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おっさん竜師、第二の人生  作者: 謙虚なサークル
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団長、交代する

 ガルンモッサ玉座の間で、王はヴォルフを睨みつけていた。

 周りには多くの臣下の者たち……大臣、貴族が控えている。

 その場にいたものは皆、ヴォルフに冷たい目を向けていた。


「さて、ガルンモッサ竜騎士団団長、ヴォルフ=ランスロットよ。何か申し開きはあるか?」


 冷たい声で尋ねる王。

 ヴォルフは低く頭を垂れたまま、答えた。


「……何もございません」

「ふん! で、あろうな! 貴様はそういう男だ!」


 つまらなそうに言うと、王は立ち上がり声を荒げる。

 苛立ちを隠そうとすらしていなかった。


「よかろう! 敗北の望み通り責任を取ってもらう! 本来であればワシ自らの手で素っ首落としてやりたいところだが、今までの働きに免じて竜騎士団団長の座を解任じゃ。……あとはそうだな、エルモアへの異動で許してやろう」


 ざわざわと周囲がざわめく。

 エルモアと言えばガルンモッサ北部にある、何もない荒地だ。

 海からの冷たい風で作物もあまり育たず、冬になれば雪が降り、家が潰れることも多々ある。

 人も好んで住む事はない、辺境中の辺境であった。


 なんとむごい、あの団長も終わりか、そんな囁き声がヴォルフの耳にも入ってきた。

 だが、もはやヴォルフの心は凪のように穏やかだった。


「……生意気な男だ。何か言い返してみよ」

「いいえ。やるだけの事はやっての結果です。竜騎士団団長として、これ以上望む事はありません。王の言葉も最初から受け入れるつもりでした。死ねと言われれば、そうするつもりでした」

「ふん! 気にくわぬ男だ! 殺す気にもなれんわ!」

「……ありがたき幸せ、痛み入ります」


 ヴォルフはそう言って、頭を上げることはなかった。

 拍子抜けした王も、それ以上言わなかった。

 そして、「ただの」ヴォルフは玉座の間を去った。




「……さて」


 王の呟きに、その場にいた者たちが色めき立つ。

 団長が放逐された今、その後任を決めなければならない。

 ガルンモッサを支える竜騎士団、その団長の座はこの場にいるもの全てにとって、魅力的だった。

 この座さえあれば、富も名声も思うまま……臣下の者たちの目は自然と輝きを増し、視線は王へと集まる。


「竜騎士団団長の後任だが――――」


 王は言葉を貯め、充分に勿体ぶる。

 全員が皆、息を飲んだ。

 そして、言った。


「――――レビル、お主に頼もうと思う」

 

