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魔道具ルーグラ

ウィザティムのレストランの店内にて。ルイは家具屋のジェイクと合流した。


店内を案内してもらい、ルイの作業場所を教えてもらう。

冷凍庫、加えてすでに冷蔵庫と食料保管庫の外枠も作ってあった。

「デザインなど関係ありませんし、先にと仕上げました」

とジェイクは言った。


なおジェイクも、現在このレストランのための特注調度品の作成に取り掛かっている。

今日はルイのためにこちらに来てくれたが、この後『マイズリー家具屋』に戻り、引き続き制作に打ち込むそうだ。


工事責任者の人がルイのために来てくれた。会うのはこれが初めてだ。ジェイクに紹介してもらう。

ルイよりは年上だが、比較的年齢の近い若い人だ。楽しそうに早口で話す。

1日でも1刻でも早く仕上げてくれと頼まれた。


挨拶は簡単に留め、荷物を広げて作業に着手する。

すぐに気づいた。


これ、もう1人、必要だ。


「・・・」

ルイはじっと上を見つめ、それから周囲を見回した。

ジェイクも責任者ももう出て行ったので、店内にはすでに誰もいない。


なお、調度品はそれぞれ外の店で作ってこちらに運び入れる。

厨房は、ルイの作業完了を待っている状態。


迷っている場合では無いな、とすぐに判断した。


***


ガランガラン。


「いらっしゃいませ! あれ、ルイ叔父さん!」

カルカが元気よく驚いて迎えてくれた。

ちなみに、店内にはお客様が1人いた。メンテナンスのようだ。カウンターの上に魔道具が置いてある。

向こうに2泊してからこちらに戻ってくる予定だったが、もうメンテナンスが来たか。どうしようか。


「いらっしゃいませ。オルド様」

「ルイさん、メンテナンス頼みたいんだけど、いつまでかな?」

「今確認します。少し店内でお待ちいただけますか?」


ルイは足早にカウンター内に入り、その場で蓋を開けた。

内部構造に乱れはない。ならば魔法石の取り換えでいける。

「2刻で終わります。また取りに来てください」

「今日できるのか! 嬉しいね、ありがとう頼んだよ」


カルカがやり取りに驚いている。メンテナンスは、余裕を見て2、3日貰うように伝えてあるからだ。


「ついでに、なんかオススメあるかい? 最近皆、何を買ってるんだ?」

「今も、冷蔵庫と冷凍庫が並んで人気ですね。製氷機もありますが、冷凍庫がカバーできます。魔道具ですと、たまに重力軽減板ですね。荷物を運ぶときに荷台に積んだりして使われるようです」

「ふぅん」

「サンプルがありますよ。カルカ、後ろから瓶詰3つほど取ってきてくれるかな」

「はい!」


カルカが奥から瓶詰を取ってくる。

なんだか必死の勢いだ。お客様相手に張り切っているのかもしれない。


「あ、ごめん! トレイも取ってきて。2階の台所だ」

「はい!」

「悪いねぇ、カルカくん」

お客がカルカの背中に声をかける。


「元気な新人さんだね」

「甥です。助かっています」

「そりゃ良いね」

ニコニコ会話していたら、カルカが飛ぶように戻って来た。2階で使っているトレイを両手でサッと渡してくる。


「ありがとう」

「助かるよ」

ルイと客が働きに声をかけるとカルカはニコリと上品に笑った。

行動と笑顔のギャップが面白い。


「さて、こちらなのですが」

ルイはトレイに瓶詰を載せて客に持たせた。次に、瓶詰を外して魔道具をトレイに敷き、改めて瓶詰を載せる。違いを体感してもらうためのパフォーマンスだ。


***


「考えとくよー」

という言葉と共に、客は去っていった。

重量軽減板は、確かに上に載せたものを軽くするが、重量軽減版自体の重みは無ではない。つまり、重量軽減版の重さが加わっても、軽さを実感できるような重いものの運搬に役立つ品だ。

