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おっさん竜師、第二の人生  作者: 謙虚なサークル
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メイド、動く

 それから数日、ドルトとセーラは幾度となく槍を合わせ、訓練を繰り返した。

 ドルトがいない時はローラが、それが終わったらまたドルトが。

 二人の指導により、セーラはメキメキと腕を上げていったのである。


「それにしても、ドルト殿は竜に乗ってもお強いのですね」


 セーラの様子を遠巻きに眺めるのはミレーナとケイトである。

 ミレーナの言葉に、ケイトは答える。


「ガルンモッサ時代は新米竜騎士の練習相手になってたらしいですよー。ドルトくんに勝ててようやく、一人前だとか」

「成る程……ドルト殿ですらガルンモッサでは実力者というわけではないのですね……そのドルト殿に翻弄されているとは、彼我の差はまだまだ大きい、か」


 ミレーナはそう呟き、考え込む。

 アルトレオの竜騎士団は弱兵。

 平和なのはいいことだが、その為に戦士が集まらないのは困ったものだ。

 永遠に続く平和などはあり得ない。特にここ数年、大陸にきな臭い空気が漂っている。

 万が一に備えて兵を鍛えておく必要があった。


 そこへアーシェの話である。

 飛竜を欲しがった時はどうしたものかと思ったが、あちらの兵を貸して貰えればもっと本格的な練兵も出来る。

 そう考えれば悪いことばかりではないと思ったのだ。

 確かに飛竜は貴重だが、それを扱う兵が弱くては話にならない。

 ともあれ強き国に成り上がるには、今回の交竜戦、負けるわけにはいかなかった。


 弱い国は強い国に食われる、それは世の常である。

 弱国故に滅ぼされ、民草が無残に殺され、犯され、燃やされる様をミレーナは見てきた。

 アルトレオをそうさせるわけにはいかない。

 考え込むミレーナの、いつになく真剣な横顔にケイトは息を飲む。


「でもでも、みんな強くなってますよ! セーラ以外にもドルトくんが稽古をつけてるみたいです」

「そのようですね。兵たちの操竜技術もかなり上がっているようですし」


 ドルトの訓練はセーラだけでなく、他の兵にも及んでいた。

 まずドルトが言ったのは、兵が竜に慣れていなさすぎる、だ。


 それから毎日、長時間にわたり竜に乗らせた。

 毎日城の周りを何周もさせ、山を越え、川を越え、とにかくである。

 雨の日などは特に念入りに行われた。

 ぬかるんだ地形を歩かせるのはそれなりの技術が必要である。

 戦場では悪路を走らねばならないからだ。


 訓練についてこれない少数は他の部隊に移ったり、辞めたりもしたが……ともあれアルトレオ竜騎士団はこの数日でかなりマシになっていた。

 そしてセーラは、ドルトとの訓練に加えそれらの通常訓練も他の者の倍、おこなってた。


「てやぁっ!」


 がぎぃいぃん! と木槍が弾き飛ばされる。

 地面に刺さった木槍の持ち主は、ドルトだ。

 呼吸を整え、自分が一番信じられないといった顔でセーラは言った。


「勝……った……?」


 それにドルトは、痺れる手を押さえながら答える。


「あぁ、負けたよ」


 その言葉を受け、セーラの表情がパッと明るくなる。


「いやったあああああああああああっ!!」


 勝利の声が修練場に響き渡った。




 一方その頃、交竜戦に敗北したガルンモッサは約束通り武具一式、百点を相手国、レイフへと受け渡していた。

 レイフ王は従者に物を運ばせた後、振り向きざまにニヤリと笑う。


「ふふ、ありがとうございました。ガルンモッサ王。では……」

「ぐ、ぐぬぬぬぬ……」


 憤怒するガルンモッサ王は、レイフ王一行が去った後も扉を睨みつけていた。

 そして、視線は団長へと移る。


「貴様! 何故あのような者を交竜戦に出した!? あの相手、レイフのは貴様が何度も倒した相手であろうが! 貴様が出ていれば勝てたのではないかっ!?」


 それは自分が言った事でしょうが、と団長は内心呟く。

 自分以外の誰かで戦えと、言われなければ団長自ら出ていた戦いである。

 マルコを使ったのはいわば苦肉の策だった。

 王は自分の言葉自体、忘れているのだろう。

 ここでの反論は無意味だと団長は知っていた。


「……マルコはあれで、優秀な使い手です。正直私も負けるとは思いませんでした」

「ならば何故負けたっ!?」

「やはり竜がまずかったかと……」


 太りすぎもあるが、動きも相当に悪かった。

 恐らく運動不足。

 それに加えて放置しすぎたため、命令の伝達が甘かったのだ。

 本調子であれば、マルコが負ける相手出なかったのは事実だった。

 王は団長をぎろりと睨み付ける。


「ふん、言い訳はよい! ……無論、対策は考えているのであろうな!?」

「やはり王よ、竜師の存在は大きいです。今の竜師は貴族上がりの無能と、やる気のない男だけです。良き竜師が必要かと」

「タルトとか言ったか。あやつが必要なのだな?」

「……ドルトでございます」

「なんでも良い! あやつめ、生意気にもワシの王命を断りおったからな……いや、そうだな。あの男、確かアルトレオにいるのであろう? ならばいい手があるかもしれんぞ。ぐふふ」


 王は何かを思いついたのか、邪悪な笑みを浮かべて笑うのだった。




 ――――青空の下、メイドAは洗ったばかりのシーツを干していた。

 青い空、白いシーツ、二つが織りなすコントラストに、創作意欲が湧き上がるのを押さえながら。

 きっと良い絵になるだろう。

 終わったら筆を取ろう。

 そんなことを考えていた。


 ふと、メイドAが辺りに生まれた気配に気づく。

 シーツには、人の影が写っていた。


「暇そうだな〝A〟よ」


 人影の言葉にも、メイドAは表情を変えない。

 シーツを干し続ける手を止めず、無表情のまま、独り言でも言うかのように呟く。


「また私の芸術作品が欲しいのですか?」

「ハ……冗談も休み休み言え。毎度毎度、ド下手クソな絵を送られるこちらの身にもなって欲しいものだな。解読に苦労させられているぞ」


 その言葉に、メイドAは整った片眉をぴくりと上げた。


「見取り図ではなく、今度は何を? ミレーナ王女のスリーサイズでも調べて欲しいのですか?」

「それはそれで王は欲しがりそうだがな。残念ながら違う……こいつだ」


 風が吹いた。

 シーツが風に大きくなびいた。

 メイドAが目の前にかざした手には、一枚の手紙が握られていた。

 影が投げつけたのだ。


「期待しているぜ。任務達成率100パーセントを誇る、〝A〟の一族の腕前ってやつをな」

「……」


 もう一度風が吹くと、人影は消えていた。

 メイドAは手紙を読むと、すぐに火をつけた。

 青と白のコントラストに、不吉な赤が混じっていた。

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