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おっさん竜師、第二の人生  作者: 謙虚なサークル
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おっさん、調査する

「ひどい……!」


 遅れて辿り着いたセーラが、ドルトのすぐ横で声を漏らす。

 それ程、ひどい惨状だった。


「なんてことを――――」


 飛び出そうとするセーラの腕をドルトは掴んだ。

 振り向くセーラに首を振って返す。


「そこで待ってろ」

「でも……!」


 ドルトはセーラの手を掴んだまま、地面を見た。

 踏み荒らされた砂地には、無数の足型が付いていた。


「沢山の竜が踏み荒らした跡がある。下手に踏み入れば、足跡が消えてしまう。だから入るのは俺だけだ」

「む……踏まないようにちゃんも気をつけるわよ!」


 侮辱されたと思ったのか声を荒げるセーラの額に、ドルトは人差し指を突き当てる。


「信用してないわけじゃないが、足跡には流れがあるんだよ。他の者で混乱してしまうからな。だからセーラはここで待っていてくれ。それに中に犯人がいるかもしれないだろう? そうなったら助けを呼ぶから、躊躇なく入ってきてくれ」

「……そこまで言うなら、わかったわよ」


 不服そうではあったが、セーラは渋々ドルトに従う。

 そして、ドルトだけが竜舎の奥へと足を踏み入れる。

 静かに、出来るだけ痕跡を消さぬように、注意深く。

 ドルトが警戒しながら進んでいくと、木製の仕切りの向こうには倒れ伏す中年の男がいた。

 恰好から推測するに、どうやらファームの主人のようだった。

 ドルトは急いで駆け寄ると、男を抱き起こす。


「おい、大丈夫か? 何があった」

「う……り、竜が……」

「しっかりしろ! ……くそ、気を失ったか」


 男はそれだけ言いかけて、気を失ってしまった。

 仕方なくドルトは主人を担ぎ上げると、外へと運びだした。


「おっさん!? ……こっちの人は?」

「ファームの主人のようだ。とりあえず任せる」

「わかった……けど、おっさんはどうすんのよ」

「もう少しこの足跡を調べてみるよ」


 そう言うとドルトは男をセーラに渡し、地面に顔を擦り付けるようにして足跡を調べ始めた。

 竜を見る時と同じ、真剣な目つき。

 こうなるとテコでも動かないことを知っていたセーラは、ため息を残しその場を離れる。


「小屋に連れてく。介抱してくるわ」

「頼む」


 ドルトは静まり返った竜舎の中を、両手をついて顔を屈め、這いずり回る。

 小さくついた無数のくぼみ、爪のひっかき跡、その他諸々の痕跡……

 ひとしきり調べ終えたドルトは、遠く荒地の向こうを見やる。


「……なるほど、大体わかった」


 そう言い残し、小屋へと足を向けるのだった。



 小屋ではセーラが男をベッドに寝かしつけたところだった。

 戻ってきたドルトをセーラは迎える。


「どうだった? 何か面白い物でも見つかったかしら?」

「あぁ、いろいろ分かったよ。そっちは?」

「幸い大したことはないみたい。すぐに目を覚ますと思うわ。……っと、言ってる傍からか」

「……うぅん」


 噂を擦ればというべきか。

 男は呻き声を上げ、のそりと身体を動かした。

 ゆっくりと目を見開き、辺りの状況を確認すると、慌てて飛びのく。


「うわぁ!?」


 ベッドから落ちそうになる男の手を、ドルトは掴んだ。


「大丈夫ですか? お気を確かに」

「え、えぇと……あなた方、は……?」

「アルトレオ竜騎士団のものです。あなたはファームの主人ですね?」


 今度はセーラが言った。

 男はこくこくと頷いた。

 しばらく呼吸を整えながら黙っていた男は、おずおずとドルトに問う。


「あ、あんたもしかして竜師か?」

「そうですが……」

「やっぱり! その手についたすり傷はそうだと思ったんだ! よかった……ちくしょう! お天道様は俺を見捨てちゃあいなかった……!」


