店長ジェシカに会う
「えーとデスね。本当にそうなのです、としか言えないんデスよー」
と、久しぶりに会った『アンティークショップ・リーリア』の店長ジェシカは少し目を丸くしながらそう答えた。
今日はルイとクラウと2人で魔法石5コを売りに来ている。
話題は魔法石の魔力が濃くなったという件だ。
人が意識して直接溜めるなら話は別だが、ルイが作った魔道具の方式で、ルイの影響が薄まったのに濃度が濃くなったのは不思議だ。ルイの家系よりも『熱』への親和性が高い人は稀なのだから。
ジェシカの様子にルイは少し首を傾げつつ、ついでに聞いた。
「そうでしたか。・・・シーラさんとも長く会っていませんが、お元気ですか?」
「ハイ。シーラとサリエも相変わらずデスよ。たまにシーラは外食に出かけるようになりましたけど!」
「へぇー。そうですか」
「あっ、この前行ったところは、庶民も使える良いお店だったって言ってました。エルクル通りとチューラキア通りの交差点のあたりのレストランです。お洒落で良いところって言ってましたよ。お二人も偵察に行ってきてください!」
「偵察?」
「店主たるもの、異業種とはいえ繁盛している店舗は積極的に調べるべきデス!」
「なるほど。ジェシカさんは?」
「意地悪です。私には勿体ないです。お詫びにその店のクッキーを今度私に貢いでください」
「ごめんなさい。分かりました。・・・クッキーは食べられるの?」
「お茶会は婦女子の楽しみです!」
「なるほどー」
ルイとジェシカの会話に、静かにしていたクラウが口を挟んだ。
「ジェシカ店長、スープは飲める?」
「んー。ちょっと無理デス」
「そっか。残念」
「クラウはスープは得意料理なんだ」
「何スープですか?」
「野菜をごちゃまぜで作るスープだよ。ごめんね、飲めるなら持ってこようかと思ったんだけど」
「今度、飲んでもいいかシーラに確認しておきますネ!」
「うん」
さすが、毎日通っているだけあって、クラウとジェシカは仲が良さそうだ。
「クラウさん、昨日に可愛い陶器が入荷したんデスよ。見ていきますか?」
とジェシカが尋ねて、ルイの様子を確認してきた。
クラウが興味をひかれたようだが、やはりルイの方を気にしている。
ルイは首を傾げた。見せてもらえば良いと思うけど。
「私はいない方が良い?」
と確認すると、
「え、仕事中だしまずいかなって思っただけ」
とクラウが気まずそうに言うのでルイは笑った。
「大丈夫だよ。それに私も気に入ったのがあれば買っちゃってるし」
凝った食器はこの店から購入したものばかりである。
ジェシカがこちらに出てきて、店内に置いてある小さな箱を取り上げ、クラウに向かって蓋を開けてみせた。
小さな陶器のウサギが入っていた。
お値段の札もしっかり見えた。5,000エラ。
婦女子向けの贈り物に使われそうなもので丁寧に装飾してある。
「可愛いですよねー! 持っても良いですよ、持つのはタダですから!」
「わー」
ジェシカとクラウがはしゃいでいる。
ルイは首を傾げた。クラウには買う気が無さそうに見える。とてつもなく気に入っている様子に見えるのに。
渡している給料の事を考えると、充分に買えるものだと思うんだけどな。
クラウが遠慮している様子に、ジェシカが丁寧に陶器のウサギを取り出し、クラウが察して差し出した両手の中においた。
「かわいいな」
「かわいいデスよね。シーラに強請って店の販売用に買ってもらったんデス! ・・・あ、ルイさん! 黒ウサギもいるんデスよ!」
「え? 私?」
様子を見守っていたルイにジェシカは楽しそうに声をかけ、別の小箱から陶器の黒いウサギを取り出した。
「ハイ。いかがですか?」
「はぁ」
何か変だ。ルイにこれを売る気だ。
ジェシカが差し出す手を下げないので、ルイは片手で受け取った。小さいので片手で十分。
角度を変えて眺める。うん、5,000エラはかなり良心的な値段じゃないかな。作者名がついていないけど、美しい。
クラウが両手に白ウサギを載せたままルイに近づいて、ルイの手の黒ウサギと並べるようにする。
「お揃いなのかな。可愛い」
「シリーズもので、顔の向きがちょっと工夫されているから、2匹並べると仲良しなんですよ!」
「逆に並べて置くと不仲だね」
ルイが冷静に発言したら、ジェシカとクラウに信じられないものを見るような目で軽く睨まれた。すみません。でも事実なんだけど。
「2匹揃えて10,000エラになります」
とジェシカがなぜかルイに向かって告げた。それ、2匹買ったことによる値引きとか全くない金額を口に出しただけですよね?
