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絶対に魔道具売って生計を立てる  作者: 天川ひつじ
第1章 店を開こう
6/100

初売り

本日2話目

老人は顔を赤くして目を輝かせて話す。

「私は王国騎士レンに憧れてね! 私も騎士を目指したよ。今はこんな風だがね。いやぁ嬉しい。子孫に会えるとは! あなたも、赤い龍と話したことが!?」

「え、はい・・・」

恐る恐る、ルイは頷く。


ルイは動揺していた。

確かに祖先は、魔王討伐に成功した魔法剣士のレンだ。

その仲間だった赤い龍のグランドルとの親交も代々続いている。


憧れられるのか。ルイはゾッとした。


自分が、顔の苦労に悩むあまり気づいていなかったのか。

それとも、暮らす中では当たり前の話だから意識することが無かったのか。


祖先はもう遠い昔の人なのに、子孫に憧れを投影するのか。

いや、だが、龍と交流があるのは珍しいと教えられている。気ままに遊びにくるあの龍は、あのように見えて伝説の存在だ。実感はないが。


「何、驚いているのかい。このあたりの国は、大昔は広大な1つの国だったからね、トリアナの英雄は、メリディアの英雄でもあるのだよ、ハハハ、嬉しいね」

「あ、あの、しかし祖先の話ですから。私はこんな人間です。どうか、人には言わないでいただきたい」


「大丈夫だよ、大丈夫だ。私はギルドの人間だよ! 信頼して」

「はい。どうか、お願いいたします」

何か危うい心持がして、ルイはマスクもとって顔を晒し、丁寧に礼をとって頼んだ。

その礼を受けて老人はさらに感動した。


急いだ方が良い。

きちんと口止めを頼んだ上、早く礼儀正しく去った方が良い。そう思った。


ルイは魔法石の購入を手早く済ませることにした。マスクもしていない。笑顔で伝える。

「こちらの石を。1つお願いします。2,500エラはこちらで支払うのでしょうか」

「あ、これにするのですね。はいはい、支払いはこちらのトレイに」


老人が差し出した金属プレートにコインを乗せる。ピピッと音が出た。何かの判定がされた? 何だろう。でも、ここは聞かない方が良い。その方が早く済む。

老人はトレイの上でコインを数えて金額を確認した。

「丁度2,500エラ。では、商談成立です。何か箱は要りますか? 別料金になりますが」

「いえ、そのままで構いません」

ルイは左の手の平を差し出した。

その手のひらに赤い石が置かれる。ルイはすぐに石を握り込んだ。

すぐに石が熱を持ち始めた。これを悟られたくなかったのだ。原因は単なる特異体質だ。


ルイの家系は代々『熱』の魔力との親和性が高い。龍との交流の影響だと考えられている。


そして、ルイは、困ったことに魔力が身体の外に少しはみ出している。他の家族は問題ない。

普通はこんな状態になるのは、まだ魔力を自覚できていない乳幼児か、魔力が多すぎて身の内に収めることができない強力な魔導士だ。だが、ルイは違う。

ある程度の年齢で適性を調べた時、まだはみ出している魔力を診断した人は言った。

『自分の魔力を受け入れていない。どこかで拒否をしているようだ』


酷く悔しい診断結果で、ルイは自分の力さえきちんと身に納められないのかと思った。

この診断はルイと家族だけが知っている。


だから、他の人に魔力が滲み出ていると知られるのは酷く嫌だ。理由を知るはずが無いから、魔導士並みに魔力が多いのだと勘違いされるのも酷く嫌だ。


そして、親和性の高い『熱』の魔法石がきれいに空っぽだと、ルイが触れるだけで勝手に石に魔力が溜まってしまう事が多い。


普通は、魔力というのは集中し念じるように込めるものだ。時間も必要だ。


ルイは、荷物の中に左手の石を片付け、ゆっくりと立ち上がる。

「丁度良い大きさです。買えてよかった。ありがとうございました」

笑顔で礼を告げた。

老人も立ち上がった。嬉しそうにニコニコしている。

