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おっさん竜師、第二の人生  作者: 謙虚なサークル
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おっさん、畑仕事をする

「な、なんだこれは……!」


 ドルトの返事を見て、ガルンモッサ王は怒りに震えていた。

 王の怒りを見て手紙を渡した団長は、その結果を察した。

 やはりドルトに戻る気はないのだ、と。

 自分たちはまだ苦労させられそうだ、と。


「あの男……たかが竜師の分際で、王の勅命に逆らうとは! 何故じゃ!」


 ――――それは国を出たからではないでしょうか、と団長は内心で呟く。

 既に国を出た者に勅命など通るはずもない。

 なにせドルトはもう国民ですらないのだ。

 どこかの王の勅命など、破って捨てても咎めはあろうはずもない。

 むしろ返事をするだけまともなくらいだが、今まで無条件に傅かれ、敬われ、どんな命令でも喜んで受ける者たちに囲まれ生きてきた王には、そんな理屈が通用するはずはなかった。


「……む」

「如何なされましたか」

「これは……どういうことじゃ。この手紙、アルトレオからのものじゃぞ?」

「は、そういえば伝達の小飛竜はドルトの故郷ではなく、アルトレオの方から飛んで来ましたが……」

「この手紙、ミレーナ王女と同じものが使われておる。紙質も、封筒も……うむ、間違いない!」


 言われてみれば確かに、であった。

 その洞察力を他の事に使えないのかと呆れる団長だったが、ふと思い返すと心当たりはあった。

 以前、アルトレオの王女と少し話した時に随分ドルトに入れ込んでいたのだ。

 丁度解雇した日、ミレーナ王女らもガルンモッサに来ていたし、偶然その話を知れば雇い入れた可能性は十分にある、と。


 そしてそれはもう一つの事実を示唆していた。

 即ち、最大の竜産国が一流の竜師を手に入れたという事である。


(現状のアルトレオは大した国ではない……しかし、これからは注意すべきかもしれないな)


 団長は憤慨し、辺りのものに当たり散らす王を見て思った。

 我が国も長くないな、と。



「全く! 本当にとんでもない話です! そう思いませんかドルト殿!」

「ははは……」


 ぷんすかと怒るミレーナのすぐそばで、ドルトの畑仕事をしていた。

 ガルンモッサに書状を返して数日、ミレーナはずっとこんな感じであった。

 あの文書が相当頭に来たらしい。

 別に普段からあんな扱いだったドルトとしては別段腹も立たなかったが、自分の為に怒ってくれているのだと思うと少し嬉しかった。


「ありがとうございます。ミレーナ様」

「何がですか?」

「いろいろと」


 そう言ってほほ笑むドルトに見つめられ、ミレーナはみるみる顔を赤くする。


「ぅ……べ、別に国民を馬鹿にされたら怒るのは当然ですから!」

「そう言えて、行動に移せるミレーナ様は本当に立派です」

「そんなことはありません! 普通です、普通! ごく一般的な王侯貴族ですわ」


 王侯貴族自体一般的ではない気がしたが、ドルトはそれ以上突っ込まなかった。

 苦笑しながら、鍬を地面に叩きつける作業に戻る。

 ざくりと突き立った鍬が、黒土を掘り起こし畝を作る。

 大きな石が出てきたら畑の外へ投げ、ねこぐるま(いわゆる一輪車)に入れて運ぶ。

 それを繰り返し、ドルトの畑もだいぶ形になってきた。


「ミレーナ様ーっ! お稽古の時間らしいですよー」


 セーラが城から駆けてきた。

 その更に向こうには、メイドたちの姿が見える。

 全員揃って不機嫌そうだった。

 どうやらまた、時間を過ぎていたらしい。

 ミレーナは慌てて立ち上がると、スカートの埃を払う。


「……休憩、長すぎちゃったみたいです」

「程々に。別にこちらに来てくれなくてもいいですよ?」

「ドルト殿の仕事を見るのが一番の息抜きですので♪」


 はにかみ顔でミレーナは、手を振り城へ走っていく。

 畑仕事を見るのが趣味とは変わっているなと思いながら、ドルトはミレーナを見送るのだった。

 それと入れ違いにセーラがすぐ傍までやってきた。

 畑を見下ろし、ふむと頷く。


「おー、いい感じになったじゃない! 畑っぽい畑っぽい! 私の指導のたまものね!」

「自分で言うなっての。……まぁ色々教えてもらったのは有り難かったけど」


 正直言って、ドルトは少し畑仕事を舐めていた。

 土に種を蒔けば簡単に収穫まで持って行けるものだと思っていたが、土台作りだけでも結構な手間だった。

 何しろ地面にはたくさんの石が埋まっているのだ。

 耕すのはもちろん、それを除けるのが特に労力だった。

 その後も大量の腐葉土を土に入れて混ぜることで、ようやく作物の作れる畑が完成するのだ。

 ここまで来るのに十日はかかった。


「さーて、畑も出来たところで、そろそろ何か植えてみようか?」

「おおっ! やっと本番か! 何作る? 人参? ほうれん草?」

「まぁそう興奮しなさんな。最初はとりあえず、これよ」


 セーラが取り出したのは、袋に入った真っ黒い塊である。

 ドルトが受け取り土を払うと、何やら大きな種子のように見えた。

 ――――否、似ているのは形だけで、手触りは柔らかいし種にしては少し大きい。

 そしてなにより、その形には少しだけ見覚えがあった。


「これ、じゃがいもか?」

「いえーす、正解。ジャガイモは病気にも強いし、これなら初心者にも簡単よ」


 寒地でも高地でも問題なく育つジャガイモは、ここアルトレオでは食料の要の一つであった。

 様々な場所で作られ、品種も多々ある。

 アルトレオの芋は竜と並んで有名なのだ。


「じゃがいもかぁ……芋の揚げたやつとか好きだな」

「フライドポテトね。いいじゃん! 収穫したらそれ、作りましょう」

「だな」


 フライドポテトはアルトレオの郷土料理である。

 芋を細切りにして油で素揚げし、塩を振りかける。

 これは旅人が食べたところ非常に反応が良く、瞬く間に世界中に広まった料理だ。


 ドルトはガルンモッサにいたころ、よくそれを居酒屋で注文していた。

 酒はあまり飲まないドルトは、仲間内で飲みに行くときは大抵をそれを抓んでいた。

 安っぽくはあるが、少し懐かしい味を思い出しドルトは生唾を飲み込む。


「よっし、やるぜ! とりあえず穴を掘ればいいか」

「おーがんばれおっさん。腰痛めないようにね」

「だからおっさんはやめろっつーのに」


 セーラの野次を飛ばされながらも、ドルトは作業を続けるのだった。


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