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絶対に魔道具売って生計を立てる  作者: 天川ひつじ
第2章 つながり
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贈り物の検討

少しひるんだ様子のクラウに気付いて、ルイはハッとした。何をムキになっている。こんな言い方は良くない。

ルイは慌てて、言い直した。

「ごめん、とにかく」

言葉を迷って、困った時にいつも相談していたグランドルの顔がポンと脳裏に思い出された。

ルイは彼がアリエルを口説く様子を念頭に描いた。

「あなたが良いんだ。どうかいてほしい」


クラウが目を丸くした。ルイは言ってからカッと赤面した。

思わず立ち上がったまま机に腕をついて項垂れる。

なんて発言だ。求婚か。


いや。ルイは顔を上げた。

そうだ、店主として店のために店員になってと頼む。これも一種の求婚じゃないか。店として。なるほど。


「・・・そんなに言ってくれるなら・・・でもせめて30万にしてくれないか。逆にいたたまれなくて居づらくなる」

その言葉にルイはギョッとした。

ルイはどこか恐れるように確認した。

「本当に、30万で、店員でいてくれるのか?」

「あぁ、当面は」

当面という言葉に心配になるが、きっと今はこれ以上の交渉は逆効果だ。


「・・・分かった。じゃあ、給料として、30万エラでいてほしい」

クラウが安心したように肩の力を抜く。それから笑んだ。

「分かった。有難う、店長」


ルイは驚いた。『店長』ってクラウが言ったぞ!?


クラウが少しからかうように笑む。

「言葉遣いは今のままでいい?」

「あぁ、今のままで良い」

少し頬が上気しているのを、つけヒゲできちんと隠せているだろうか。


クラウは気づいたのか気づいてないのか、

「じゃ、このままで」

と普通に返した。


一歩前進だとルイは思った。


***


毎朝、『アンティークショップ・リーリア』に魔法石3コを売りに行く。日課だ。

ルイは、ふと思った。

クラウの弁償期間の残りは11日間。逆に言えば、17日間、クラウは真面目に店で働いてくれている。

今まで、クラウを店に残すのは心配で一緒に連れて出ていたが、一度留守番またはお使いを頼んでも大丈夫なのでは無いだろうか。


「クラウ。あの、忙しいから、きみに、『アンティークショップ・リーリア』への販売をお願いしたいと思うんだけど」

朝食を食べ終わり、ルイはじっとクラウを観察するように見つめながら言った。


クラウはふとルイを見てわずかに目を細めた。ルイの様子がいつもとは違うと見て取ったようだ。

「・・・良いよ、店長。行ってくるから任せてくれたらいい」


ルイは思う。

もし、万が一。これでクラウが売り上げの9万エラを持って姿をくらませたら、それはもう仕方ない。

信用してしまった自分が愚かだっただけだ。

頼んでいいのか、未だに確証が持てず不安もある。

でも、大丈夫。きっと。この人は、裏切るようなことなどしない、はずだ。


ルイの内心の覚悟を感じとるのか、クラウは少し首を傾けてから目を細めた笑みを見せた。まるで男みたいだ。その表情に違和感を持つ。あれ。ひょっとして、この顔は出稼ぎ用?

「店長、えーとさ。俺がこれから料理しよっか、全部」

「え?」


「だって、店長の作業時間を増やしたほうが良いからさ。姉さんたちの贈り物の分。俺はどうしてもほら、作る手伝いとかはできないから。お使いとかなんか、そういうところで貢献するしかないなって」


「・・・きみがいてくれると、意見とか、色々教えてもらえてうれしいんだ。だからそんなに」

卑屈になるな、と言いかけて、その表現ではない気がする。どう言えば良い?