良かった。雰囲気が安定したようだ。この人は口外しないだろう。内心でほっとした。如何なる理由であれ人から好奇の目で見られたくない。


「では、良い旅を」

「あなたもお元気で。よき暮らしを」


ルイはマスクをつけなおして、今度こそギルドを後にした。

次の町に行こう。


***


目指すのは鉱石の町グラオンだ。

リグリシオから馬車でさらに7日はかかるようだ。


もう、野宿だけと決めた。

風呂問題も、魔法石をギルドで購入したから、大丈夫だ。

馬車で移動中にずっと魔法石を握って魔力をためる。

リグリシオの次についた町で、大きめの花瓶などを購入したので、野宿前に川でこれに水を汲み、人目の無くなる夜を待って結界を張り、水を魔法石で湯に変えて、髪と身体とついでに衣服も洗う。

これで解決。

とはいえ、やはり魔道具として何か作れそうだ。


ただ、馬車代と食事代だけはどうしてもかかる。所持金があっという間に消えていく。

自国を出てから11日目の朝。リグリシオからは2日目。

ルイは、朝食を食べに行く前、簡易テントの中で決断をしようとしていた。


現在の所持金は、17,200エラになっていた。

これに、自国のコインが、78,730チルだ。なお、換金所の時から変わっていない。

換金所で150,000チル残っていると思ったのは単に馬鹿だったからだ。自国でも馬車代や食事代、宿代も払っていたというのに。

隣国到達に浮かれたのと、現金管理をきちんとしたのがこの旅で初めてだったせいもある。出発時点の資金額を、単純に思い出してしまったのだ。

コインの減りに、残高を改めて数え直して慌てて思い出を頼りに記録をつけたルイは、その日かなり落ち込んだ。


さて、とにかく。

エラの残高がもう心もとない。今日明日は過ごせるだろうが、多分どこかで足りなくなる。

エラを増やしたい。

そうすると、自国のチルをエラに換金するか、魔道具を売るか、の2択だと思う。


売れるなら、売ってみたい、とルイは思った。

魔力分解機器は止めておく。

ではなくて、結界作成具だ。4つも持ってきている。

犯罪に使われたり、魔法使いや警備の人の仕事仇になると思ったけれど。


でも、1つ2つぐらい、売っても問題ないんじゃないか?

売り先は、ギルドだと扱われ方が分からなくて不安だ。

だから、普通に道具屋に。道具屋自身が店に使ってくれるんじゃないか?

道具屋に魔法使いや警備の者が配置されているのを見たことがないのも大きい。つまり仕事を奪う事はないはずだ。


よし。

決意したルイは。まずこの町の道具屋に売り込みをかけることにした。


***


朝食をとってから、ルイは道具屋に向かった。

しかし、まだ開いていなかった。

あれ、道具屋っていつから開いているものなのだろう。

閉まっている扉の前でジーッと立っていたら、後ろから声をかけてもらった。

「そこ、午後からしか開けないよ」

「え。あ、ありがとうございます」

振り返ると、母親の年齢の女性だった。「あら」とその人は言った。

「風邪かい? お大事にね」

「え、あ、ありがとうございます」

女性は嬉しそうに去って行った。なぜだろう。


とにかく午後まで待つのは時間の無駄なので、先に進むことにした。

道具屋というのは他の町にもあるものなのだから。


***


馬車に乗り昼食に降りた町で、ルイは道具屋に行くことができた。

「すみません。買い取りというか、道具の売り込みをしたいのですが・・・」

「はぁ!?」

店主と思われる大柄の男性が顔をしかめた。

「売り込みは基本断ってるんだがね」

「えーと、いえ、私自身が便利だと日々使用しているものです。ただ、少し内密で」

店内に魔法使いがいると嫌だな、と思ってしまったのだ。


「はぁ!?」

店主の怒気が強まった。店から客がいなくなった。


「おい、アンタが変な事言うから、皆怖がって出て行っちまっただろうが!」

「え、私のせいですか!?」


「どう責任とってくれるんだ!」

この言葉にルイは慌てた。店内に誰もいないなら、押し売れ!

