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オープンに向けて

本日2話目

さて。ウィザティムのレストランの魔道具作りは進んでいる。


店に戻った時は、メンテナンス依頼対応とカルカへの指導。

クラウからはレンドルフの事や店や家の事について相談を受けたり。

1泊して、翌日の昼にはレストランに戻る。ティーテはルイの補助に入りっぱなしだ。

レストランで作業して2泊。それからまた店に戻る。

これの繰り返し。


レストランの作業は順調に進んでいる。むしろ予定より早いぐらいだ。やはりティーテのサポートが効いているのだと思う。

それに、必要な魔法石への魔力は、すでにカルカが入れてくれているのも大きい。


たまに、クラウに昼食や夕食を持たされて、カルカがレストランに相談や報告にやってくる。

メンテナンスを急いでいる人がいる、という話ばかりだ。

魔道具をこちらに運ばせると途中で破損する恐れがあるので、知らされた納期に間に合うように急いで帰り、メンテナンスを終えたらすぐにまたレストランに戻ってくる。


着手して16日目。冷凍庫が完成した。予定より2日早い。

ウィザティムに確認してもらう必要があるが、氷を作り始める。

オープンまで、残り12日。

この時点で、店内には、ジェイクたちの作る調度品、また別の店からの敷物、布、食器類が店内に運び込まれだしていた。瞬く間に、レストランが仕上げられていく。

工事責任者も店内にいたので、ルイは冷凍庫の完成を報告した。共に機能を確認し、製氷を始めたのも確認してもらう。ウィザティムには工事責任者から連絡をいれると言ってくれた。


さて、次は冷蔵庫。

間に合わなければ氷を使って冷やす予定だが、少しでも早く出来上がる方が良いのは当然だ。

冷凍庫より仔細な注文が無い。こちらは3つの小箱に分かれているだけだ。それに大型の作成に慣れた分、効率よく進められそうだ。


「・・・メンテナンスが無ければ、毎日泊まり込みたいところだけど」

と作業しながら零したルイに、ティーテは、

「感心しません」

と答えた。

「絶対に無理をされるのが目に見えています。今のペースに慣れたところなのです、これで行きましょう」

「なるほど」


***


「ルイ叔父さん! 見てください!」

店に戻った日、カルカがキラキラした目で、喜び勇んで報告してきた。

傍にいるクラウもニコニコしている。

なんだろう。


「冷蔵庫が壊れたんです! メンテナンスを私がしました! 成功したんです!」

「ん?」

カルカが飛び跳ねる勢いで、5階にルイたちを連れて上がる。

5階は今はカルカの部屋だが、もともと客室にと整えたので、風呂も台所も全て揃えてある。少し小さめだが、冷蔵庫と冷凍庫と食料保管庫もつけてある。


「飲み物を入れているのです」

とカルカは冷蔵庫を開けてみせた。

「昨日、ぬるくなっていたんです。魔力切れです。ちなみに、切れる前に分かる機能は無いのでしょうか。本当に泣きたくなりました」


「なるほど。ただ、それをつけると作成の手間が増えるから、金額を上げなければいけない。ついでに言うと、その機能をつけるなら自動で魔力を溜める装置を付けた方が良いと思うな」

とルイは教えた。


本当は、全てに自動魔力供給機能をつけた方が良いと思うのだ。

ただ、露店の人たちはかなりの確率で安さを求める。だから最低限の機能だけつけたものを安く売っているのだ。

「私ならお金を払ってでも良い機能が欲しいです! 切れる前に魔力を補給して欲しいです!」

力強さに、ルイは少したじろぎつつ頷いた。

「今も、相談に応じてカスタマイズしてるよ。ごめん、ここの魔道具はすぐ自分でメンテナンスできるから簡単なものにしていたんだ」


ルイの返答に、カルカがプゥと不満を表して頬を膨らませた。

上品に育っているはずなのに、最近やたら表現が豊かだ。町に馴染んできた結果だろうか。いや、外出よりもクラウといる時間が長いはずだ。

うん?


