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おっさん竜師、第二の人生  作者: 謙虚なサークル
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田舎娘、地竜を警戒する

 翌日、ドルトは朝から耕地の石拾いを始めた。

 また同様に石を掘っては捨て、掘っては捨て、である。

 果てのない作業であるが、先日地竜が手伝ってくれたおかげで幾分か進んでいた。


「おーーい!」


 ドルトが声の方を見ると、兵たちがこちらに来るのが見えた。

 本日は外での訓練だろうかとドルトは考える。

 よく見れば先頭にはセーラの姿が見える。


「やっほー、お疲れー」

「セーラ。後ろの人たちはどうしたんだ?」

「実は手伝ってもらおうと思ってさ。ね、リリアン!」


 セーラの後ろから進み出たのはリリアンだ。


「うむ、あなたがドルト殿か。先日は失礼した。これは家に伝わる傷薬だ。使ってやってくれ」

「あぁこれはこれは、ご丁寧に」


 ドルトの掌の傷はすっかり癒えていたが、折角の好意なのでいただいておく事にした。

 竜師の仕事は生傷が絶えないし、ありがたいのは確かだった。


「もしかしてそれで、手伝いに来てくれたのか?」

「それもあるが、訓練もかねてだ。セーラが農作業で鍛えたと言っていたから、一度はやってみようと思ってな」


 リリアンに勝利したセーラは、後でその訓練方法を根掘り葉掘りと尋ねられた。

 特に腰の強さは、幼い頃からの農作業で鍛えられたものだと、そう皆に答えたのだ。


「というわけで、トレーニングに使わせてもらおうと思ってな」

「一石二鳥っしょ? ふふーん、そこまで見越して土地をもらったのよねー! 私、てんさーい!」

「お、おう。そうだな……」


 その割には先日どうしようと考えていた気がするが、ドルトはそれ以上突っ込まなかった。


「で、我々はどうすればいい? ドルト殿」

「そうだな。じゃあこの辺りにある石を拾って畑の外に出してくれ」

「あー、ついでにさ。そこの川に投げよう。投擲の訓練にもなって一石三鳥よ!」

「わかった。それでは皆のもの、訓練を始めるぞ!」

「おおおーーー!!」


 声を上げながら、兵たちは石を拾い川に向かって投げ始める。


 ひゅるるるる、ぽちゃん。

 ひゅるるるる、ぽちゃん。

 ひゅるるるる、どすん。


 石の飛ぶ音、川に落ちる音、届かず地面に落ちる音が合唱となって辺りに鳴り響く。


「仲間には当てるなよ!」

「ははは、仲間に当てるような間抜けはいませんよ。リリアン隊長」

「ふん、当然だな」


 数十人の兵たちがこぞって石を投げ続け、昼前には石はすっかりなくなっていた。


「流石、人海戦術」

「この辺りは終わったな。あっちの方はまだ土を掘り返してないのか。であれば、また明日にでも来るとしよう」

「おー、助かったぜ。ありがとうな」


 去りゆくリリアンたちを、ドルトは手を振り見送る。

 だがセーラは何故か残っていた。


「あれ? お前は戻らなくていいのか?」

「い、いいのよ私は……それよりさ、おっさんお昼まだでしょ?」

「あぁうん、まぁ」

「これ!」


 セーラが取り出したのは……鍋だった。

 ポカンとするドルトに、セーラは言う。


「ほ、ほら! 前に言ってたでしょ? ジャガイモが採れたらフライドポテト食べようってさ。だからその、一緒に作ろうと思って」

「……あぁ」


 そういえばジャガイモを植える時、そんな事を言ったのをドルトは思い出した。


「だったなぁ。いやーすっかり忘れてたよ。よく覚えてたな」

「た、たまたまよ! 別に楽しみになんてしてなかったし!」

「そっかそっか。でも鍋ごと持って来るなんて、セーラらしいな」

「はぁっ!? 言っとくけどフライドポテトは揚げたてが一番美味しいんだから、当然持って来るなら鍋でしょ!」

「あぁ、そうだな」


 ムキになるセーラを見て、ドルトは苦笑する。


「いやー、やっぱりセーラはおもしろいな」

「……ふん」


 うんうんと頷くドルトに、セーラは満更でもなさそうに唇を尖らせるのだった。


「どうでもいいから食べましょう! ほらジャガイモ、切って」

「おう!」


 ……こうして調理が始まった。

 とはいえフライドポテトは簡単な料理である。

 皮をむき、串切りにして、揚げるだけ。

 すぐに大皿一杯に、フライドポテトが乗せられた。


「あとは塩をかければ完成よ!」

「おぉ、美味そうだな!」


 揚げたてほくほくのフライドポテトを、セーラとドルトは手に取り口に運んでいく。


「んーさいこー!」

「だな、やっぱり揚げたてが美味い」

「ガルルゥ!」

「んなっ!? は、81号!?」


 気づけば後ろに、地竜がいた。

 驚き声を上げるドルト、セーラはのどに詰まらせドンドンと胸を叩いていた。


「けほっ! な、なんなのこいつ!?」

「ガルル……」


 違いに警戒し合う地竜とセーラの間に、ドルトは割って入る。


「あぁ、こいつは昔助けてやった地竜なんだ。畑を掘るのを手伝ってくれている……セーラ?」

「地……竜……?」


 ドルトはセーラの様子がおかしいのに気づいた。

 その口調にはいつもの方言が混じっていた。

 ドルトは嫌な予感がした。


「地竜ったらあれだべか? 畑を掘り荒らし、作物を食い荒らす、農家の天敵の、あの地竜?」

「お、おう。そういえばそんな話を聞いた事があるな……」

「そっだら害獣、一秒たりとも生かしておけねぇっぺーーー!」


 鍬を手に立ち上がるセーラを、ドルトはなだめる。


「わー! ちょい待てちょい待てっ! 落ち着けセーラ!」

「はなせーっ! あれを殺さねぇと冬が、越せねぇんだぞー!」

「待て待て、話せばわかるから! な!」

「ガルゥ……」


 セーラの迫力に、地竜は恐れ慄くのであった。

 ……その後、何とかドルトはセーラを押しとどめたのである。

 しかし余程恨みは深いらしく、セーラは地竜を睨み続けている。


「……そんなに地竜が嫌いなのか?」

「当然よ! 地竜が一匹村に迷い込んだだけで、壊滅的な打撃を受けるんだから! くぅぅ……今思い出しても泣けてきた! 返せ私の大根!」

「いやぁ、やったのは81号じゃないと思うぞ……」

「ガルゥ……」


 完全なる竜違いにも関わらず、セーラは怒り心頭といった感じだ。

 農家と地竜にはそれほど深い因縁があるのであるのかとドルトは知らなかった。


「ま、まぁこいつは俺に懐いているからさ、何とかしてみせるよ」

「…………なら、いいけど」


 セーラの目は、全く信用できないと言っていた。

 世の中には、けして相いれないものがあるのだなぁとドルトは思った。


今年最後の更新となります。

みなさん、良いお年をお迎えください。


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