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発覚と会話

今日はカルカが、見習い店員となって5日目。初めての定休日だ。


普段なら、基本的に家族のために過ごす。大きなものを洗濯したり買い物に行ったり、料理を工夫したり、家用の道具を作ったり、友人知人と交流したり。

とはいえ、日によって、ルイは、注文品に時間を当てる事もある。たまにクラウと2人がかりで魔法石に魔力を込める作業に集中する。クラウも、裁縫に集中したり、レンドルフをルイに預けて『アンティークショップ・リーリア』にお菓子を持って遊びに行ったり。


さて今日は、カルカと護衛たちの歓迎会をすることになっている。護衛6人も到着しているというので、顔合わせだ。


しかし一方で、ルイは密やかに眉を潜めている。クラウに打ち明けるべきか悩んでいる。


ルイが、自国からこのグラオンまで、日誌によれば15日ほどかかった。

カルカは次兄カルーグが魔獣で連れてきたので、半日ほど。


さて。

護衛たちはどうして、カルカ到着5日後にもうグラオンにいるのだろう。

おかしい。変だ。護衛に転送陣の手配まではしないはず。


そして結論に至るのだ。

自分は、実家の手配により、グラオンでもずっと守られていたのだろう、と。


かなり落ち込む。


***


ガランガラン。

扉が鳴る。


***


2階の応接間にて。


計6人が、ルイとクラウに騎士としての礼をしてから、ルイの再三の勧めに従い、2名のみがソファーに着席した。残り4名は立っている。座席が無いからだ。

なお、ルイとクラウとカルカは座っている。


さて。ロッキーさんとティーテさん。たまに顔を出してくれる体格の良いお客様、2人。

と思っていたら、まんまとヴェンディクス家の私兵だった。証明品もある。


「全員顔をお見せするか迷いました。とはいえ連携のために知っておくほうが得策と思いまして、皆参上いたしました」

ロッキーの説明に、クラウがレンドルフを抱きつつ感心している。


「あぁもう止め!」

今まで客だと思って気軽に会話をしてきたのに、改まった関係になるのに苛立って、ルイは声を上げて制した。

この場ではルイが最も上の立場になるので発言が強い。

皆がルイに注目し、護衛たちにはピッと背筋を伸ばして指示を待つ体制になる。


今、実家の環境がここに持ち込まれた。つまり、相応の振る舞いを求められる。

それが、すでにルイには非常に面倒くさい。


ルイは一呼吸いれて、ヴェンディクス家の者として皆を見た。

「・・・私たちを、密やかに守ってきてくれた事に心から礼を言う。ありがとう。加えて、カルカの事も、これから頼む。力を尽くして守って欲しい」

「はい。肝に命じます」

座っていた2人の護衛も立ち上がり、皆がピシリと礼をとる。


カルカもピッと背筋を伸ばす。

それをクラウがどこか不満そうな顔になっている。


少し待って。


ルイは護衛たちの礼を深く一度頷く事で受け止めた。一呼吸を置く。

そして護衛たちに、改めて着席をすすめた。


そして言った。

「さて。私とクラウディーヌは、ロッキーさんたちが護衛だという事を忘れます」


護衛たちが瞬いた。

クラウがルイを見たのが分かったので、クラウと顔を見合わせる。視線と表情で「どう?」と伝えてみると、クラウも一つ頷きを返した。ルイの意見に同意らしい。良かった。


カルカは首を傾げた。

「どうしてですか。私も忘れた方が宜しいでしょうか」

「カルカはどっちが良いのか、自分で決めて。私たちについては、今まで、店の者とお客様、という関係を築いてきたんだ。今更、主従関係になるのは調子が狂うし、単純に嫌かな。いや、きちんと護衛の仕事はしてもらいたい。つまりこれは私たちの我儘かもしれない」