ルイがジェシカのニコニコ笑顔を見つめている傍で、クラウが満足したようにジェシカに礼を言った。
「ありがとう。お返しするね。すごく可愛いから見せてくれてありがとう」
「まぁ。クラウさん。良いんデス。可愛いものがあったらまた見せびらかしますね!」
「うん」
「・・・えっと。2つとも買います」
どうしてクラウが買わないのか分からないが、ジェシカは絶対これをルイにさりげなく売り込んできている。さすが侮れない。クラウがそれに気づいていない事も含めて。
「わぁ! クラウさんにプレゼントですか?」
「うんまぁ」
なんだろうなぁ。
このやりとりにクラウが、
「え」
と一言だけ声を上げた。どうやら、驚いたけれど買ってもらえるのは嬉しいみたい。
ルイは苦笑しながら答えた。
「店のカウンターに飾っても良いしね」
絶対ジェシカに嵌められたけど、全く悪い気はしない。
「うん。そっか。それ良いね」
とクラウがとても嬉しそうに返事をした。
***
ジェシカがウサギをきれいにラッピングしてくれているのを見ている間、ルイは尋ねた。
「そういえば。『熱』の質が濃くなったという事ですが、毎日の購入数は変わりありませんか?」
質が濃くなったのなら、数を減らさないのかな。
「数を決めているのはシーラですが、変更の話はありませんので、5コのままでお願いしマス」
「今後のために貯蓄ということですが、今後に何かあるのですか?」
これは少し気にしていた事だ。
「・・・えーとデスね。ほら、私は、魔力の供給が続く限りは、シーラたちより長く生きる事になりマスので」
「・・・」
「ルイ様が良質な魔法石を提供してくださる間に、たくさん残しておきたいと、シーラが判断したのデス」
少し寂しそうな様子に見えた。
少し迷ったがあまり深くも考えないで、ルイは申し出た。単純に力になりたいと思っただけだ。
「あの。『熱』への親和性が高いのは、私の家の代々の性質らしいです。グランドルと仲が良いからだと言われています。・・・だから、私がいなくなっても、困ったならトリアナの私の家を訪ねてください。きっと他の人よりも『熱』に魔力を込めることができるはずです。家にも手紙を出しておくし、こちらにも一筆残します。・・・こちらはメリディアの、貴族の関わるお店だから、トリアナの貴族の我が家とつながりができるのが、問題なければいいのですが」
「貴族」
小さく、クラウが呟いたのが耳に届いた。
ルイがちらりと振り返る。
少しショックを受けた? 貴族だとダメなのか?