「まだ弁償期間だけどさ、ほら、良くしてもらってるから、その分できることしないと」

「クラウ、負担に思わないで」

ルイは訴えるように、身体を前のめりにさせた。給料も、2階を借りたのも、全部それは、ルイのためだ。


「協力してくれる事が増えるのは勿論嬉しい。でも、今、この状態で本当に助かってるんだ。だから、身に過ぎると負担に思わないで欲しい。お願いだ」

「・・・分かった。でもあんた、私を過大評価しすぎだよ」

とクラウが笑った。


「えーと、お使いに行ってくる。行けばいいんだろ? 食事も私が作ろうか?」

「・・・朝は私が作る。昼をお願いしたい。晩は、クラウかな。様子を見て、私が無理そうだと思ったら作ってもらえるかな。相談できそうな状態ならどうするかその時決めよう」

「分かった。あ、でも、朝の食器は洗うよ。その方がすぐ店の作業に入れるだろ?」

「あ、うん」


***


クラウが食器を片付けて、魔力入りの『熱』の魔法石3つを持って、『アンティークショップ・リーリア』へ販売に行ってくれた。

ちなみに、食器を割る事も無くて安心した。

あんなに自分が警戒したのはなんだったんだろう、とルイは思う。


作業に集中したいから、店の案内板は『CLOSE』にしておく。


「さて。じゃあ、この時間を、グランドルとアリエルさんへのお祝い制作時間に充てるか」

とルイは呟いた。


ルイは机の上に真っ白な紙を置く。

椅子に座って、それを見つめて考える。

ルイの場合、頭の中で色んなイメージを描くので、先にこの作業をした方が案が出やすい。


えーと。

聖剣に代わる、長い時間を変わらず姿を保つ品。

グランドルとアリエルさんの記念の品。

それは、アリエルさんや自分たちが死んだ後、グランドルがきっと大切にしてくれるものだ。

頑丈で。それでいてアリエルさんも喜んで愛でていた、という記憶が付加されていて欲しい。


だから、やっぱりアリエルさんが使うもので良いと思う。

クラウとも日々相談している。

宝飾品、1点物で豪華なネックレスが今のところ有力候補だ。


ただ、宝飾品の場合、どうしても作りが繊細になる。強度はそれで大丈夫なんだろうか。

本当に宝飾品が良いのだろうか。

もし宝飾品でなければ何がある?

鏡。駄目だ、鏡の部分はどうしても曇る。

食器。割れるだろ。

カトラリー? うーん。


ルイは途中で閉じていた目を開けた。

やはり、今のところ、宝飾品、ネックレスが1番の案。


今までのクラウとの相談で、一度『対の腕輪』という案も出た。

それならアリエルの亡き後は、グランドルが両腕にそれぞれ嵌められる、と良案に思ったのもつかの間、グランドルは巨大な赤い龍にもなるのだから腕輪とかダメだと思い出して没になった。

つまり、グランドル自身は身に着けないものを作るべき。


「ただなぁ。ネックレスでも、龍の姿のグランドルが目を留めるには小さすぎる。もっと存在感のあるもの、無いかなぁ」


ちなみに、剣とは違う品でありたい。剣は前の勇者のアイスミントを連想させるものだから。


***


「ただいまー」

ガランガラン、と扉につけているベルも鳴った。クラウが帰ってきたのだ。


しきりの扉を開けるまでに、ルイは、テーブルの上にアゴを乗せていた姿勢を正した。

動きかけたところに、しきりの扉が開いてクラウが姿を見せる。

「おかえりなさい。ありがとう」


「はい。これ、9万エラ。あと、店長に伝言で、シーラさんが『熱の魔法石、可能なら5コ程度に増やして欲しい』って言ってた」

「え。当面の間?」

「いや、今後、っていう感じだった。ごめん、明日またきちんと聞いておく」

「うん」

「店長、他に何かやれることは?」


ルイは無言でクラウを見上げた。椅子に座ったままなのだ。

クラウも真面目な顔でじっとルイを見下ろしてくる。その表情は、いつもより厳しく男っぽい。


ルイは言った。

「クラウ。お願いだから、もう少し力を抜いて。そんなに店に貢献しようって頑張らなくても良いから」

「え?」


「きみに余裕が無いなら、辛い。もっと気楽でいて。・・・部屋とか給料とかのことは、考えないでいて」

ルイの言葉に、クラウは顔をしかめた。

ルイは言葉を重ねた。

「違うんだ。その、余裕があって、うん、真面目だけどそれでもちょっと気楽にいてくれる方が、私が嬉しいんだ。・・・その嬉しさのために給料とか払うんだ。もっと気軽に。今まで通りで良いから」


