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おっさん竜師、第二の人生  作者: 謙虚なサークル
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おっさん、厳しくシゴかれる

「さて、真面目におっさんが出ちゃうことになってしまったわけですけれども」


 ミレーナの去った後、ドルトはセーラたちと話をしていた。


「しかし、ドルトは竜騎士として戦えるのか?」

「一応そこそこは。多分」


 リリアンの問いに控えめに答えるドルト。

 だがその答えは満足しなかったのか、リリアンは首を振った。


「お馬鹿な男め。脳みそまで筋肉か? 問うたのは連携能力だ。連隊戦では個としての強さではなく、群としての強さが求められる」

「なるほど。確かに小型の竜は群れで連携して大きな獲物を仕留める……それと同じだな」

「そうだ。ドルト、貴様の肉の鍛え方は悪くないが、それはあくまで個々の戦いのためについた肉……連携訓練は積んでいないように見えるが」

「ま、まぁな」


 謎方面での洞察眼にドルトは呆れ半分感心半分といった顔をした。


「筋察眼……」


 ローラが呟いて、自分でくすっと笑った。

 全然笑い事ではないと、ドルトは思った。

 セーラがこぶしをゴキゴキ鳴らしながら、不気味な笑みを浮かべている。


「ふっふっふーそれじゃあおっさん、びしばしシゴいてあげるわねー!」

「……お手柔らかに」


 こうしてドルトの訓練が始まった。

 竜騎士団として日々の訓練に加わり、毎日毎日セーラたちと槍を交える。

 特に重視されたのは連隊訓練である。

 セーラ、リリアン、ドルトの三人対、他の竜騎士団の数名での模擬戦は繰り返し行われた。


「そらそら! 何やってんの! 甘いわよおっさん!」

「く……っ! なんか俺ばっかり狙われてるんだが……っ!?」


 連隊戦ではドルトが集中攻撃を受けていた。

 理由は場所取りの甘さ。

 竜を巧みに操ることで、槍裁きを誤魔化しながら戦っていたドルトにとって、敵と味方が入り乱れる連隊戦は非常に戦いにくかったのだ。

 下手に動こうとして味方に当たり、もしくはそれを避けようとしてバランスを崩し、そこを突かれる。

 今もまさに、攻撃を受け竜から落とされてしまっていた。

 リリアンがドルトを冷たい目で見降ろす。


「当たり前だ。穴を突くのは戦いの基本と知れ。それが嫌なら穴になるな」

「ああわかってるよ! やってやるさ!」


 その言葉にかちんときたドルトは、やけくそ気味に声を上げまた竜に跨る。

 槍を構え直すドルトを見て、リリアンとセーラはため息を吐くのだった。


 ど素人であるドルトは苦戦を強いられ、毎日毎日ボロボロにされる日々が続いた。

 だが、ど素人ということはそれだけ伸びしろがあるという事だ。

 物事はある程度まではやればやるだけ上達する。

 ひと月もすれば、ドルトの槍捌きは随分マシなものになっていた。

 元々操竜技術は比類する者がないレベルである。

 あっという間にセーラらに劣らぬ腕になっていた。


「ふん、そこそこ仕上がったな。やるではないか」

「あぁ……とはいえこれだけではキツイかもな。決め手に欠けるっていうか」

「当然だ。相手は大陸最強だぞ? 我々に出来るのはここまでだ。決め手は自分で探して来い」

「……へいよ」


 現状では、例えば団長とまともにやり合えば数撃のやり取りももたないだろう。

 何かが足りないと、ドルトは思っていた。

 ともあれ、訓練を終えたドルトは竜舎へ向かう。


「ふぃ、疲れたぜ……」

「あははーお疲れドルトくんー。昼は練習、夜は竜のお世話で、よく続くねぇ」

「全くだ。身体がボロボロだよ」


 ごきごきと関節を鳴らしながら、ドルトはケイトと共に食べ残しの餌を運んでいた。

 糞は騎士団の者たちが片づけてくれているので大分手間は省けていたが、それでもやることは多い。


「きゃっ!? こ、こらナナちゃん! やめなさいっ!」

「ガオオオオオウウウ!!」


 ケイトが食べ残しの餌を運んでいると、それを欲しがるように竜がガチガチと歯を鳴らしている。

 ――――77号、最近竜舎に入った暴れん坊だ。

 ドルトはその間に入り、制する。


「待て」

「グルルル……」


 だがそれでも77号は唸り声をやめなかった。

 好戦的な目で、ドルトをじっと睨みつけている。


「ケイト、今のうちに」

「助かるよー」


 その隙とばかりに、ケイトは食べ残しを運んでいった。

 それをじっと見送る77号に、ドルトはため息を吐く。


「全く、食べ盛りなのはいいが、意地汚いにもほどがあるぞ」

「ガウ! ガウウウ!!」

「元気がいいな。お前は」


 77号の経歴は、少々複雑だ。

 元はファームで育てられた竜なのだが、あまりに大喰らい、かつ言う事を聞かないので手に負えず、やむなく城に預けられた。

 熟練の竜師であるケイトですら手に負えず、ドルトでもようやくなんとか、という問題児であった。

 ドルトはポケットからジャガイモを取り出すと、77号によく見せる。


「ほれ、いるか?」

「ガオオオオオオウ! グルルルオオオオ!!」

「そんなに欲しいか? ……なら、そらっ!」


 あまりにも嬉しそうに吠える77号に、ドルトはジャガイモを放り投げた。

