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おっさん竜師、第二の人生  作者: 謙虚なサークル
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新団長、奮闘する。後編

「何? あの二人、辞めおっただと?」


 副長の報告に、レビルは驚きの声を上げた。


「は、今日の朝一番で退職届が届きました。辞めさせて貰う……との事で」


 副長はそれだけに留めたが、退職届は過分な罵声雑言で記されていた。

 余程の恨みを持って書いたのは明らかだった。


「ふざけおって! あれだけ目をかけてやったと言うのに! 最近の若いもんは根性がなっとらんッ!」


 レビルは苛立ちを隠そうとせず、机を殴りつけた。

 副長はさらに報告を続ける。


「それと、言われた通り治療中の竜を全て逃してきました……が、現在数匹が街周辺まで戻って来ています。作物や家畜に被害が出ていますが……」

「適当に追い払っておけ。野良の竜だという事にしておけよ。どうせ平民共にわかりはしないだろうがな。……それより竜の買い付けに出る。しばらく留守にするが、戻るまでに竜舎を空けて受け入れら体制を整えておけよ。第二竜舎まるまるだ」

「そこまでの数なのですか?」

「うむ、言うまでもないが、世話係の手配も忘れるでないぞ。では任せた」


 副長にそう命じ、レビルは足早にその場を立ち去る。

 しばしぽかんとしていた副長だったが、近くに誰もいないのを確認し壁を蹴りつけた。


「くそっ、無茶苦茶を言ってくれる! なんだあの丸投げは! ……あぁ、ヴォルフ団長がいた頃はただついて行くだけで良かったんだがなぁ」


 頭をガシガシと掻きながら、副長はまずはやめた人間の再募集をかける事にした。

 条件に煩いレビルがいないのは幸いだった。

 とりあえず適当に何人か集めて、彼らは腕利きだとでも嘯いて誤魔化そうと思った。


「募集要項は……そうだな、年齢は35歳前後、未経験者歓迎、給金は……まぁ上げない方が無難か」


 副長は完成させた書類を部下に渡し、早速街へと張り出すよう命じた。

 翌日には、御触書の前で数人が集まっていた。


「おい、竜の世話係の募集だってよ。誰にでも出来る簡単な仕事らしいぜ」

「だが竜の世話なんてのは危ない仕事なんだろ? 給金も随分安いしよ」

「宮仕えってのは魅力かもなぁ」


 わいわいと話し合う人だかりに、割って入ったのは若い男の二人組だった。

 先日辞めたばかりの男二人だった。


「おい、この求人募集はロクなもんじゃねぇぜ。ゴミみてぇな扱いで、毎日夜遅くまでこき使われるぜ?」

「あぁ、よっぽどのマゾでもなきゃお勧めできないぜ。やめとけやめとけ」


 先日の二人はガルンモッサ竜騎士団の悪口を、周りの人間に吹聴し始めた。

 二人は御触書の前に立って、声を上げ続ける。


「給金は安いし、上役も下衆下劣、まともな扱いもされぬ!」

「あぁ全く! ここで働くくらいなら、下水のネズミ退治でもしていた方が余程ましだ!」


 ……そんなやり取りを、二人は巡回の兵士の目を盗んで何度か行った。

 それを知った副長は見張りの兵を置いたが、時すでに遅し、元々素行の悪いガルンモッサ竜騎士団にはすでに悪い噂が流れており、結局募集に集まった者は職にあぶれた三人しかいなかった。


