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紹介

本日2話目

ルイとクラウは一旦店に降りて、注文のスケジュールを調べつつ相談した。


レストランを新しく開きたいウィザティムさんは、今現在、ルイの道具をそろえることに積極的だ。

バートンの紹介に加えて、多くの人たちからの体験談も色々聞いて来たそうだ。


「どこまで本気か分からないけど、帰り際に『一式設備をお任せするのも良いかもしれませんね』なんて言ってた」

「えぇ? それ本気で? 厨房の設備って特殊だから、ルイはそこまでできないよ。あくまでここは魔道具の店だよ」

「うん。私も『魔道具でお力になれることなら喜んで』と返したものの、どうも魔道具を何でもできるもののように誤解している気が少し、している」

「うーん、それ、きちんと早いうちに確認しないといけないね」


現在の店の状態を再確認する。

午前中も結構注文の品の作成に充てている現在で、2ヶ月半先まで埋まっている。

「どうしたものかな。感じの良い人だし、お店の一式というのは私にも魅力的なんだけど。納期とどれぐらいの魔道具を希望するかによって対応できるかどうか変わってくる」

「そうだね。それにルイ1人しか作れないんだから。無理して体調崩さないようにしなくちゃ」

クラウが心配そうにルイにアドバイスする。

「うん」

ルイは素直にうなずく。


「次の話し合いっていつなの? 私も出た方が良い? サポートできるかな?」

「次はいつとは決まってない。ただ、レンドルフが心配だよ。乳児は風邪とかがすぐ大病になるっていうし」

「うん」

「私1人で。でもまた報告するから、色々相談に乗って」

「うん」

クラウがやはり、力になれないことに気落ちするので、ルイは笑んだ。


「私はここで家族で暮らすのが夢だったんだ。クラウは、家族を守っていて」

「うん」

笑顔が見れた。


クラウ、私はー・・・。


ルイはふと言いかけようとして止めた。

今いうのが相応しいのか分からなかったからだ。

『クラウの、実家の店をやりたいという夢も叶えたい』と。


変な混乱はさせたくない。まだしばらくグラオンで暮らすことを考えている。あまりに遠い未来の計画で、そのように動くことができるのか、叶えることができるのか、自信が持てない。甘い夢だけ囁くなんて無責任な事にはなりたくかった。


***


先に連絡があったのは、『アンティークショップ・リーリア』だった。

聖剣『戦乙女の剣』の買戻しについて、3日後の朝にメリディアの王子に会う約束を取り付けたという。

ちなみに、連絡に封書を持ってきたのはサリエだった。


「スーツでお会いするので問題ありませんか?」

「えぇ。問題ございません」

「何か手土産を持って行くべきでしょうか?」

「シーラが用意いたしますので、どうかお気になさいませんように」

「妻のクラウディーヌの代わりに、私が行くので問題はありませんよね?」

「はい。事情は説明済みでございます。シーラとルイ様とで面会、と伝えて降りた許可でございます」

「分かりました。ご手配に感謝します」

「どういたしまして」


サリエは微笑んで帰っていった。

決して、「シーラについてよろしくお願いいたしますよウフフ」なんて発言もそぶりも無い。サリエがそんな発言をする人物なのかはさておき、ルイは思った。


シーラさん、サリエさんにも秘密にしているのかな。


***


さて事前に分かっていたので、店の内側から正面のガラスに、3日後の午前から昼過ぎまでルイは留守、という旨を張りだした。

バートンから注意も受けたから、分かっている事は先に知らせることにしよう。


「ところで、メリディアの王子様ってどんな人?」


奥で品物を作りながら、ルイはレンドルフを連れて降りてきているクラウに尋ねた。店内に客はいない。


「知らない」


「噂とかは?」

「全く知らない。それこそ、私たちを助けてくれたって事しか知らない」

「ふぅん・・・そういうもの?」

ルイは首を傾げた。一般の人にとって、王族とはその程度の情報しかないのだろうか。


面会も口止めされているので、クラウ以外に相談できないし、バートンの注意以来、『アンティークショップ・リーリア』には午前に行くように努めているのでシーラには会っていない。


