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おっさん竜師、第二の人生  作者: 謙虚なサークル
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新団長、奮闘する。前編

 ガルンモッサには、城を囲うようにして数か所、竜舎がある。

 陸竜の舎が五つ、飛竜の舎が一つ、小飛竜の小屋が更に二つ。

 兵舎の近くに置かれているのは、いつでも外敵を迎え打てるようにである。

 だが、以前は竜舎にぎっしり詰まっていた竜たちは、今はもう半分ほどしかいない。


 ドルトが辞めた時から始まった脱走、それから怪我や病気などでゆるゆると数は減っていった。

 一度はヴォルフの奮闘により竜の死亡や脱走に歯止めがかかっていたが、今やそのヴォルフもいない。

 そんな竜舎の中を、新たに団長となったレビルは副長を連れ歩いていた。


「どうも弱っている竜が多数おるようだな」

「ハッ、ここ第二竜舎では現在治療中の竜ばかりが集められていますので」

「面倒だ。逃がしてしまえ」

「え……か、構わないのですか?」

「構わぬ。治療費分を考えれば、新品を買った方が安くつくであろう? 少しは考えろ」

「それは……ハッ、わかりました」


 ――――あまりに早計では? そう言いかけた副官だったが、口には出さずレビルの命令に頷いた。

 下手に口答えなどして、気分を損ねたらまずいと思ったのだ。

 下士官から成りあがった副長は、その手の機敏を読むのが上手かった。

 レビルは副官に気を遣うそぶりもなく、ずんずんと竜舎を進んでいく。

 今度は餌箱を見てそれを睨んだ。

 

「何故餌が統一しておらぬのだ? これではいらぬ手間がかかるだろう。同様のものを大量に買った方が安く済むだろう」

「竜の体調や、好み、肥満度に応じて変えろと。ヴォルフが指示しておりました」

「今あるのを使い切ったらすぐに人工飼料に買い替えておけ。無論、一番安いやつでな」

「ハッ、わかりました」

「ふむ……しかし体調管理か。確かにそれは重要かもしれんな。あの老人も辞めさせたし……よかろう、新たな竜の世話役を雇い入れるとしよう」


 老人はヴォルフ指示のもと竜の世話をしていたこともあり、様々なノウハウを持っていたのだが、ほぼ無理やりに辞めさせてしまった。

 もちろんレビルに仕事の引継ぎなどという考えがあるはずもない。

 レビルは取り出した紙にさらさらと文書をしたためる。


「この要項に従い、求人のお触れを出しておけ」


 それを見た副長は、眉を顰めた。


「……年齢は18から25まで、加えて給金も他業種の七割程度しかないのですか。これは……少々条件が厳しくありませんか?」

「何を言う。名誉ある宮仕えだぞ? 喜んで集まってくるに決まっておるではないか」

「し、しかし! それならせめて給金くらいは多めにしてもいいのでは……これでは生活も出来ますまい」


 あまりに無茶な条件に、いかんと思いながらも論を返す副長。

 だがレビルは、大きく目を見開き副長を怒鳴りつけた。


「馬鹿者がッ!」


 おおきな言葉に副長はびくんと肩を震わせた。

 レビルは副長に顔を近づけると、さらに声を荒げる。


「竜の世話係如きにそんな大金は出せるわけがあるまい! それに募集しているのは若者のみだ。ニ、三日食べずとも死にはせんッ!」


 無茶苦茶、かつ筋も道理も通らぬような言葉だったが、副長はその迫力につい頷いてしまった。


「……お、おっしゃる通りでございます」

「うむ、やはり貴様もそう思うか。では募集をして来い。人が集まらねば貴様のせいだぞ!」


 言いたいことを言って満足したレビルは、副長を置いて竜舎を後にした。。

 副長は苦心し、悩み、一枚の御触書を書き出した。


 ――――誰にでも出来る仕事であること。

 ――――憧れの宮仕えであること。

 ――――やりがいがあること。

 ――――気軽に応募して構わないこと。


 それを重点に置いた、お触れ書き。

 並べられる甘言は全て並べた、副長会心の出来であった。


 その甲斐あって、数日後の面接会には十人以上が集まった。

 入ってきたレビルは、しかしその者たちを不満げに一瞥した。


「……なんだ、妙に少ないではないか」

「いえいえ、十分すぎるほどですとも! 民間の募集ではこれほどの人数は集まりますまい! 流石は新竜騎士団長殿であります!」

「そういうものか? ふん、まぁいい」


 なんとかレビルの説得に成功し、副長は胸を撫で下ろした。

 レビルは全員の顔を見渡すと、二人の男を指差した。


「ではそうだな……お前とお前、ここに残れ。あとは帰ってよし」

「な……!?」


 レビルの言葉に、副長も含めたその場の全員が声を上げた。

 思わず副長はレビルに問う。


「お待ちください。流石に一言、二言くらいは話をしてもいいのでは?」

「ふふん、俺の人を見る目は確かだ。使える人間がそうでないかくらい、目を見ればわかる。この二人以外はゴミだ。役立たずの目をしている」


 得意げなレビルの言葉に、集まった者たちは不服そうな顔をしていた。

 残れと言われた者たちですら、どこか戸惑った様子だった。

 帰れと言われた者たちが、レビルに食ってかかる。


「ちょっと待ってくださいよ、それは納得がいきません!」

「そうだ! 見ただけで何がわかる!」


 抗議する者たちを見て、レビルは口の端をゆがめた。


「くっくっ、馬鹿どもが。そうしている時点で口答えばかりする役立たずと自ら証明しているではないか。そら早く消えて失せろ。兵を呼ぶぞ」

「ぐ……く、くそ!」


 騒ぎを聞きつけた兵たちが、槍を手にして近づいてきた。

 抗議をしていた者たちは、渋々散っていく。

 残った男二人を見下ろし、レビルは言う。


「さて、では貴様らにはこれから竜の世話役として働いてもらうことにする」

「は、はぁ……」


 展開についていけず、歯切れ悪い返事をする二人を、レビルはぎろと睨みつけた。


「もっとしっかり返事をせんかぁッ!」

「は、はいぃっ!!」


 そして、思いきり怒鳴りつける。

 二人はびくっと身体を震わせると、声を震わせて返事をした。


「……ふん、いいか貴様ら。金を貰って働く以上、命を賭けるつもりで真剣にやれよ。さもなくば、すぐにでも辞めてもらうからな」

「…………」


 無言で顔を見合わせる二人に、レビルは再度怒鳴りつけた。


「返事はッッ!?」

「はいぃぃっ!!」


 勢いよく返事する二人を引き連れ、レビルは行く。

 慌ててすぐ後ろに続く副長はレビルに小声で言った。


「しかしレビル団長、彼らの教育は如何するのですか?」

「基本的には昔からおる竜師共にやらせる。あくまで上役は竜師、この二人はその実働をやらせる。基本的な体制は依然と同じだ。しかし俺が管理と監督を行うことで、何倍にも効率化されるだろう。ふはははは! そして副長、貴様は第二竜舎の竜どもを全て逃がしてこい」

「は……では夜の闇に紛れ、今夜にでも。……しかし減った分の補填は大丈夫なのでしょうか?」

「うむ、問題ない」

「出過ぎた意見でございました」


 レビルの目は遥か遠くを見据えていた。


「古い体制は今日で終わりだ。これからガルンモッサ竜騎士団は生まれ変わるぞ……くくく、はーっはっはっは!!」


 レビルの高笑いが竜舎に響いていた。


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