「それで? 自分で全部直したって?」

「はい」


冷蔵庫から、カルカの飲み物を取り出してから、蓋を開けて内部確認する。

「あー・・・まぁ、良いか」

「えっ!?」

「うん。ここが少しズレているから、流れが弱くなってるんだけど、機能はしてる」

カルカががっかりしてしまった。


「良いじゃないか、ちゃんと冷えているんだろう?」

「なかなか、うまく行きません」

「私が魔道具を作りだしたのは9歳頃だ。独り立ちするまでそこから5年かな。それを、カルカは成果を急ぎすぎだよ」

とルイは笑った。


カルカは拗ねた顔で、こう言った。

「作ってみたいものが、たくさんあるのです。自分で作れるようになりたいです」


それは楽しみだと、ルイは素直に思った。


***


「ねぇねぇ。ルイ。相談して良い?」

夜、クラウが聞いてきた。

「うん。何?」

「ジェシカ店長の事なんだけど・・・顔色が、良くないかもしれないって、思う事が最近あって」

「え?」


クラウが不安そうにルイを見あげる。

「魔法石の販売がてら、行ける時に私が行ってるの。シーラさんたちがいなくて1人だから、心配で様子も見たくて」

「うん」


「気のせいか、元気がないように見える時があって。『大丈夫?』って確認すると、いつもみたいに笑うんだけど。大丈夫かな・・・心配で」

「クラウは、シーラさんへの連絡方法って知らないよね?」


「知らない。ジェシカ店長は自分の体調はシーラさんが把握してるって言ってたけど。でも戻ってこれないんじゃないのかな。聖剣の連絡も全然ないでしょ。聖剣は良いけど、何かあった時にどうやって連絡したら良いんだろう」


確かに。

加えて、今はルイが様子を見に行くのも難しい。


「ジェシカさんは、定期的にメンテナンスをサリエさんたちに受けていた。それが受けられなくて調子が狂ってるのかもしれない」

「ルイには無理だよね」

「技術が絶対に違う・・・無理だ。次に行った時、ジェシカさんにシーラさんへの連絡方法を教えてもらったほうが良い」

「聞いてるんだけど、秘密だって言われた。連絡には自分を通してくれれば良いからって」

「困ったな」

「うん・・・」


***


さて、レストラン。


冷蔵庫も、オープンの前日に完成した。


店内では調度品も揃い、スタッフが模擬調理を行っている。冷凍庫は活躍中だ。今のところ動きに問題はでていない。便利だと感心する声も直接聞こえた。良かった。嬉しいというより安堵する。


冷蔵庫の完成には、スタッフから拍手をもらった。本当に有難い事だと思う。

むしろ、こんなにギリギリに完成で申し訳ないとさえ思う。


機能をウィザティムたちに確認してもらう。OKを貰って、一安心だ。

さっそく、氷で保冷していた食材が完成したばかりの冷蔵庫に詰め込まれた。


さて、残りは食料保管庫。さらに機能が大まかになる。

だがすでにオープン前日で、周囲が入り乱れている。

冷蔵庫まで完成した今、今日は邪魔になると判断して、ルイたちは一旦ここで帰らせてもらう事にした。


なお、オープン後の1ヶ月は、営業終了後、夜間に食料保管庫の作成作業に当たる予定になっている。日中はレストランが動いていて作業できないからだ。

とはいえ今回の3種の注文において、食料保管庫が最も簡単だ。

出来上がるのは間違いないし、きっとその後は他の希望品を作り進められる。他の品物はルイの店で作ってから、こちらに持って来られるものばかりなので、楽になるはず。


***


さて。ついにウィザティムのレストランのオープン日。


実は、ルイとクラウはウィザティムにオープン日の客として招待を受けている。

ジェイクやバートンは招待を受けていないと事前に教えられてもいる。つまりルイは貴族だから招待されたのだ。


関係者としての招待だったなら大喜びだが、この招待は微妙、と思うものの、断る方が都合が悪い気がするので出席する。ちなみにカルカも招待されている。確かにメリディアでもヴェンディクス家は有名だと分かる。


以前グランドルとアリエルの結婚式にと作った衣装を元に、同じデザインで身長のみ変えた衣装を着る。衣装自体は新調したとはいえ、同じデザインで、と実家に知れたら酷く怒られるだろう。しかし、身長が変わったので作り直す必要はあるが、その時間は取れなかったのだ。なお、クラウはルイが同じデザインなら自分も前のまま、同じので良いと言った。