 男は勢いよくベッドから跳ね起きて、二人の手を取った。

 そして、すがる様な目で見つめられ、ドルトとセーラは顔を見合わせた。


「なぁ助けてくれよ! 竜が……竜が盗まれちまったんだ!」

「盗まれた……?」

「あぁ! 突然竜に乗った男たちが五、六人で押し寄せてきやがってよ。ウチで育ててた竜を盗んでいきやがったんだ! くそう! あの野郎どもめ!」


 男は悔しそうに全身を震わせながら、ぽつぽつと語り始める。


「あれは……そう、丁度昼飯を食い終えて竜たちを散歩にでも行かせようとした時の事だ……竜を連れて出ようとした俺の前に、突然竜に乗った男たちが現れてこう言ったんだ。『死にたくなきゃあその竜を寄越せ』ってさ。もちろん反抗しようとした! だが相手の人数も多いし、武器も持っていた。……俺だって死にたくはねぇ。だから……」

「渡したのですね」


 男は、悔しそうにうなずく。

 ドルトは男の震える肩に手を載せた。


「わかりました。では私たちが何とか取り返して見せましょう」

「おお! なんと……なんと頼もしい……っ! すまねぇ! 本当にありがたい!」


 男はドルトの言葉に、涙を流して礼を言うのだった。

 その様子を、セーラは訝しむ目で見ていた。



「ちょっとおっさん、いいの? そんな安請け合いしちゃってさ」


 男を置いて部屋から出たドルトに、セーラは声をかける。

 そのまま外に出てた二人は竜舎へと向かう。

 改めてセーラは地面を見渡すが、足跡がついている様子はない――――否、正確には足跡を消した(・・・)後がついていた。


「……見てよこれ、多分ホウキみたいなので消したんでしょうね。足跡を辿られないために……これじゃどこにったかわからないわ。どうやって見つけるつもりなの?」

「さっき言っただろ? いろいろ分かったと」


 そう言うとドルトは、竜に跨る。そして真っ直ぐ西の方を向いた。

 まるで竜の連れ去られた方向が分かっているかのように。


「ま、マジに分かってるの!? 何を根拠に?」

「ニオイさ。興奮した竜は特有のニオイを強く出すからな」

「犬かっ!」


 ツッコミを入れるセーラにも、ドルトは気にせず続ける。


「本当だとも。交竜戦とかをしたら、臭くてかなわないぞ。ちなみにセーラも強くこびりついている」

「うそっ!? ……毎日お風呂は入ってるんだけどなぁ……」


 自分の袖を鼻に近づけ、くんくんとニオイを嗅ぐセーラ。

 だが特にニオイはしなかったようで、首を傾げた。


「ニオイは西の方から漂ってくる……足跡だって完全に消せてはいない。竜の足型には特徴があるからな断片でも残ってれば、特定は楽勝だ」

「なんていうか……本当に竜マニアなのね。呆れるわ」

「このくらい普通だろ」


 逆に不思議がるドルトだが、もちろん普通なはずがなかった。

 例えばケイトなどは、時折竜の区別すらついていないのをセーラは知っていた。


「……ま、そういうことにしておくわ」

「というわけで俺は盗まれた竜を追う。セーラは一旦城に戻り、応援を呼んでくれ。今は荷物もあるしな」

「わかった。稲は任せなさい。でも……無理はしないで」

「もちろんだ。……なんだよ、可愛いこと言うじゃないか」


 からかうようなドルトの言葉に、セーラは顔を赤くして言い返す。


「は、はぁ!? 別に心配してるとかじゃないんで! 勘違いされても困るわよ!? それよりどうやって連絡取るつもりよ? 単独行動してるおっさんなんか見つけられるわけないでしょ!」

「それは大丈夫だ。レノに案内させればいい。あいつには迷子になった時の為に、俺を追えるように躾けてあるからな」

「……なら、いいけどさ」

「それじゃ、行ってくる」

「……うん」


 ドルトは竜に詰んでいた苗を下ろすと、そのまま西へと向かっていく。

 セーラはそれをしばし見送った後、自分もアルトレオへと帰還するのであった。


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