てみると、真上からでないとわからないような足場が見えた。

 足場は竜でもないと降りられない程に急で、実際竜の爪痕もついていた。


「ここから下に降りた……? とにかく行ってみるか」


 ドルトは竜を呼び寄せると、足場を伝って下へと降りる。

 難易度は高くなく、これならファームの竜でも楽に降りられると思えた。

 ひょい、ひょいとど二段飛ばしで石の足場を伝い崖下へと降り立つドルト。

 どどどと鳴り響く滝の音が五月蠅い程に聞こえていた。

 足跡は滝の方へと続いており、丁度ドルトの位置からは洞窟のようなものが見える。


「なるほど。滝の裏に入口を隠してあるのか。……よく考えたもんだ。あれならそう簡単には見つからない」

「ガルル……」


 ドルトの傍らで竜が鳴く。

 それに振り返ったドルトと、見知らぬ男の目が合う。

 滝の音に気を取られ、二人とも互いに気付かなかったのだ。


「何者――――ッ!?」


 声を上げかけた男の口を、ドルトは思いきり掴んで石壁に叩きつけた。

 ごふっ、と苦悶の声を漏らし、男はドルトの腕を外そうと力を込める。

 だがその膂力は大きな差があり、とてもではないが男にはどうしようも出来ずじたばたと暴れるのみだ。

 息が出来ず、顔を青く染る男を睨み付け、ドルトは言った。


「声を出すな。大人しくしろ。そうすれば緩めてやる」

「――――ッ! ッ!」


 男は必死に、何度も頷く。

 ドルトは手に込めた力を少しだけ緩めて、男を下ろした。


「げほっ! げほっ! ぐえぇ……!」

「声を出すなと言ったはずだ。静かにしろ」

「わ、わかった! わかったからそんなに睨まねぇでくれよ……」


 男は咳き込みながらも小声になる。

 どうやら反抗の意思はないようだった。


「大人しく答えろ。お前ら、竜を盗んでるのか?」

「……あ、あぁそうだ。昔からそうやって生きてきた。そうでもしねぇとやってけねぇんだよ! なぁ頼む、家には女房子供がいるんだ。命だけは助けてくれ!」


 怯える男に、ドルトは更に睨みを利かせて言う。


「……いいだろう。俺は人の命を奪って喜ぶ趣味はないからな。だが拘束はさせてもらう。もし逃げるようなら――――」

「……わかった! 絶対逃げない! だから助けてくれ!」

「いいだろう。じゃあこっちに来い」


 ドルトは男を木に縛り付けると、その傍に竜を置いて滝の裏側へと入っていく。

 滝を横手に奥へ進むと、ぽっかりと空いた穴が見えた。

 竜一頭が通れるほどの大きな穴。

 どうやらここで間違いはないと、ドルトは確信した。


 辺りを警戒しながら中へと進んでいく。

 所々に松明があるとはいえ、中は薄暗く、足元がようやく見えるような空間だった。

 しばらく進んでいくと、見張りらしき男が立っているのが見えた。

 どうやら商人らしき男と話をしているようで、ドルトは二人の会話に耳を澄ませる。


「おい、ガルンモッサへの出荷分は入手してきたのか?」


 商人風の男が言った。


「はい、へへへ、今丁度盗んできたところですぜ」


 見張りらしき男が答える。

 商人風の男は、見張りの男を不満そうに窘める。


「おい、盗むだなどと、人聞きの悪い事を言うんじゃない」

「そうは言いますがねぇ。別に誰が聞いてるわけでもないでしょう?」

「ふん、まぁそれはそうか。仕事をすれば問題ない」

「へーい」


 二人はそんな会話を交わしながら、奥へと入っていく。

 それを聞いたドルトは、信じられないと言った顔で呟く。

 

「ガルンモッサが、そんな事を……?」


 確かに、ドルトは団長から竜が逃げて困っていると聞いていた。

 だが手紙で相談を受け、最近はどうにか持ち直しつつあると言う話も出ていた。

 そんな団長が竜を盗むなんて、やるはずがない。

 なのに何故……疑問に思いながらも、ドルトは一つの可能性に気づく。


「まさかあの人まで、クビになったのか……」


 あり得る話だった。

 先日の交竜戦での敗北は、あの王を怒らせるには十分だったであろう。

 だが幾ら何でも竜騎士団団長の座を追われる程の失態ではないはずだ。


 恐らくあの人は、ヴォルフ団長は余計な言い訳などしなかったのだろう。

 黙って言われるがまま、王の言葉を受けたのだ。

 長くヴォルフと共に居たドルトには、その事がよくわかっていた。


「何やってんだよ、団長……!」


 思わずそう呟いたドルトは、拳を強く握りしめる。

 悔しさ、悲しさ、憤り、様々な感情が綯交ぜになった言葉だった。

 地面を見つめていたドルトだったが、しばらくして前を向いた。


「だったらせめて、俺が止める……!」


 新団長が何者かは知らないが、他国から竜を盗み出すような輩がまともなはずがない。

 それを知らしめる。

 そう心に決めたドルトは、ゆっくりと進み始めるのだった。


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