ジェシカがニコリと笑顔を見せた。
「私と、この店は、貴族に愛用してもらっている庶民の店ですから、トリアナのお家と個人的に交流があっても大丈夫デス! ルイ様、お言葉に甘えて、シーラとサリエに相談させていただきたいデス。でも本当に宜しいですか?」
「はい。国や実家にとって問題無いのであれば、代々騎士精神が根付いている家です、助けとなる事を喜びこそすれ厭う事はありません」
「ルイ様、ちょっとカッコイイですね! 感謝のキモチに、この石をオマケにつけちゃいマス。繁栄するって意味があるんデスよー!」
こうして、ルイとクラウはウサギの入ったラッピングを携えて『アンティークショップ・リーリア』を退出した。
次はギルドに行こう。
あ。その前に。
店を出て、歩き出す前にルイはクラウに向き直って真剣な顔をした。
クラウが少し不思議そうに構えた。
「あの。私の家は、貴族だけど」
単語にクラウも真剣な顔になったから、やっぱり貴族である事を気にしている。身分の差かな。
「私の家は、恋愛結婚が多いんだ。トリアナで独特な地位を築いていて、相手の格式など関係なくなっているから。ちょっと変わってるんだ。・・・例えば、違う国の教会のシスターを口説き落とした先祖もいたって聞いた。騎士が多いから、代々色んなところに行って、色んな人に会うからだって言われている」
「・・・へぇ」
クラウは目を瞬かせたが、少し表情が和らいだ気がする。
「どうしても家を継ぐ人には政略的な要素が入るけど、国の重要な役割を担う騎士になる事が多いから、自国の貴族の人と出会う事が多くて、そこで恋愛結婚してる。私の一番上の兄もそうだよ」
「へぇ、そっか」
クラウがじっと見つめていた。ルイは少し照れ、自分に苦笑を覚えた。
あんなに、幼少時から、婦人方への美辞麗句を言わされ続けてきた身だというのに。
ひょっとして、本番のこの日のためにたくさん練習してきたのかな、などと思う。
「・・・良かったら、ずっと一緒に居てくれませんか。生涯において」
クラウは目を丸くした。
それから少し顔を赤くして、少し拗ねた。
「ここで今言う?」
他の店の前、往来だ。先ほどの会話が『お肉買ってきて』でも全く違和感のない場所。たしかに何も考えてない。
「無かったことにして」
ルイは演技した。少し悲しそうに言ってみた。
「え、あ! ごめんそうじゃなくて」
酷く慌てられたので、ルイはすぐに演技を止めて笑った。
「ううん。別の場所が良いな。そうだ、さっき教えてもらったレストランに行きたいな。今日の晩とかどうかな」
「え。うん」
クラウがちょっと緊張した。
「だから、今のは忘れたふりをして。正式な手続きと違っても、許してくれる?」
「正式な手続き?」
クラウは首をかしげたが、ルイは黙っておいた。
***
ルイたちは、先に家具屋に行くことにした。
店主が出て来てくれる。ジェイクも顔を見せてくれた。
「長期計画で、宝箱を作るんですが、できればできるだけ自分たちで作りたくて。でもやはり専門家に任せた方が良いですか?」
「まぁそりゃ、任せてもらった方が確実だけどな。道具だって、場所によっていろいろ変えてるし、木材だって、同じ種類の樹でも実際は1つ1つクセがある。初めは良いが、時間が経つとそのクセが現れてくるもんだ。それを見抜いた上で俺たちは作ってる。材木だって金具だって、実際合わなくて廃棄している部分も多いんだ。だからまぁ、良いものを作ろうと思えば頼んでもらうのが一番なんだけど、思い出を贈りたいってなら話は別だ。だんなになら、木材も融通してあげるけど、釘や道具は無理だから自分たちで揃えてもらわないといけない」
「うーん。やっぱり頼んだ方が良いかな? どう思う?」
とルイが尋ねると、クラウも頷いた。
「そうだね。内装と外装と機能に力を注ぐことにして、箱は頼んだ方が良いかも」
「これぐらいのサイズで、これぐらいの高さ。外装と内装は自分たちで作って贈りたいから、本当にシンプルな状態で宝箱の箱が欲しいんです」
「金具は? 金具も要らない? 下箱と蓋とバラバラの状態の方が良いぐらい?」
「あ、蝶番のところまではしてほしいです。カギは要らないです。依頼内容を絵で描いて良いですか?」
貰えた紙に、形状を描いていく。幅高さ奥行も書いた。
「材質はお任せしたいです。宝箱として良い感じのに。ちなみに受け取ったら、自分たちで中には布を張る予定で、外は魔法石や金属線や金具を取り付ける予定です」
「予算は?」
「普通に作ったらどのぐらいですか? あと納期も教えてください」
「んー。そうだなぁ。大きいけど構造は簡単だ。とはいえ蓋が曲線だから少し手はかかる。30,000エラ。8日後にはできてる。大きいから少なくとも3人以上で届けることになるから、配達料として別に2,000エラ」
箱部分の注文を決めた。