 王の言葉に、周囲から落胆の息が漏れた。

 落胆の息を漏らさなかった者が、意気揚々と王の前に進み出た。

 王と同じ金色の髪、青い目、どこか面影のある顔。

 年の頃は40前後であろうか。

 彼の名はレビル=ナル=ガルンモッサ、ガルンモッサ王国の第一王子である。

 レビルは恭しく頭を垂れ、王の前に跪いた。


「新たな竜騎士団団長として、見事務めを果たして見せます」

「うむ、励めよ」

「はっ!」


 落胆しつつも、臣下たちはこうなる事を予感していた。

 以前のガルンモッサであれば完全な実力主義……王の血筋だからと言って、それだけで要職に着けるわけではない。

 貧乏貴族の息子であるヴォルフが団長たり得たのも、それによるところが大きい。

 しかし、今はそんなものは完全に崩壊していた。

 前任者が追われればその要職に王の血縁が着く。

 今回もそれが行われただけである。


 尤も、臣下の者とて王の太鼓を持ちあげてここまで成り上がった者たちだ。

 王の血縁とどちらがマシか、程度のものなのだが……ともあれレビルが、新たに竜騎士団団長となったのである。




「さて、まずは前任者のお手並み拝見といくか」


 竜騎士団団長として新たに着任したレビルは、とりあえず兵舎へと向かうことにした。

 廊下を行くレビルの前に現れたのは、ヴォルフであった。


「やはり、レビル様が私の後任になられたのですね」

「ヴォルフか。今までご苦労だったな。恨み言の一つでも言いに来たか?」

「滅相もありません。ただ私の今までの仕事を引き継いでいただこうと……」

「必要ない」


 レビルは、そう言ってヴォルフの言葉を遮る。


「貴様如きの仕事、このレビルに出来ぬわけがあるまい。むしろ古い考えを押し付けられては迷惑だからな」

「しかし……」

「くどいぞ」


 きっぱりと言い切られ、ヴォルフは説得を諦めた。


「……失礼いたしました」

「ふん」


 レビルは勝ち誇ったように笑うと、ヴォルフの肩に手を置き耳元で囁く。


「貴様の役目はもう終わったのだ。あとは私に任せておけ。エルモアは寒いぞ? 防寒着を忘れぬようにな! はーっはっはっは!」


 そして、大笑いしながら去っていく。

 ヴォルフはレビルの背中をただ、見送っていた。




 兵舎では、副長を始め他の者たちが作業を行っていた。

 レビルに気づいた彼らは、急ぎ立ち上がり敬礼をする。


「これは団長! お忙しいところ、ようこそおいでいただきました」


 ピンと背筋を伸ばし、声を上げる副長を見てレビルは満足そうに頷く。


「うむ、私が新たに竜騎士団団長となった、レビルである。貴様らの仕事を見せてもらいに来た。今は何をしていた?」

「は! 竜たちの餌を見繕っておりました! 他にも世話の準備を!」


 見れば、兵たちはバケツに肉や野菜、果物、洗う用であろう、ブラシなどを入れていた。

 レビルは眉を顰めて尋ねる。


「貴様らが、か?」

「はい! 前団長……ヴォルフ様の命にございます)

「ふん、あの男のことは忘れろ! 大体世話係なら竜師がいるであろう」

「しかし現在竜の面倒を見ているのは基本的に老人一人、竜師は殆ど現場には出てこずでして」

「なんだそれは! ふざけておるのか!?」


 レビルはヴォルフの仕事ぶりに憤慨した。


「これだからまともな貴族生活も送っていないものは困る! 人の使い方が全くなっていないな! ……まぁいい、あの男(ヴォルフ)はもう消えたのだ。これから俺が大きく変革していけばいいのだ。くくく、ガルンモッサ竜騎士団団長として、な」


 レビルは副長に言う。


「これから竜騎士団は変わるぞ。前の者のことは忘れろ。これからは私が団長だ」

「はっ!」

「では副長、さっそく竜舎に案内するがいい」

「了解であります!」


 レビルは副長にそう命じて、竜舎へと向かう。

 昔に比べると幾分かマシになった竜舎だが、それでもまだ漂う獣臭にレビルは鼻を塞いだ。


「臭いな。あとで香水を撒いておけ」

「はっ!」


 文句を言いながらもレビルと副長は竜舎の中に入る。

 中では一人の老人が竜の世話を行なっていた。

 老人は日々、竜の体調を見ては気づいたことは報告するようにとヴォルフに言われていたのだ。

 具体的には鱗が剥げていないか、爪は欠けていないか、目は淀んでいないか、糞はちゃんと出ているか……などなどである。


 以前はやる気もなく、ぼけっとしていた老人だったが、自分にも出来る事を教えられ、最近は精力的に竜の世話をこなすようになっていた。

 流石に力仕事以外ではあるが……それなりに竜の世話が出来るようになっていた。

 老人はレビルに気づくと、すぐに近づいてくる。


「おや副長さん。こんにちわ。そちらの方はどなた様で?」

「新たにガルンモッサ竜騎士団団長となった、レビルだ。貴様がここの竜の世話係か?」

「へぇ、ほぉあの団長さんはお辞めになったのですなぁ。残念ですなぁ」


 老人竜師の言葉に、レビルは片眉を上げた。


「いやぁ、団長さんは色々教えて下さいましたよ。竜の面倒の見方、調子が悪い時はどんな事をすればいいか、食べさせていいものと悪いもの、私にも出来るよう、丁寧にねぇ」

「……」


 無言で老人の言葉を聞くレビル。

 その目は静かな怒りに燃えているように見えた。

 気づかずヴォルフを残念がる老人に、副長は視線を送る。

 ――――それ以上団長を持ち上げるような言葉はまずいと。

 老人の言葉は、ヴォルフに嫉妬に似た感情を抱いているレビルには言ってはならぬものばかりだった。


「ではでは、よろしくお願いしますのう。新しい団長さん」


 老人の差し出した手を見てレビルは、右手を上げた。

 ただし、その手にはサーベルか握られていた。

 サーベルの切っ先は老人の爪先へと降ろされた。


「へ……?」


 何が起こったかわからぬ顔で、老人竜師はレビルと自分の足を交互に見やる。

 薄ぼけた茶色の靴が、じんわりと赤く染まっていた。


「ぎゃああああああああああっ! い、いでぇ! いでぇよぉーーっ!」


 ジタバタと転がり回る老人竜師を、レビルは冷たく見下ろす。


「副長、この男はクビだ。新たな世話係を雇う」

「は、はっ!」

「あの男の仕事は徹底的に破壊する。この老人だけではない。他にもあの男が定めたルールは全て捨てろ」

「はっ!」


 頭を下げる副長。

 その足元で、まだ老人はのたうち回っていた。


これにて第二部終了となります。

やっちゃった感満載の展開に期待!の方は是非ぽちぽちと評価ボタンを押していただけるとありがたいです。

それと、木枯らしリョウマはぐれ旅もぼちぼち再開しようと思っているのでこちらもご覧いただけると幸いです。


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