「でも、私は本当に感謝してる。是非、私からの御礼も伝えてきて。レンドルフが生まれたのも、王子様が助けてくれたお陰だよ」

「うん」

その通りだ。


「ねぇ。手土産はいらないっていう話だけど、私たちから、御礼の品を何かお渡しできないかな」

レンドルフを腕に抱きながらクラウが言った。


「良いね。でも何が良いかな。もう明日だ」

「そうだよね。ルイに何か作ってもらうにも、日が無いよね」

「そうだね。王族だから下手に食べ物というのも渡せないし」

「え、なんで?」

「毒や薬を盛られる危険があるから。口に入るものは普通、極端に警戒するよ」


クラウが目を丸くした。ルイの表情を目に留めて、ふと気づいたようにクラウは尋ねた。

「え、ルイもそうなの?」

「うーん。グラオンに来て気にしなくなったな」

「え、それ大丈夫なの!?」

「うーん。でも熱いものは熱いうちに食べたいよね」

「うん」

「だから」

「うーん」


「何が良いかなぁ。お礼の品。そもそも我が家には高級品ってないから」

家にあるちょっと良いものでも、一国の王子様に差し上げるには格が足りない。

そもそもルイの家にある『ちょっと良いもの』はほとんどが『アンティークショップ・リーリア』で買ったものだ。買いに行くのもなぁ。


「あ。そうだ。増えすぎた『銀』をあげたらどうかな」

とクラウが声を上げた。

「え。『銀』?」

「うん。だってもう何匹増えてるか。毎日真っ白い綿。重宝しないかな」

裁縫の際、綿を使いこんでいるクラウははにかんだ笑顔を見せてきた。

なお、クラウは一応店側にいる。しきりの扉を開け放して会話している。


「育てたら毎日、真っ白い綿ができますよ、って渡してみるとか。良い綿なんでしょう?」

「そうだね」

うーん、とルイは考えた。


そもそも、トリアナからこの町に至るまでに、魔物を売る商人に出会ったのが『銀』を拾うきっかけだった。あの商人はこれから魔物の時代だと偉そうに言っていた。しかし、ルイの知る限り魔物を飼っていると名乗り出た人を見た事は無い。

ひょっとして大きな工房なら飼っているのかもしれないが。以前アリエルのドレスを作った時に魔物由来の素材を色々指定したが、あの工房は素材も自分たちで入手できると言っていたから。


「欲しがるのかな。私は、出発の思い出があるから、『銀』に思い入れがあるし、作ってくれる綿も大切に思っているんだけどね」

「私は初め、『変な趣味だなー』とは思ってた。今は綿が嬉しいけどね! 他に良いものがあれば良いんだけど」

「うーん。もう明日だし、一応5匹ぐらい箱に詰めて、シーラさんに見せようかな。ダメだと言われたら進呈しなければ良いだけだし」

「うん。綿も持って行ったらどうかな?」

「サンプルとして持って行くよ。王族に進呈するほどの量は無いからね」


***


翌日。ルイは、グランドルとアリエルの結婚式用に仕立てたスーツを着て、選んだ『銀』5匹を詰めたガラス箱と、サンプル兼少し進呈用にと詰めた綿を持って『アンティークショップ・リーリア』に向かった。