なおカルカは、このような時用の衣装を数着持って来ている。その中からルイたちの衣装の程度に合わせて選んでいた。


***


古い、潰れたレストラン、という物件だった。それが今では貴族の援助によって、豪華なレストランに。

内部に関わった人間としても感慨深い。


ちなみに2階もあるとはいえ、店自体はこじんまりしている。

ただし内部は全てが高級品。貴族も愛する、隠れ家的高級レストラン。そんな雰囲気。

その高級品の中に、ルイの魔道具も含まれるのか。


演奏者が3人来ていて、ゆったりと音楽を聞かせてくる。

3人なのは、それ以上の演奏場所が確保できないからだろう。


実は、店内に音楽を流す魔道具も希望されている。食料保管庫が出来たら、次に取り掛かる予定。

客にとっては、3人の生演奏と、30人の再生の演奏と、どちらが嬉しいかな、などとルイはチラリと考えた。

どちらでも良いか。雰囲気が楽しめるのなら。


さて、同じテーブルに着くカルカは、今日はどこからどうみても、上品で礼儀正しい貴族の子息だ。

そして、カルカは耳がきちんと肥えている様子。音楽を楽しんでいるのが様子で分かる。


一方、クラウは貴族ばかりが集まっているこの場で、緊張している。

なおレンドルフは、今日はティーテに預けてきた。

実はクラウは、レンドルフをルイ以外に預けることに酷く不安を示したが、今日ばかりは我慢だと腹を括った。

とはいえ乳児が待っているから早めに帰ろう。ウィザティムには招待を受ける時に伝えてある。


ウィザティムの挨拶があり、後援した貴族への称賛と拍手があった。

乾杯の合図。

滑らかなサービスで運ばれてくる品々。

オープン初日であるのに、すでに優雅さを纏い、加えて初日ゆえの煌めきが店側から感じ取れた。


「美味しいですね」

とカルカが食前酒にニコリと笑む。

「そうだな。さっぱりとしていて良い」

とルイが分かりあう。


クラウが少しつまらなさそうにした。クラウが飲むのは果実ジュースである。

彼女は授乳中なのでアルコールを一切飲まない。とはいえ、そうでなくてもルイの希望で外では飲まずにいてくれる。


「ジュースもさっぱりして美味しいんだよ」

「良かったね」

とルイがニコリと返したのに、一瞬不満そうに睨まれた。


***


音楽の中、それぞれの席で楽し気に食事が進んでいく。皆が食事や様々なものを褒める。

本当に、とても美味しい。お酒が飲めないクラウの機嫌など、あっという間に直った。


「すごいね、ウィザティムさん。すごく美味しい」

クラウは感激したように目を細めた。

「美味しいー」

と何度も感嘆の声を漏らすのは、クラウも料理屋を計画しているからかもしれない。


カラロン、と上品な音が鳴った。レストランの扉だ。


音が引くように皆の会話が一瞬静まり、それからパァと熱が膨らむ。

その雰囲気を察し、誰が来たのか、とルイとカルカ、それから遅れてクラウも入場者に目を遣る。


ウィザティムの迎える声がした。

「ようこそおいで下さいました。お席にご案内いたします」

「遅くなってすまないな」


〝第三王子様”

〝イェイレフス=イーラ=メリディア様”


周囲で、とても好意的な声が上がる。


〝どうしてこちらに”

〝この町は、イェイレフス様の直轄領だ”


メリディアの貴族たちの囁くような会話で、なるほど、とルイは知る。

カルカも注意を払って情報を得ている。

クラウはただ、茫然としていた。


王子が、シーラを伴っていた。


***


ウィザティムが、第三王子夫妻の来訪を皆に紹介した。シーラは美しく装い、気品ある振る舞いをした。


すでに結婚していたのか。

ルイは少し複雑な気分で、最上位席の彼らの様子をさりげなく伺う。

友人として交流があった。けれどシーラは、もう気軽に声がかけられない存在になった。


向こうもルイたちに気づいたはず。


クラウだけが動揺している。

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