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おっさん竜師、第二の人生  作者: 謙虚なサークル
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おっさん、鍛える

 ドルトはその日、アルトレオ竜騎士団の修練場に顔を出していた。

 あの話の後、結局ドルトが代表の竜騎士を決める事となった。

 任命自体はミレーナの役目だが、それを見定めるのはドルトに一任されたのだ。


(頼まれたからと言って安直にセーラを選ぶというわけにもいかないよな)


 あくまでも公平に、全員の力量を見た上で判断する。

 重要な役割を与えられたのだ。

 それが当然だとドルトは考えていた。


(しかし……ひどいなこりゃ)


 練兵の様子を見てドルトはため息を吐いた。

 竜騎士たちの戦闘技術は、ガルンモッサに比べればへっぽこ極まりない有様だった。

 竜の上に乗り、武器を扱うのがやっと……という有様。

 長く、戦いのない国だったからであろう。

 まともに乗って戦えている竜騎士はほとんどいない有様だった。

 

 確かに竜に乗っての戦いは難しい。

 竜を自在に乗りこなしながら、かつ不安定な場所で武器を振り回さねばならないのだ。

 しっかりと腰が入っていなければ簡単に振り落とされてしまう。


 しかし竜のパワーは半端ではなく、相手が騎馬や歩兵であれば突撃するだけで簡単に倒すことが可能。

 特にアルトレオの竜は非常に強い。

 複雑な指令など出さずとも、適当に攻撃して駆逐する。

 竜頼りの戦いを繰り返していたのも、兵が弱い大きな理由であろう。


「次っ!」


 セーラの声が修練場に響く。

 どうやら試合が終わったらしい。

 見ればセーラの周りには、他の竜騎士が転がっていた。


 実際問題、竜騎士団の中で一番マシなのはセーラだった。

 他の者はそもそも、まともに竜に乗れてない。

 セーラとまともに打ち合うことすら出来ていないのだ。


 竜に乗るのは特殊なバランス感覚が必要で、男性は女性に比べて劣るのが通説だ。

 故に、大抵の竜騎士団には女性が存在する。


 ただ大規模採用をしているガルンモッサ竜騎士団には、身体能力で劣る女性竜騎士は存在しない。

 竜に乗れ、かつ身体能力の高い者のみがガルンモッサ竜騎士団に入れるのだ。

 逆に、なり手のいないアルトレオでは、操竜技術が低い者ばかりなので、むしろ女性の方が台頭しているのだ。


 そして、女性は女性でセーラ程やる気のあるものは少ない。

 手を抜いているわけではないのだろうが、全くもって攻撃に気迫が籠っていないのだ。

 槍を持って突いてはみるものの、その筋はへなちょこでまともに当たってもダメージすら与えられなさそうである。


 男性竜騎士はそもそも下手くそで、ようやく乗れているレベルである。

 戦闘など行おうものなら、あっさり落とされてしまっていた。

 すぐ落ちる男竜騎士と、まともに攻撃できない女竜騎士。

 まさに弱兵、ここに極まれり……というやつだった。


「次ッ!」


 また一人、セーラの一撃で騎士が竜から転げ落ちる。

 ドルトはしばし考え込むが、やはり他の選択肢はないようだと悟った。




「さぁーて! びし! ばし! やるわよっ!」


 気合十分といった様子で、右拳と手のひらを叩き合わせるセーラ。

 結局交竜戦に出るのはセーラに決まった。

 単純な消去法だが、確かにセーラの操竜技術は未熟。

 故に、伸びしろは大きいと思ったからだ。


 そしてなにより、やる気があるのがいい。

 如何に才能があってもそれに驕り、何の努力もしないのは愚の骨頂。

 実際問題、この手の輩は多いのだ。

 最初から才能がある為、大した努力は必要なく、それゆえに苦労せず得た能力を惜しげもなく捨てる。


 ドルトの周りでも、そんな輩は山ほど見てきた。

 逆にセーラは才能は乏しいものの、日々の努力で何とかしてきた人間だ。

 この手のタイプは最初こそ大したことはないが、練習を重ねることで、化ける。

 ローラの言葉もあながち間違いではない、と思われた。


「ね、やっぱりセーラしかいないでしょ?」

「つーかお前は訓練中どこいってたんだよ。探したんだが」

「私の事はどうでもいい。それよりどう勝つの?」


 ローラに好奇の視線を向けられ、ドルトは思い出した。

 セーラをローレライ竜騎士に勝てるよう育てるのが、ミレーナ様に仰せつかった仕事である。

 時間はあまり、ない。


「む……そうだな。始めようか。セーラ」

「準備オーケーよ! おっさん!」


 余計な一言は置いといて、ドルトはセーラと対峙する。

 まずは正確な力量を測る必要があった。

 実際に手合わせをして、どの程度の腕前かを理解する。

 ドルトは木槍を引き抜くと、ゆったりと持ち、構える。


「さて、どこからでもいいからかかってきな」

「うーん……ていうかおっさん戦えるの? 大丈夫?」

「おうよ。これでもガルンモッサじゃ人が足りない時に練習相手として駆り出されてたんだ」

「ふーん。そんじゃま――――行くよッ!」


 セーラは木槍を構えると、ドルトに向かって竜を走らせる。

 真っ直ぐな突進、ドルトは口笛を吹くと、竜を横に跳ばせてひょいと躱した。


「く……ッ!」


 それでも追いすがろうと、バランスを崩しながらも木槍を振るうセーラ。

 だがただ伸ばしただけ、勢いは死んでいた。

 ドルトはその穂先を掴んで捻り上げる。

 元々無理な体勢だった事もあり、握る力も半端な状態。

 セーラはあっさりとバランスを崩した。


「きゃあっ!?」


 悲鳴をあげると、セーラは落竜してしまった。

 尻を押さえながらも立ち上がる。


「あたたたた……」


 ドルトはセーラが立ったのを確認し、声をかける。


「もう一回だ」

「……よぉし! 今度こそは!」


 セーラの目に燃える闘志は、まだ消えていない。

 ドルトはそれを見て頷く。

 簡単に折れるようなら交代も考えたが、どうやら自分の選択に間違いはなかったようだと。

 セーラは再度、竜に跨ると木槍を構える。


「――――来い」

「っでぇぇぇぇぇい!」


 修練場にセーラの声が響く。

 何度も何度も。

 竜騎士団の面々は、自分たちの練習をしながらもセーラの特訓の様子を時折見ていた。


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