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おっさん竜師、第二の人生  作者: 謙虚なサークル
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田舎娘、地竜を認める

「さーて、それじゃ昼飯も食い終わったし、やるかい81号」

「ガルーゥ!」


 元気よく返事をする地竜に、余ったフライドポテトを食べさせると、とても上機嫌になった

 嬉しそうにドルトに身体を擦り付けてくる。


「ははは、もしかしてお前、竜の実よりこっちのがいいのか?」

「……まぁ、地竜は芋好きだからね。よく一網打尽にされたわ」


 セーラは地竜と戯れるドルトを遠巻きに眺めていた。

 よほどお気に召さないらしいセーラに、ドルトは声をかける


「ていうかそんなに嫌なら向こう行ってろよ」

「何言ってんの!その害獣が畑を荒らさないか見てるのよっ!一応ここは私の土地なんだからねっ!」

「へーへーそうかい。……畑を荒らすなんて事、するわけないよなー81号」

「ガルーゥ!」


 そう鳴いて、頷く地竜。

 セーラの眉間にますますシワが寄る。


「……今日はここで訓練するわ。監視がてらにね」

「好きにしな」


 そう言うと、セーラはトレーニングを開始し始めた。

 ドルトは地竜と共に、畑をひたすら掘っていく。

 土の中には未だ石が転がっており、掘れば掘るだけ出てきた。


「よーし、今度はこっちだ。81号!」

「ガルルゥ!」


 ドルトの指示通り、地竜が地面を掻き進む。

 鋭い爪は確かに、人が掘るよりも圧倒的に早く、広範囲を耕せていた。

 それを横目でチラチラ見ていたセーラだったが、その顔は次第に驚きに変わっていった。


「……すごいわね」

「だろ、地竜のパワーはすごいんだ」


 地竜が爪を振り下ろすたび、土はえぐれ、石は掻き出され、木の根は断ち切られる。


「うん、私も農民だからわかるけど、開墾はすっっごい大変なのよね。これほどの敷地であれば、数人がかりで何日もかかるわ。それをたったの一日二日で、ここまで進むなんて……やるわね、害獣のくせに」


 ぶつぶつと言いながら、セーラの目は地竜に釘付けだ。

 その有用性に気付いたのだろう。ドルトも嬉しくなった。


「な、すげえだろ?」


 そう言って笑うドルトに、セーラは顔を赤くした。

 ぶんぶんと首を振って、答える。


「べ、別に認めたわけじゃないから! 少しはその、アレだけどねっ!」

「ははは」

「笑うなーっ!」


 照れ隠しをするかのように声を荒げるセーラ。

 そうこうしているうちに、地竜は荒地を一回りしていた。

 土の中の石ころはだいぶ減っていた。


「よくやったぞ81号、ほらジャガイモ食うか?」

「ガルルオオオーー!!」


 ドルトが余っていたジャガイモを放り投げると、地竜は飛び上がってキャッチした。


「ちょーーーっ! それ私が貰ったやつ! 何勝手にあげてるのよっ! あーもうぐちゃぐちゃじゃない! やっぱ害獣だわあんた!」

「ガールゥ」


 詰め寄るセーラを意に介さず、地竜は鋭い爪に突き刺さったジャガイモを、舐めるように食べるのだった。




 地竜が荒地を掘り起こし、兵たちが石を捨てる。

 そんな日が何日か続き、ようやく荒地はまともな耕地へと生まれ変わった。


「おー、何とか出来たな! 最初は何日かかるかと思ったけど」

「えぇ、農業というのは初めてですが、中々達成感のある事です」

「私は故郷の家族を思い出しました」


 リリアン率いる兵たちも、石一つない耕地を見渡し満足そうな顔である。


「うんうん、みんな頑張った!」


 頷くセーラの横で、地竜が吠える。


「ガルーゥ!」

「わっ……あ、あんたもまぁそこそこ頑張ったんじゃない? ほら、ジャガイモあげるわよ!」

「ガルゥ!」


 セーラは取り出したジャガイモを、地竜の口に放り込んだ。

 嬉しそうにそれを食べる地竜。

 まだ足りないと言わんばかりに、セーラの手を舐める。


「ったく、ホント意地汚いわね! こーら、私の手を舐めるのはやめなさい! もおこら、くすぐったいでしょ!」

「ガルルーゥ!」


 地竜に擦り寄られるセーラを見て、兵たちは笑っていた。


「もー、笑わないでってば!」


 なんだかんだいいながら、満更でもなさそうなセーラを見てドルトはちょろいと思った。


「ところでセーラ、こんなでっかい耕地で何作るんだ?」

「ふふん、ちゃんと考えてるわよ。それよりまだ土が出来てないからね。土作りからだわ」

「土作りってーと、あれか。家畜の糞を乾燥させて混ぜる的な」

「そうよ! よく覚えてたわね。家畜の糞を乾かして土に混ぜると、作物を育てる栄養になるの。……そうだ、せっかく竜がいるんだし、竜糞で作りましょう!」


 農家では鶏糞、牛糞、腐葉土が土の栄養として使われるが、その最上級に位置するのが竜糞である。

 地味に高価で、アルトレオではドルトらが処理した竜糞を農家の者たちが高額で買い取っていた。

 その一部を使おうというわけである。

 幸い竜糞には事欠かない程、ここには大量の竜がいる。


「なるほど。では兵たちに運ばせよう。足腰を鍛え、更に悪臭にも慣れさせるいい訓練となろう」

「えぇぇ……」

 リリアンは乗り気だが、兵たちはあからさまに嫌な顔をした。

 竜糞の片付けは竜師の仕事、なぜ騎士である自分たちが……といった感じだろう。

 それを見抜いたリリアンは、兵たちを厳しく睨め付ける。


「……いいな」

「は、はいっ!」

「よろしい。では城まで駆け足!」

「はいっ!」


 リリアンの号令で兵たちは城へ戻っていくのだった。



 それから兵たちは、各々が扱う竜の糞を集めては、耕地に用意した藁の上に置いていった。

 糞のままだと病気や蟲が湧き、土に害になってしまうのだ。

 それ故に乾燥させる必要がある。

 耕地に置かれた竜糞のせいで、辺りはひどい悪臭が漂っていた。


「うへぇ、めちゃくちゃクセェな」

「そーお? 田舎じゃ普通よ?」

「そ、そうか……」


 田舎おそるべし、とドルトは思った。

 本当に農業を甘く見ていたな、とも。


「とはいえ、しばらく作業は出来ないわね。ニオイはともかく、風で粉化した糞が飛んで来るし。流石にばっちいわ。ある程度乾くまで放っておきましょう」

「大賛成」


 悪臭の漂う中、ドルトはセーラの提案に同意したのである。


あけましておめでとうございます。

今年もよろしくですー!

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