「私も同意見。普通に天気の話とか、ひったくりが出たとかの話してさ。これからもそのままが良い」

とクラウも言う。


「分かりました。ではお言葉に甘えて」

とロッキーは笑った。護衛の中で最上位の人間だ。


「言葉遣いも、今まで通りを希望する」

「はい。では普段はそのように」

「うん」

「残り4人はどうしましょうか?」

「うーん。どうした方が良いだろう。正直、口調で主従関係が知られるのも問題だと思う」

「それは考えておりました。このメンバーは、何かの愛好会メンバーという事にしてはいかがでしょう」

「なるほど。例えば」


ロッキーが促したので、護衛の一人、ベルテと名乗った者が口を開いた。きっと彼の案なのだろう。

僭越せんえつながら。屋台グルメ愛好会ではいかがでしょうか。今日は町を案内してくださると聞いております。我々も、それぞれの好みの店をご紹介致します」

「それ良いね。それで行こう! なんだか急に解放感が出てきて楽しくなってきたよ、ありがとう、ベルテ」

「光栄です」


***


ルイは、カルカと5人の護衛を連れてグラオンを案内して周った。

なお、クラウはレンドルフとお留守番だ。顔見知りの客だった、護衛ティーテを1人残している。クラウがお出かけしたい場合は、ティーテも同行するはずだ。


ルイは、知り合いの店も案内していった。

バートンの露店は必須だ。ルイがグラオンで最もお世話になっている人。


バートンはカルカを見て、

「噂の新人だね! ルイに似てるね!」

と言った。

カルカがルイの呼び捨てに酷く驚き、それからバートンを尊敬のまなざしで見つめる。


ついでにオススメの果物を購入する。あまり買うと荷物になるので、今日は少なめに。クラウたちへのお土産を数に入れるのも忘れない。

それから、皆それぞれのお勧めの屋台に行って買い食いをしたり、役所を訪問して機能を説明してみたり。


昼食もこのまま外食だ。

護衛の一人が勧める食堂に入った。少し小奇麗で、きっと色々考慮してここを勧めたんだろう、と察する。

カルカは店内をキョロキョロ見回している。

実家の教育の一環で、町の店での食事経験を幾度もしてきているはずだが、落ち着きがない。


「聞いて良いですか、ルイ叔父さん」

「うん、何?」

「あの天井の模様、なんですか?」

「え? ・・・あぁ。なんだろう」

赤と緑の線を組み合わせたデザインだ。しかし『なんですか』と言われると答えが分からない。『模様だね』はきっと正解に相応しくないだろう。


「見てください。こちらは真っ直ぐだ。なのに、こちらはヘビのように曲げてあります。不思議だ。見た事のない様式です」

「うーむ」

考えたこと無かったな。ここは様式とか関係なく、雰囲気重視の不規則な装飾模様じゃないのかな。

「店員さんに聞いても良いですか」

ウズウズしている様子に、ルイは頷き、

「うん、どうぞ」

と言った。

護衛たちもカルカの様子をじっと見守っている。カルカの性格を把握したいと考えていそうだ。


カルカは多分、守り辛いんじゃないかな。動きが予想しにくい気がする。

護衛たちには全力で守って欲しいとルイは願う。


「メニューは決めた? 私は店のオススメにする。カルカは? 皆さんは?」

「私は、こちらの鉄板焼きが好みなのでこれにします」

と護衛が答え、他の護衛も自分はこれにする、と決めている。


さてカルカは。

「4つを迷っています」

「どれ?」


「これと、これと、これと、こちら。品名から料理の味が想像できないので」

「なるほど。誰か食べた事があるんじゃないかな」


「皆さん。この中で、食べた事がないものはありますか?」

カルカの尋ね方に少し驚く。知らないものを食べたがっていると察したからだ。

護衛たちは微笑ましそうに目を細めた。カルカの質問を正しく理解したのだろう。


「勘で好きなの選べば」

「勘が苦手なんです」


「どういうのが食べたいんだ? 美味しいの? 変わった味? 何か求めているものはある?」

「知らないものを食べたいです」


「良かったら、私が1つを頼もうか」

ルイの申し出にカルカが顔を輝かせた。

ルイは楽しくなった。自分も、こんなに素直に育っていれば、何か違ったのだろうか。いや、今十分に幸せだから関係ないな。

