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おっさん竜師、第二の人生  作者: 謙虚なサークル
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王女様、筋トレをする。後編

「ミレーナ様、随分といい身体付きになりましたね」


 ――――アルトレオ城庭。

 リリアンがミレーナの姿を見て、ほぅとため息を吐く。

 厳しいトレーニングを積み、鍛え上げられたミレーナの肉体は大きく――――おおきくなっていた。

 ミレーナは自分の掌に視線を落としたまま、答える。


「……確かに最近身体が自分のものではないというか……すごい力強さを感じています」

「そうでしょう。短期間でこれ程の成長を見せるとは、素晴らしい才能をお持ちでしたね。……とはいえ懸命に励んだからこそです。それは間違いありませんので、誇りに思ってください」

「あなたも、ありがとう。リリアン」

「えぇ、私は嬉しい」


 ぐっと握手を交わすミレーナとリリアン。

 逞しくなったミレーナと、その到達点たるリリアン。

 二人の握手はそれはそれは力強いものであった。


「…………」


 それを見ていたメイドAがぽつりと呟く。


「……ミレーナ様、最近少々ふとましくなられましたね」

「な――――ッ!?」


 素っ頓狂な声を上げるミレーナの身体は確かに――――確かに以前に比べ腕も、脚も、胴回りも、一回り程大きくなっていた。

 言うまでもなく体重も、である。


「ま、まさか……そうなのですか?」


 ミレーナの言葉にメイドAは頷く。


「近頃、少々食べ過ぎていたので、それが原因ではないでしょうか?」

「な、ななな……た、確かに最近はその、姿見かがみを見て少し、少しだけそんな感じはしていましたけれども……」

「少し? 少しとおっしゃいましたかミレーナ様? 今少しと?」

「うぅ……やはり、やはりなのですか……」

「何を言っているメイド、問題はない」


 ミレーナを問い詰めるメイドAにリリアンが答える。


「筋力を効率よく肥大させるには、まず栄養を過多に摂取し、筋肉と同時に脂肪も付けるのだ。今のミレーナ様のお姿は想定の範疇、むしろこれからもっと肉を付けていただく!」

「リリアーーーンっ!?」

「悲報、ミレーナ様ふとましくなられてしまう! 原因はストレスによる過食か!? ……これ、来月の月刊ドラゴンライドとやらの表紙は決まりましたね。通りすがりのメイドのPNペンネームで投稿しておきますね」

「なりません! ふとましくなんてなりませんッ!」


 メイドAとリリアンの言葉に、ミレーナは大きな声で反論した。


「や せ ま し ょ う ! はい、これから私は痩せる事に致しました! これは覆ることのないアルトレオ王女としての決定事項です!」

「しかしミレーナ様、筋肉をつけるのでは……?」

「十分に筋肉はつきました! それに重すぎれば飛竜の負担になるでしょう! 痩せるのも重要ですっ!」


 ミレーナの言葉にリリアンは少し考え込み、答える。


「……なるほど、確かにその通りです。そうですね、少し早いかもしれませんが、では痩身方向へシフトしましょうか」

「そうしましょう! そうすべきです!」


 喜ぶミレーナの後ろで、メイドAがつまらなさそうに舌打ちをした。


「……ちっ、面白くない」

「聞こえていますよっ!」


 声を荒げるミレーナに、メイドAは全く気にしない様子ですたすた去っていった。

 リリアンはそんな二人のやり取りに呆れながらも、咳払いをする


「……おほん、では早速始めましょうか。とはいえミレーナ様、今回の痩身に関してはそう難しく考える必要はありません。ミレーナ様は随分筋肉がお付き遊ばれた。筋肉は多ければ多いほど、脂肪の燃焼量が多くなります。つまり、軽く運動をして食事量を制限するだけで容易に痩せることが可能です」

「おおっ! 素晴らしいです!」

「これも厳しい鍛錬にて肉体を鍛え上げたからこそ、ご自身の努力の賜物でございます。さて、トレーニングメニューも出来るだけ痩せやすいものにいたしましょう。まずは城の内壁を100周、致しましょうか」

「ひゃ……!?」


 リリアンの言葉に、ミレーナは絶句した。

 城の内壁側はそれなりに、広い。

 一周歩くだけでかなりいい運動になる程だ。

 それを、100周。日が暮れるまで走っても終わるかどうか微妙であった。


「あ、あの……全く軽くない気がするのですが……」

「大丈夫です。私の平時のメニューですから。やってみると意外と少ないものです。朝から走り始めても、昼前には終わりますよ。さ、ミレーナ様、ゴーです。私に続いてください」

「ひーーーっ!」


 リリアンに促され、ミレーナは兎にも角にも走り始めるのだった。


「はぁ、ひぃ、はぁ、ぜぇ……」


 約30周程走った辺りでミレーナの足がガクガクと震え始める。

 それに気づいたリリアンも足を緩め、ミレーナに並ぶ。


「素晴らしいです。ミレーナ様、初めてでここまで持つとは正直思いもよりませんでした。日々の鍛錬の賜物ですね」

「し、しかし……はぁ……まだ30周ほどでは……ぜぇ……」

「まずはどの程度走れるか、それを見たかっただけでございます。ミレーナ様は持久力も素晴らしいですね。そこらの成人男性でも、初めてでは10周も走れればよい方でしょう。大したものです。……あぁ止まらないでください。すぐに走るのをやめては足を痛めます。城まで歩いて帰りましょう」

「はぁ、はぁ……わ、わかりました……」


 疲労の溜まった身体で何とか歩くミレーナの横で、リリアンは駆け足をしながら講釈を続ける。

 これだけ走っても、リリアンにはまだまだ余裕が感じられた。


「いいですか? 持久走も通常のトレーニングも、まずは限界を知ることが大事です。限界を日々、越えていく事こそが重要なのです。特に持久走は筋力とはまた別の要素が重要となってくるので、女性や老人でも訓練次第で成人男性を越える事も容易いですよ。ローレライでは毎年持久走大会が開かれますが、一般の部では70を超えた老人や女性が上位に入ったりもしています。そして走る時間が長ければ長い程、痩身効果は高まると言われております。その分限界まで脂肪を燃やすわけですから。どうです? 燃えてきたでしょう」

「なんと……走れば走る程……」

「――――えぇ、痩せます」


 真剣な表情で言うリリアン。

 その言葉を聞いたミレーナの目に、炎が灯る。


「……でしたら、えぇ、この程度で止まってはおれませんね」


 そう言ってまた、走り出すミレーナを見て慌てたのはリリアンである。


「あっ!? み、ミレーナ様!? あまり無理をされては……」

「大丈夫です! 十分休みましたから!」


 呆然としていたリリアンだったが、ため息を吐いてその後を追うのだった。


 ――――なお、翌日ミレーナは筋肉痛でベッドから動けず、公務はお休み。

 それどころか数日間はまともに動けなかったのである。

 ベッドの上で、リリアンがミレーナの背中をゆっくりと指で押す。


「うぅ……こんな事をしている場合では……」

「いいからお休みになってくださいませ。休むのも鍛錬のうちです」

「あいだだだだだっ! も、もっと優しくぅっ!」

「筋肉痛は成長の証です。ミレーナ様、今度はおみ足を失礼しますね」

「ひぎぃっ!?」


 そう言ってリリアンが足の裏を強く押すと、ミレーナが悲鳴を上げる。

 それでもリリアンは容赦などせず……指圧は日中続けられた。

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