先ほどの客は、自分には必要かなぁ、と考え中である。


まぁ良い。それよりも。


クラウが降りてきた。2階に居たらしい。客が帰るのを待っていたのかもしれない。

「ルイ、どうしたの」

「うん、ちょっと。ティーテは?」

「え、1階にいない?」

「います。どうされましたか」

奥からティーテが現れた。威圧感を与え過ぎてはいけないので、自分の存在だけ見せてから奥で待機していたらしい。


ルイは、集まったカルカ、クラウ、ティーテを見回し、うん、と頷いた。

「ティーテ。私と共に、ウィザティム様のレストランの作業に入って欲しい。警護面での問題はある?」

「・・・いいえ。ただ、状況をロッキーたちに伝えさせていただきたい」

「分かった。なら、すぐに伝えて。ティーテは私の補助に入って欲しい」

「はい。では、今すぐ伝えに」

「うん」

ティーテは即座に動き、店を出て行った。


カルカが願うように尋ねてきた。

「私が補助ではいけないのですか?」

「うん、実は、身長が欲しい。魔道具というよりも力仕事なんだ。道具を受け渡したり、場合によっては肩車をしてもらいたい。脚立では不便だ」

カルカがキョトンとしてから、軽く頷き納得した。

「分かりました」


ルイは、クラウを見た。

「ごめん、ティーテをこちらに貰うね。カルカと2人だけど、大丈夫? あとレンドルフと」

「うん。分かった。頑張る」


クラウは頷きながらも、どこか頼りなさそうにルイには見えた。

傍、店内にルイがいなくなる状態が原因らしい。子育て中なのと、たぶん以前の事件が影響している。


しかし一方で、ティーテの給料が発生した時点で、月々の売り上げが非常に微妙なのだ。

『アンティークショップ・リーリア』で魔法石を毎日5個も売っていたから、貯金は十分ある。

けれど、月単位の収入としては、レンタル料に直接購入分と魔法石の売り上げ。月々変動するけれど、際どい。


だから、今回の仕事は収入のためにも必ず成功させる。頑張りどころだ。

レストランの開店の準備にも間に合わせなければ。だから泊まり込みがベストだ。2泊して1泊こちらに戻ってくるペースで行こうと思っている。

戻ってくるのは、入浴も必要だし、メンテナンス依頼にも対応する必要がある。こちらの店の様子を見なければ。


クラウも理解している。だから本音を言うのを我慢していると、ルイも察している。

本当は、毎日かせめて1泊で帰ってきて欲しいのだろう。


まさかそんな風になる人とは思っていなかったので、実は驚いている。

ルイが1ヶ月どこかに行っても、『頑張ってー』とサバサバと言う人だと思っていた。

なのに、実はルイがいないと非常に寂しいらしい。

他の人なら面倒だと思う。だがクラウがこうなってみると少し照れくさい。大切さが募る。


「カルカ、ごめん、メンテナンスのその器具、奥のテーブルに運んで。それから同じ魔法石を出しておいて。フル充填済みのものだよ」

「はい!」

元気のある返事とは裏腹に、そっと慎重に魔道具を持ち上げ、カルカは奥へと移動した。

カタコト、と、奥の在庫の棚から魔法石を出そうとする音もする。


ルイはクラウを引っ張って、すこしギュッと抱きしめてからキスを贈った。それから笑んでみせる。

クラウが少し恥ずかしそうに俯いた。


うん。可愛い。


***


さてすぐに奥に行くと、カルカが内部を確認して、魔法石をそろえ終わったところだった。

「ありがとう」

ルイはカルカの用意してくれた椅子に座る。


「メンテナンスは慎重に」

カルカに少し説明しながら、ルイはじっと集中する。

今までに何度も見せてきているから、カルカも作業内容は分かっている。


魔法石を取り出しかけて、ふとカルカを振り向いた。

「1つ、変えてみよう、カルカ」

「え、はい!」

「奥のは私が。でも見ておいて」

「はい」


ルイが奥の石を交換する手本を示した。中核部分なので、これを最も慎重に。

「では、こちらの手前のを、カルカお願い」

「はい!」


カルカと席を変わる。

これ以上、言葉をかけるのをルイは控える。

何度も見せてきているし、カルカには最小限の言葉の方が良いと思っているからだ。