 ジャガイモは77号の後方へと落ちる――――かと思いきや、器用に尻尾で弾き上げた。

 それを手や、背中で跳ねさせて最後はき大きな口でパクリと食べた。

 幸せそうに食べる77号の頭をドルトは撫でる。


「この狭い中でよくそれだけ動けるもんだ」

「グルル……」


 物欲しそうに鳴く77号の目は、ぎらぎらと輝いていた。

 暴れん坊で制御もしにくいが、77号の動きは抜群だ。


「リスクはある……が、賭ける価値もある、か」

「グルゥ……!」


 ドルトの意をくみ取ったかのように77号はそう低く鳴いた。




「……ガルンモッサから招待状だと?」


 レイフ国王は届けられた書状を見てそう呟いた。

 封を破ると、文章に沿って目を動かす。


「ふん、どれどれ……交竜戦を行うので、身に来て欲しいだと? しかも相手はアルトレオ? ふはっ! おもしろい! 随分ヤキが回ったと見えるな!」


 大笑いしながら、レイフ王は書状を丸めて閉じた。


「聞けばレイフ(われら)との交竜戦以降、他国からの試合を申し込まれても断り続けていたらしいが、どうやらそれもままならなくなったようだな。だがその相手があのアルトレオではな。くくく」


 レイフ王はひとしきり笑うと、書状を持ってきた部下に言った。


「よかろう。ガルンモッサの竜騎士がどれほど落ちぶれたのか、見せてもらおうではないか。参加の旨、使いの者に伝えておけ」

「ハッ!」


 そう返事をして下がる部下を見送ると、レイフ王はテーブルに置かれたグラスを取った。

 血のような鮮やかな緋色がたぷんと揺れる。


「さて、どれほど弱体化したのか見ものだな。それ次第では……」


 レイフ王はそれを口につけ、ぐいと飲み干した。

 苦く、甘い喉ごしを楽しみながら、レイフ王はひとりごちるのだった。


 手紙はレイフ以外にも、周辺諸国へと配られた。

 ガルンモッサの現状に興味を持っていたレイフを始めとする五か国が、交竜戦の観戦に応じたのである。





 ――――そして交竜戦前日、ガルンモッサ城。

 ミレーナ率いるアルトレオ竜騎士団は、玉座の間へと参上した。


「おお、よくぞ参った! ミレーナ王女、そしてアルトレオの誇り高き竜騎士たち!」


 出迎えるガルンモッサ王の傍らには、竜騎士団の面々がずらりと並ぶ。

 その中には当然、団長もいた。

 ガルンモッサ王が差し出した手を、ミレーナは握り返す。


「お誘い頂き、光栄ですわ」

「うむうむ、それにしてもアルトレオの竜騎士は見違えたのう」


 アルトレオ竜騎士団をじっと見渡すガルンモッサ王。

 竜騎士団の面々の逞しい顔つきを見て、ふむふむと頷いていた。

 その中にはもちろん、フルフェイスの兜を被ったドルトもいた。

 バレはしまいかとヒヤヒヤするドルトの前で、王は視線を止める。


「む、なんだ貴様。王の前で素顔を見せぬとは、無礼ではないか? ん?」


 王の言葉をミレーナが遮る。


「その者は訓練中、顔にひどい火傷を負ってしまいまして……ご無礼、ご容赦下さいませ」

「……ふむ、そうかそうか。ならばよい。この玉座を醜く焼け爛れた顔で汚さぬ気遣いなのだな。流石はミレーナ王女じゃ!」


 からからと笑う王。

 兜の男――――ドルトをひどく言われ、ミレーナの顔は引きつっていた。

 ヒヤヒヤしていたドルトだったが、どうやら全く気づかぬ様子で、ほっと胸を撫で下ろす。


「それにしても、相当厳しい訓練を行っておると見える。これは油断すると、危ないかもしれんな! はっはっは」


 と、言いつつもガルンモッサ王の顔は油断に満ちていた。

 負けるはずがない、と思っている顔。

 そして、それはミレーナにも伝わっていた。

 ミレーナは頭を下げて、薄く笑った。


「滅相も無いですわ。胸を貸してもらう所存です。お手柔らかに」


 そう言って、ミレーナは片手を差し出す。

 細く、小さく、柔らかそうなミレーナの手のひら。

 王は嫌らしい目でそれを見て、握手を返した。


「ぐふふ、お手柔らかに、か。それにしてもミレーナ王女の手は確かに柔らかいの」


 ミレーナにしか聞こえぬよう、小声で言うガルンモッサ王。

 太い指をミレーナの指に絡ませようとした瞬間、みしりと静かに音が鳴った。

 ミレーナの手に、力が込められた。


「ぬぐぉ!?」


 ミシミシと、王の手のひらが圧迫されていく。

 日々、飛竜に乗って鍛えられたミレーナの握力はそこらの男などより遥かに強い。

 少なくとも、老齢のガルンモッサ王よりは遥かに、である。

 声を上げかけたガルンモッサ王だが、まさか女に握力で負けたなどとはいい恥晒しである。

 必死に耐える王の顔が、赤くなっていく。


「失礼します」


 そこへ入って来たのは団長である。

 ミレーナは手を緩め、王は振り切るように手を離した。


「王よ。謁見を待つ方がお待ちになっておられますが」

「お、おお!そうであったそうであった! すまぬなミレーナ王女、ではまた明日」


 王は痛む手をさすりながら、ミレーナから離れる。

 怯えた様子の王に、ミレーナは微笑みかけた。


「えぇ、明日決着をつけましょう」

「う、うむ。楽しみにしておる!」


 ミレーナは軽く頭を下げると、踵を返した。

 後ろでは王が団長に、早く止めんかこのグズが! と小声で罵るのが聞こえた。



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