「……採用」


 副長はため息を吐きながらも、彼らを迎え入れるしかなかった。


 だが彼らもそう長くは続かなかった。

 レビルに詰められるであろう竜師の焦りと、新人故の未熟さが相まって、職場の雰囲気は厳しいものだった。

 元々竜の世話自体がきついという事もあり、それでは続くはずもない。

 それでも募集を繰り返し、残る者も多少はいた。

 ようやく残ったのは三人の食い詰めた者たちであった。

 もはや贅沢は言えず、これで現状を維持するしかなかった。




 数日後、レビルが帰還した。

 出迎えた副長が見たのは、十頭を超える数の陸竜だった。


「こ、これだけの竜を買いつけてくるとは……一体どんな手を使ったのです?」

「くくく、人脈だよ人脈。いいか? これからの時代は人脈が物を言う。よく覚えておくのだ」

「……はぁ、流石でございます」


 得意げにそう言われると、副長はそう返すしかなかった。

 見ればレビルは後ろに怪しげな商人を連れていた。


「この者が竜を格安で売ってくれたのだ」

「これはこれは、ガルンモッサ竜騎士団副長殿。お初にお目にかかります。私はしがない竜商人でございます。名乗るほどのものではございませんが、よろしくお願いいたします」

「う、うむ……」

「では、竜を運びましょうか。レビル様」

「そうだな。副長よ、案内してやれ」

「ハッ」


 竜商人を連れ、副長は用意してあった第二竜舎へと入っていく。

 二人きりになった副長は、商人に問う。


「しかし、これだけの竜をどうやって集めたのだ? どうやら様々な国の竜のようだが」

「おほっ、それがお分かりになるとは。素晴らしい慧眼だ。流石はガルンモッサ竜騎士団副長殿」


 商人の誉め言葉に、副長は気を良くした。


「まぁ、な。長く竜と触れ合っておればこの程度は造作もないよ」

「そこで謙遜されるのも、憎いですなぁ」

「……ふん」


 副長が上機嫌で鼻を鳴らし、商人はそれを褒め称えた。

 商人は小声で続ける。


「実はこの竜たちは様々な理由にて処分されそうになったのを買い取ったものなのですよ。だから格安で仕入れられたのです」

「何と。言われて見れば確かに、細かなキズのついた竜が多いな」

「えぇ、ワケあり品というわけですなぁ」


 副長は商人の言葉に納得がいった。

 処分用の竜であれば、安いのは道理。

 しかもこれらの竜は少々キズはついているものの、その身体機能は問題ないように見受けられた。

 それよりも副長は、竜たちの目が気になった。

 どこか怯えているような……とはいえ処分用ならこんなものかもしれないと、思い直した。


「そういう訳ですのでどうか、他言なさらぬようお願いいたします」

「よかろう。由緒あるガルンモッサ竜騎士団がそのような竜を買い付け、使っておると知られればこちらのイメージも悪い。この事は互いに他言無用としようぞ」

「ははーっ! ありがとうございます!」


 こうして竜舎には、多くの竜が運び込まれた。

 それは何度かに渡って続き、がらんどうだったガルンモッサ竜舎は全盛期の頃を取り戻していた。

 同時に募集をかけていた竜師もポツポツとではあるが増えていき、ガルンモッサ竜騎士団は徐々に復活しつつあった。


 ただし、それはハリボテ。

 竜師は素人、竜は騎竜としての経験が浅い竜ばかりで、毎日がてんやわんやであった。

 それでもガルンモッサ王が気をよくするには十分であった。

 何せ我が子であるレビルの活躍だ。

 喜ばぬはずがなかった。


「流石じゃレビル! 我が息子よ!」

「ふっ、当然でございます。父上」

「うむ、うむ、ふはは! こんなことならヴォルフなどさっさとクビにして、最初からこうしておけばよかったわい!」


 玉座の間にて、王はレビルを手放しで褒め称えていた。

 レビルは頭を上げて、王を見上げた。


「誓いましょう、父上。このレビルめがガルンモッサを再び大陸最強へと押し上げるという事を!」

「うむ、うむうむっ! よくぞ言った! レビルよ、お前こそ次期国王にふさわしい! 皆の者、拍手を!」


 おおおおおおおおお! と、レビルに割れんばかりの拍手が浴びせられる。

 レビルは俯き、それをただ浴びていた。

 その面下では口角を歪めながら。

  

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