「どうすればいいんだ」

クラウが声を上げた。

「相場より手厚い待遇に給料もらって、なんとか見合わなきゃって思うんだよ! 相場に戻してくれたら」

「思うんだけど、クラウは真面目だから、給料を払った時点で、きっと同じだ」

ルイは今気づいた点を指摘した。

「きみは、本当に良心的で責任感が強い。お願いだから思いつめないで」


はぁ、とため息をついたのはクラウだ。

不満そうに口を尖らせた。急に子どもっぽくなった。

勝手に椅子にガタリと座る。不機嫌にテーブルの上に肩肘をついてアゴを乗せた。

「もう。分かったよ。じゃあ、もう、くそ」

最後に悪態。


「はい! 作業は進んだのか?」

目つき悪くルイを見てくるので、ルイは不満そうにクラウを見た。

「・・・店員の態度が酷い・・・」

「店長が、怠けろって言うからだ」


ルイは呆れた。

まぁいいや。根を詰められるより、こっちの方がまだ良い気がする。あのままだと、クラウはきっと押しつぶされて、どこかに去ってしまう気がするからだ。


「品物は、やはり宝飾品かな、と考えてたんだけど。グランドルは巨大な龍だから、宝飾品だと小さすぎるから、いっそドレスの方が良いのかな、などと、ちょっと脱線していた」

「ドレス? 悪くなるの早いだろ? 生地だし」

「うん。でも、大きさは、龍の姿のグランドルの目に留まるって思ってさ」


「・・・強度は置いといて、結婚式に間に合えば、姉さんに着てもらえたらいいけど。とはいえ、耐久性の高い生地なんて程度が知れているんじゃないのか?」


「いや、魔物からの素材なら、良いのはありそうだ」

魔力を帯びていて、見た目以上に強いのだ。


「ドレス、かぁ・・・」


***


贈る品を検討する。


『アンティークショップ・リーリア』にも相談する。


金属工芸ギルドにも出向く。

装飾品で半永久的に残り続ける素材、加工技術やそれに詳しい人を教えてもらう。

それから、生地の場合で強度の高いものはどれぐらい保つのか知っている人を教えてもらう。


魔法石に魔力を貯めつつ、魔道具も作りつつ。

基本的に、クラウが『アンティークショップ・リーリア』に行く時間に、ルイも外出して知識を求める。


***


「案外、金属と同レベルで、生地も保管できるみたいだ。どうする、どっちが良いと思う?」

「・・・実は、姉さんは宝飾品を身に着けないんだ。着けても小さい方が良いみたい。だから、豪華なネックレスより、ドレスの方が良いのかもしれない」


「そうなのか? ・・・ただ、ドレスの場合、素材の入手から時間がかかる可能性がある。ドレスなら結婚式に是非着て欲しいから、式がいつになるのかがかなり大きな問題になるな」

「予定、なぁ、あんたが龍に渡した通信具で、それとなく聞いてみないか?」

「聞く事で早まっても困る、と思うと・・・」

「うーん。たぶん、姉さんの事だから、もう私が帰った日の翌日とかに教会にいって簡単に済ませそうだ」

「つまり、クラウの帰郷次第って事か?」

「可能性高い」


だったらクラウは、贈り物が完成してから、それを持って帰れば良いのでは。


***


そんな日々を過ごす、ある日。


ガランガラン、

と、店のドアにつけている鈴が鳴った。

奥で、打ち合わせ中のルイとクラウは顔を見合わせた。『CLOSE』にしているはずだ。


ルイとクラウが驚いて急ぎ店側に出る。


「カルーお兄様!」

ルイは驚きの声を上げた。

ちなみに、クラウがその呼び方に驚いたが、ルイは全く気づかない。


旅用の騎士服に身を包んだルイの4つ年上、次兄のカルーグ=ヴェンディクスが、

「悪い、開錠した」

悪びれもなくニコリと笑んだ。


ルイが実家に手紙を出してから、丁度20日後の事だった。

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