もしこれで内部が歪んでも、手前なので比較的すぐに直せると踏んでいる。


「・・・ルイ叔父さん」

魔法石に触ろうと指を動かして、ふとカルカは後ろで見守るルイをふり仰いだ。

「どうして、これに直接魔力を込めないのですか?」

「・・・時間がかかるから。交換した方がすぐにお客様のところに戻せるんだ」

ルイの説明に、カルカが首を傾げた。


そうだな、カルカには変な話だな。とルイは内心で理解した。


カルカは、高速で魔力を溜める。一瞬でやってしまった時もある。

だからルイは、余計なものを見せるまい、とカルカに自分が魔力を込めるところを最後まで見せた事が無い。普通は時間がかかるのだと、カルカは知らない。


「・・・カルカ。この魔法石、ここに入ったままで、魔力を込められるだろうか」

「分かりませんが、やってみて良いですか?」

「金属線は曲げてほしくないけど、ここは崩れても比較的直すのが楽だ。ただ、この奥側は崩すとほぼ作り直しになる。こちらを崩すようなら、中止してほしい」

「はい。・・・そちらは奥側なので、触らずに済むと思います」

カルカがキリリとした表情になりルイに告げる。


「分かった。では、こちらが空っぽ。こちらが、見本。溜めてみて」

「はい!」


いつもは、手のひらに握って、増幅した魔力を空っぽに込めている。

指先が触れている程度でもそれは可能なのだろうか?


カルカの右手に握る見本が光る。火花のようだ。かなり増幅している。


「・・・どうですか?」

カルカが指を放してルイを見た。


「変わりがない」

「・・・そうですか」

ションボリとカルカは肩を落とし、右手の手の平の魔法石をじっと見た。

「いつもは、手のひらに握るから・・・でも外せない。・・・あ、ルイ叔父さん! 魔力って、この金属線で繋げているんですよね!?」

「うん、そうだよ」


何かを思いついたらしいカルカは目を輝かせている。

「私が金属線を握って、その端をこっちの空っぽに巻けばうまくいかないでしょうか!?」

「やってみようか」


成功率はさっぱり分からない。


***


結果。半分しか、溜まらなかった。

カルカは諦めて、フル充填の魔法石とメンテナンスの魔法石を交換した。


なお、金属線を曲げずにできたので優秀である。

ルイは実験が失敗して気落ちしているカルカを精一杯褒めた。そもそもカルカは成果を急ぎ過ぎだろう。


「ルイ叔父さんがご不在の間に、直接魔力を溜める練習をして、良いですか?」

「・・・うん」


カルカの自発性を否定しない方針を決めているので、そのようにさせよう、とルイは許可した。

しかし、カルカは魔力の入り具合が自分で分からない。成功か失敗かの判定はルイの戻りを待つのだろうか。


「とはいえ、本物でテストは困るので、そうだ、空っぽの石を使って、重量軽減版を作ってごらん。それから、魔法石に魔力を込めてみたらいい。動いたら魔力も入ったという事になる」

「はい、そうします!」

カルカが元気を取り戻して笑顔になった。やる気が出て何よりだ。


ニッコリ笑顔を見せあっていると、ティーテが戻って来たようだ。

「おかえりなさい」

と店側でクラウの出迎えている声がした。


***


メンテナンスが完了したので、改めてクラウとカルカに店を任せ、今度はティーテを連れて、ルイはレストランに急いで戻る。


「連絡はうまくできた?」

「はい。問題ありません」

「ありがとう」

急ぎ足で歩きながらやり取りする。


「実は、作るものが大きすぎて、」

とルイはティーテに手伝って欲しい内容を歩きながら伝えた。


***


レストラン。

ルイが泊まるので、鍵も預かっている。開錠して中に入る。やはり誰もいない。


「ここが私の作業場だ」

「お命じ下さい」

「うん。早速だけど、この高さで、この板を持っていて欲しい。ごめん、限界になる前に言ってくれたら良いから」

「お気遣いありがとうございます。しかしこの程度問題ありません」

「ありがとう」


ティーテを補佐に、ルイは再び作業に取り掛かりだした。

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