「これです。結界作成具です。少しだけ起動します!」

「はぁ!?」


ルイは勝手に起動した。

周囲の音が少し静かになった。やはり、多少の防音効果があったようだ。

「おい、何をした」

店主が異変に気付いたようで、ルイをギロリと睨み、ルイの取り出した魔道具を見る。

「魔道具は、俺の店では取り扱わない」

「いえ、あなたの店にお売りしたい。これは、魔法使いが作る結界を、道具で作るものです。私は毎日旅をしている。最近はずっと野宿だ。毎晩これを使う。魔物や強盗など入らないように設定している。魔法石にも良いものを使っている。さらに細かい設定を希望するなら、今この場で設定して、売る事が出来ます」


「あぁ? 結界だと。守備範囲は」

「守備範囲と守備時間が連動している。時間が短くていいのであれば、範囲は広げられる。逆にー」


「この店全部、いや、ウチは2階もある。そこまで広げたら、何時間だ」

あ、興味を持ってもらっている、とルイは感じた。


***


「魔力の補給はどうなってる」

「8時間の使用なら、停止時間中に自動補給する。供給専用に魔法石を入れていますので」

「・・・これはまた豪華な品物だな、おい」


この言葉にルイは緊張した。店内の広さだけだと何時間、建物すべて入れると何時間、等を尋ねられた。

興味を確実に持ってもらっている。


「ふぅん。まぁ良い。値段の希望は?」

と店主が言った。

ルイの顔に赤みが差した。

「あの、これならという値を聞いても、宜しいでしょうか?」


店主があっけにとられた顔をした。それからルイをじっとみて、なんだか納得したようになって魔道具を手に取る。

「兄ちゃん、原価は? それは下回ったらマズイだろ。おかしな値段だったら指摘入れてやるからよ、思う値段言ってみろ」

「50,000とか」

「へぇ? だが高い。買えない。値下げしろ」


「やはり、50,000の品物ではないと、いう事でしょうか」

ルイは真面目に尋ねた。自分の作ったものの価格を知りたい。

「いや。50,000でも原価割れだろうが。だからその意味では、相当安すぎる。だがなぁ。坊主、俺んとこは、今までこういうの無しでやってきた。つまり無くても良いものなんだ」

教えるような口調に、ルイは素直にうなずいた。

ちなみに客は誰も入ってこない。結界は消したが、商談だからと店主が扉にカギを閉めたのだ。


「だがそれでも『ちょっと高いけど買おうか、出した金の価値以上に楽になる』と思えたら、俺は欲しい。だが、所詮、ちょっと楽をする程度の事だ、客としては、出せる金額が限られる」

ルイは話に頷きながら耳を傾ける。


「客の俺が買いたくなるのは、35,000エラだ。40,000エラなら買わないな。今まで通りの対策を続けるだけだ」

「なるほど・・・」

呟きながら、ルイは気落ちしていた。

使った素材よりも低い値段でしか売れないのだ。自分は一体何を作っているのだろう・・・。


「たぶん、もっと本気で困っているところに売れば、もう少しは値が付くだろうが。まぁ、そう落ち込むな。どうする。売るのか、止めるのか」

「え?」

「35,000エラなら俺は欲しい」

「・・・」

ルイは店主の顔をじっと見つめた。

お金は欲しい。そして、この人は親切に色々教えてくれた。

多分、素材云々を考えると、ものすごく高価だ。自分は多分、素材の値段をあまり考えずにモノを作っている。今後はそういう事も考えて行かないといけない。勉強になった。


「・・・35,000エラで、どうか、お願いします」

「ありがとうよ。ついでに、設定も頼むわ」

店主が希望する設定範囲を刻む。建物の1階全てを結界で覆う仕様にした。


「なぁ、これの盗難防止ってあるのか?」

「え?」

それはつけていない。


「これ盗まれたら終わりだろう。合言葉いれないとそこから動かせないようにするとかになっていると良いんだが」


魔力供給専用に組み込んだ魔法石に、専用に命令を刻めば実現可能だ。


店主からの希望がポツポツ出てくるので、ルイは希望にそうように設定を変えた。

かなり特殊仕様になってしまったが、実際の店の人の希望が分かったのは良かったと思う。


ちなみに、手間と時間とルイ自身の魔力を相当使用したが、貰えたお金は35,000エラだった。

なんだかちょっと理不尽だな、とルイは思った。

現金が増えたのは嬉しいのだけど。


顔に出たのか、オマケと言ってサカナの干物を2枚貰った。なぜこれになったのだろう。

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