さすがに今日はヒゲは無い。


道中、ヒゲ無しルイに気付いた人たちが冷やかしてきた。

「よっ! 美少年!」

「美少年は止めてください! もう父親です!」

「そうだねぇ。はは。美青年?」

色んな人にからかわれながら歩いていく。


ちなみに、グラオンに来てから3年経って体質も改善した結果、ルイの身長は急激に伸びてきている。

先月にクラウの背に追いついた時の嬉しさと言ったらなかった。クラウはなんだか不満そうだったが。

小さくて可愛かったのに、とボソリと呟かれたが冗談ではない。

とはいえ、ひょろりと伸びている状態で、あまり強さと逞しさが感じられない。うーん。それに、父や兄たちと比べるとやはり自分は小柄なままだ。

もっと伸びないかな。祖母は大好きだが、小柄はあまり引き継ぎたくない。男だから。


さて、『アンティークショップ・リーリア』では、奥の入り口に来て欲しいと事前に連絡されていたので、今日はそちらに向かう。

奥の扉にたどり着く前に、立派な馬車が停まっていた。これに多分ルイたちが乗るのだろう。


奥の扉をノックすると、少し慌てた様子のシーラが出てきた。

ルイは驚いた。

あまりにシーラの装いが美しかったのだ。

驚きのあまり褒めそうになって、しかし下手に口は開かない。シーラの気難しさを知っているからだ。


「ええと」

珍しい事に、普段沈着冷静なシーラが慌てたままで言葉を口にした。

「えっと」

両手をパタパタ動かして、自分の頭や肩を触って確認しつつ、足元なども視認している。


「大丈夫ですよ」

と穏やかな声がかけられて、奥を見ればサリエが姉のように微笑んでいた。

「大丈夫!?」

「えぇ。完璧。さぁご出発を」

「えぇ、えぇ」


サリエがニコリとルイにも笑って見せて、深々と礼をとった。

「どうぞ行ってらっしゃいませ。有意義な時間となりますことを、お祈りしてお待ち申し上げております」


このような時はハッキリと主従関係なのだと、ルイは思った。


***


連れていかれる場所は極秘だという。

馬車の窓には覆いがしてあって、つまりルイに行き先が分からないようにしてあった。

一国の王子に会うのだから、当然の措置だとルイは思う。


妙に緊張しているシーラを前に座っているルイは、ゆっくりとした言葉で礼を告げた。

「シーラさん。今日は、私たちの要望に応えて、場を設けてくださって本当に有難うございます」

「いえ。大したことではありません」

どこかソワソワしているのに、口調は普段通りに戻っていた。


いつも冷たい口調なのに、こんな風に慌てるんだな、とルイは微笑ましく思ったがそれを表に出さないように努める。シーラはきっと動揺するだろうから。そんな事をしては可哀想だ。


「あの、実は、クラウと相談しているうちに、私たちが無事この町で過ごせるのは、シーラさんや王子様のお陰だと感謝を覚えまして、何か感謝の気持ちをお渡しできないかと思ったのです」

ルイのゆっくりした話し方に、シーラが少し首を傾げた。


ルイは布鞄に入れていたガラス箱を取り出した。

「魔物のプラティクスです。私がトリアナからグラオンに来る際、トリアナ国内で拾ったものです。初めは1匹だったのですが、増えました。エサとして水と光を与え続けた場合、非常に上質な綿を生産します。もしお気に召すのなら、王子様に差し上げたいと思うのですが、どう思われますか?」

「プラクティクス。初めて見ます」

シーラが普段を取り戻し、興味深そうにルイの手のガラス箱の中を見つめた。


「メリディアにはいないのでしょうか?」

「いえ、おりますが、こんな風に手元で増やしている方を初めて見ました」

あれ、そっちの『初めて見ます』だったのか?


ルイは尋ねた。

「王子様に差し上げるものとして、失礼にならないでしょうか」

「これは・・・」

シーラは首を傾げた。

「本人に聞いてみないと分かりません。魔物の献上など普通ありません」


「シーラさんなら、欲しいですか?」

「ジェシカが喜びそうなので、ジェシカのためにいただこうか、と判断しますが。いえ、欲しい、とお願いしているわけでは全くありません」

「なるほど。・・・では王子様にはお見せいたします」

「えぇ」


「ところで、王子様のお名前をお伺いした方が良いのだろうか、と思うのですが」

「・・・あぁ」

ルイの質問に、シーラは表情を変えず頷き、それから少し言いにくそうに口にした。

「イェイレフス=イーラ=メリディア様です」

「・・・」


ルイが無言になったのは、言い終えた後、シーラが頬を薄く染めたからだ。


相当好きなんだな。とルイは察した。

こんなに態度に出るなら、相手も気付いていそうだが。

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