「では、私も1つをそこから選びましょう」

「なら、私も参加しましょう」

笑みながら、護衛2人がさらに申し出た。


「良いのか!? ありがとう!」


***


カルカの選んだ4つに、残り3人は自由なものを。

カルカは来た4つの中から、最も味の想像がつかないもの、という理由で1皿を選んだ。

嬉しそうなので良かったが、少しカルカを甘やかせてしまったかな。まぁ良いだろう。歓迎会なのだから。


「カルカ。私のも少し食べてみる? この店の雰囲気なら許される。家族ではよく分け合うらしいよ。私も初めて知った時は驚いた」

「本当ですか!?」

「うん。いつでもどこでもどんな関係でも許されるわけじゃないけどね。どうする?」

「食べてみたい」

「うん。ギヴァネさん、皿を1枚取ってもらえませんか」

「どうぞ。カルカさん、私のもありますよ」

護衛の一人がテーブルの上に設置してある取り分け皿をルイに渡しながらカルカに尋ねた。

カルカが驚きそれからやはり嬉しそうになったので、結局大人たち皆がカルカに少しずつ料理を分け与えた。


なんて好奇心が旺盛なのか、とルイは食事を楽しくとりながら思った。

たぶん、ルイの店には納まりきらない。

次兄カルーグの言葉に納得する。きっと、いつか他の事をやりたいのだと、打ち明けて来る日が来るだろう。

それで良いと、ルイは思った。


***


「ただいま」

「ただいま戻りましたー!」


「おかえり。あれ、皆さんは?」

「うん、そろそろ帰りますって言うから、途中で解散したよ」


「ふぅん?」

「というわけで、今からクラウ、ティーテさん、晩御飯に行こうか」

「私ですか?」

留守番をしてくれていた護衛ティーテが驚く。

「しかし、レンドルフくんが」

客として先に付き合いのあったティーテは戸惑った。


「すぐ傍の食堂だから、レンドルフも連れて行こう。今までも何度かあるから・・・クラウ、レンドルフは大丈夫そう?」

「んー。いま、大人しくしてるとこなんだよね。どうしようかな」


護衛ティーテが笑った。

「ルイさん、クラウディーヌさん。それから、カルカくん。長い付き合いになるのです、また日を改めてお願いいたします。今日はお気持ちだけで十分」

「それは残念」

と答えたのはルイだ。カルカも少し気落ちしている。


クラウの方が苦笑した。

「私とレンドルフで留守番してるから、ルイとカルカくんとティーテさんで行ってきてよ」


うーん。


「じゃあ、お言葉に甘えるよ、クラウ」

「うん。楽しんできて。私とレンドルフの分も」


一方、

「ティーテたちは結婚している?」

「いいえ。私たちは皆独身ですよ。身軽に動けるものが揃っています」

などと2人が会話していた。


***


クラウとレンドルフを残して、近くの食堂でルイとカルカとティーテと晩御飯だ。

なお、ルイの店は『結界作成具』が常に動いているのでクラウたちは安全。


今、外にて食事中のルイたちを、きっと先ほど解散した護衛たちが見守っているのだろうなぁ、とルイは思った。

だからと言ってティーテとは食事無しは駄目だと思う。


「細やかなお気遣いを、有難うございます」

とティーテが言った。

「こちらこそ。いつもお世話になっております」

とルイは返した。


「カルカさんは、グラオンに馴染めそうですか?」

ティーテはカルカに尋ねた。

カルカは驚いたようだが、頷いた。

「はい」


「ティーテは、私の店のお客様だよ、カルカ」

とルイは念を押すために再度教えた。これは事実で、これからも続く関係でもある。

カルカはじっとルイを見て、頷いた。


「どうぞよろしくお願いします、ティーテさん」

カルカは可笑しさを堪えるようになった。

ティーテも楽しそうにする。


「ひょっとして、顔見知りだった?」

「はい」

「はい」

言葉少ない返事に、ルイも頷く。

家の関係で先に顔見知りであったらしい。なるほどな。


3人で楽しく食事した。

なお、なぜかカルカは恋人や結婚について話したがった。カルカは今、好きな人はいないそうだが。

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