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おっさん竜師、第二の人生  作者: 謙虚なサークル
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新団長、人を募る

「ふむ、競技場の建設は進んでいるようだな」


 ガルンモッサ領郊外では、レビル発案の競技場の建設が行われていた。

 大昔、奴隷たちを戦わせていた闘技場を改築したおかげで建物の外観はもうほとんど完成していた。

 その名もガルンモッサ国立競技場、新たな国の名所として売り出す予定である。

 その第一回を飾るのが、レビル主催の競竜大会だった。


「来月の開幕には間に合いそうだな」


 満足そうに頷くレビルの横で、副長が紙束を確認していた。


「しかしレビル団長、ここに来て予算が圧迫しております。スタッフも足りておりません。これだけの施設にとなりますと相応の人数が必要となりますが、未だ目標の半分ほどしか……」

「全くそれを何とかするのが貴様の仕事だろうに……、む、そうだ! いい事を思いついたぞ!」

「……なんでしょう」


 レビルの言葉に副長は嫌な予感しかしなかった。

 うんざりした顔で尋ねる副長に、レビルは喜々として語る。


「民どもを無償で働かせればよいのだ! 民たちは皆、競竜大会の関心を高めているだろう。スタッフともなれば竜たちの競い合う様を観客よりも近い位置で見られる……ただでも働きたいという連中が山ほどいるはずだ!」

「そ、そうでしょうか……?」

「祭りなどを行う際も、殆どのスタッフは有志で行うであろう? 似たようなものだ」

「……確かに。流石ですレビル様」

「で、あろう! はっはっは」


 大笑いするレビルを見ながら、副長は不安げな顔を浮かべる。

 何せ今回の競技場建設はそのあたりの祭りとは規模が違いすぎる。

 参加するのも民だけではないし、各国の要人たちも多く招待する予定なのだ。

 ただの祭りであれば少々問題事が起こっても「そういう場だから」と有耶無耶になるが、ここまで大規模なものとなると有志のスタッフでは問題があると思われた。

 しかしレビルの決定が覆らないのも事実。

 先刻と同様「それをなんとかするのがお前の仕事だ!」とでも言われるのが関の山なのは、副長もよくわかっていた。


「……やれやれ」


 副長はそうため息を吐いて、腹をくくるのだった。


 ――――早速、競竜大会の有志スタッフを募る張り紙が市中に張り出された。

 それを取り囲んで見上げる民たち。

 全員の顔は、呆れたようなものだった。


「競竜大会、ねぇ。そういえば街の遠くでなんかやってたな」

「全く、あんなことして何になるのかねぇ。皆、日々の暮らしにも困ってるっていうのに。本当に全くだよ」

「しかもタダで働けだと! えらっそうに面接まであるらしいぞ。子供の使いじゃないんだから、やるわけがないじゃないか。あほらしい。行こうぜ」


 民たちが口々に言い合いながら散っていく。

 結局、予定の二割の人数も集まらず、騎士団からも大人数を徴用したがそれでも半分。

 副長は頭を抱えながらも、恐る恐るレビルに報告する。


「レビル団長、思った以上に集まりが悪く、このままでは……」

「それを何とかするのが貴様の仕事だろうが!」


 レビルが怒りにまかせて大きな声を上げると、副長はびくんと肩を震わせる。

 完全に想定内の言葉だった。

 それでも手は尽くした副長は、恐る恐る言葉を返す。


「し、しかしやはりタダ働きというのは……昨今は他国の輸入品が止められていて、貧困している者も多いですし。仕事であればまだやる者も出て来ると思われますが」

「……全く、折角働かせてやろうと言うのに、ふざけた奴らだ。……仕方ない」

「では……!」


 ようやく見せたレビルの妥協に、副長は目を輝かせる。

 レビルが一枚の紙を取り出すと副長に見せた。


「これは……?」

「徴用書だ。これを人数分、各家に投函してこい。平民の、貧しい者たちから順にだ。光栄にもこの紙を貰い受けた者は、スタッフとして参加を義務付ける」


 徴用書と書かれた紙には、その旨がしたためられていた。


「な……そ、それでは強制的に参加させると、そう言う事ですか!?」

「そう言っておるではないか。国の命令であれば、如何に愚民といえど応じぬ訳には行くまい」

「しかし流石にこれは無茶かと……せめて王に意見を賜るべきなのでは?」

「父上は俺に全権を委ねると言っておられる! いいから行け!」

「わ、わかりました……」


 副長が去って行くのを見送ると、レビルはふんと鼻を鳴らした。

 赤い絨毯の敷き詰められた廊下を、大股で行く。

 不機嫌そうなレビルを、兵たちは端に寄って避ける。


「全く、どいつもこいつも愚図ばかりだな……む?」


 ふと、レビルは通りすがる人影を見つける。

 銀髪の少年と、緑髪のメイドだった。


「おい! スヴェン!」


 名を呼ばれ、顔を上げた少年はレビルを見ると嫌そうな顔をした。

 メイドと顔を見合わせて、愛想笑いを浮かべながらレビルの元へと歩き寄る。


「何用ですか? 兄上」

「放蕩弟が、久しぶりに戻って来たようだな。いつもいつもフラフラしおって。たまには兄の仕事を手伝わんか!」


 レビルの叱責に、スヴェンははぐらかすように言った。


「えー、いきなりそんな事言われても……僕も忙しいのですが。なぁアイシス?」


 アイシスと呼ばれたメイドは、ニコニコしながらスヴェンの問いに答える。


「えぇレビル様、スヴェン様はこう見えて忙しいのですよー。意外とねー」

「意外とはなんだ、普通に忙しいぞバカ……まぁそう言うわけですので、失礼します」

「……待て」


 立ち去ろうとする二人を制止するレビルが手を伸ばす。

 掴んだのは、アイシスの肩だった。


「……なんでございますかー?」

「おいメイド、子供のお守りは暇だろう? なんなら可愛がってやらんでもないぞ?ククク……」


 そう言っていやらしい笑みを浮かべ、レビルは舌なめずりをする。

 一瞬、驚いた顔をしたアイシスだったが、細い目をさらに細めていく。

 レビルはそれに気づく様子もなく、アイシスの肩を抱こうとして――――


「兄上」


 ――――その手をスヴェンに掴まれた。

 スヴェンにじっと睨まれ、レビルは半歩後ずさる。

 全てを見透かすような、金色の目だった。


「そうだ。いい事を思いつきましたよ。僕でも協力できそうなことです」

「……チッ、なんだ?」


 舌打ちをし、スヴェンの手を払うレビル。

 アイシスはいつもの表情に戻っていた。

 スヴェンはにっこりと笑うと言葉を続ける。


「どうでしょう? 大会のシンボルマークなどを作ってみては?」

「シンボルマークだと……?」

「えぇ、国の紋章のようなモノですよ。それがあれば民も参加者も心を一つになり、意識も高まるのではないでしょうか?」

「シンボル……シンボルか。ふむ、確かにいい考えだ」


「実は僕の知り合いにその世界で結構名の知れた絵師がいるんですが、今丁度ガルンモッサに来ているんですよ。紹介することもできますが」

「ほぅ、たまには役に立つではないか! 早速連れて参れ」

「はーい……行くぞ、アイシス」

「りょーかいでーす♪」


 スヴェンはレビルに別れを告げると、アイシスと共にその場を去るのだった。




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