手を組む
本日2話目
店に戻って昼食後、今後のことを話す。
グランドルとアリエルは自分の店に戻ると言った。
「店は開けたほうが良いのか分からないわ。本当に、料理屋の才能は無いのだと痛感するから」
アリエルはグッと悲しそうにしている。
アリエルだって、クラウと同じように、あの店を続けようと努力したのだとルイは察した。
「とりあえず今後の事を考える。店はしばらく閉めて暮らすわ。クラウ、あなたも弁償期間が終わったら帰ってきてね。相談いろいろしましょう」
「・・・俺は帰らないかもしれないよ」
とクラウは答えた。
アリエルが目を丸くしたのを、クラウが説明を加える。
「ほら、あの、邪魔したくないっていう気持ちも、察してもらいたいな」
「・・・そ、そう」
思いがけない正直な告白に、アリエルが顔を赤らめている。
そんなアリエルをグランドルが愛おし気に見つめている。
「あの・・・でも」
「分かってるって。でも、やっぱりほら、居づらいってのも分かるでしょ」
「・・・ごめんね」
「うーん、まぁ、でも実家だから帰るけどさ」
「えぇ」
姉妹の会話に、グランドルが少し申し訳なさそうな顔をした。
ルイが気づいて見あげると、
「あのように素直に言われると、少し申し訳ないとは思うな。そもそも、アリエルと引き合わせたのはあの妹がいてこそだった」
と思い出したように反省している。ルイは少し呆れた。
「なぁ、そういえばグランドル、どうして私の通信具を使ってくれないんだ」
思い出してルイは尋ねた。
あの通信具を使えば、少なくとも、ルイの店、アリエルの店で会話ができるのに。
グランドルは無言でじっとルイを見た。なんだろう。
「ルイ。あれは、大切に持っている。お前の作ったものだからだ」
「うん」
それで?
「ただ・・・通信具だったのか? お前の家族を通して私に渡した魔道具の事だろう?」
まさかの返答にルイは開いた口が塞がらない。
「え、ちょっと・・・」
我に返って、慌ててルイは、グランドルと連絡が取れるよう対にしてある通信具を持ってきた。
「これ、ここを、押して」
「どこだ」
「ここ」
「ほぅ」
「で、魔力を流して」
「ほぅ」
気が付けば、クラウとアリエルが、ルイとグランドルのやり取りを眺めていた。
「思ってたんだけどさ、あいつの作る道具って、なんか使い方がややこしいんだよな」
「まぁ。クラウって。男の子でしょ。そういう難しいのが好きな時期ってあるのよ」
そういう言い方するの止めてくれないか!
顔を真っ赤に染めながら、ルイは一生懸命グランドルに使い方を説明した。
***
グランドルとアリエルは帰っていった。
通信具は、ルイがくれた大切なものだからと、グランドルの住処にしまってあるそうだ。持ち出してからアリエルの家に行くと言っていた。
グランドルの住処って地底洞窟だろう。熱で魔道具がおかしくなってないと良いんだけど。
まぁ、またこちらにも来てくれるようだから、修理か代わりのものを渡せばいいか。
店の外で見送って、ルイの隣で、クラウは少し息を吐いた。
「結婚、認めたんだな」
とルイは今になってそんな声をかけた。
「あんなに姉さんに頼まれたら、仕方ないよ」
クラウは肩を竦めた。
「自分で分からないぐらい、本気で好きなんだってさ」
とルイに苦笑をみせる。
ルイは友人としてフォローした。
「グランドルは本当に良いやつだ。私も小さい頃からずっと助けてもらっていた。本当に頼りになるんだ」
「それ、たぶん、あの龍が気に入った人だけがいう言葉だ」
クラウは笑った。
「でも仲直りしたんだろう?」
とルイは確認したくて、少し冗談めかして尋ねた。
「そうだな」
とクラウは目を伏せてどこか寂しそうに笑うので心配になる。
「どうしたんだ」
無言になられると、つい気になってしまう。
「・・・いや。剣、悪い事をしたって、思う」
「あ。・・・クラウ」
慰める言葉をルイは失う。自分は必要な時にうまく声をかけられない。
それなのに、相手の方がルイを気遣って笑うのだ。情けなくなる。
肩をすくめて笑みをくれるクラウに、ルイは辛くなった。
「あの剣さ。あいつの昔の奥さんの剣だろ」
「うん」
「その奥さんの生まれ変わりが姉さんなんだなって」
「・・・みたいだね」
「だから一途だなぁと、思うと同時にさ。やっぱり申し訳ないよ。・・・ごめんって思う」
「・・・聖剣はきみを選んだ。その意味できみの剣だったんだから」
「うん・・・。でも本当に、町に帰るにしても、売らないと金が無かった」
ん、とルイは無言で気づいた。
クラウが剣を売る羽目になったのは、自分が弁償を求めたからなのだろうか・・・?
ふと考えてしまうルイに気付いていないようで、クラウはポツポツ語っている。
「夕食代も無かった。腹減ってたら万が一野党に襲われても対抗できないから。そしたら、ほら、あんたが連れて行ってくれた店、買取してるって説明思い出してさ・・・」
うっ。
ルイは自己嫌悪に陥った。
あの日、クラウに夕食さえ提供していたら、少なくともクラウは『アンティークショップ・リーリア』に剣は売らなかったのか?
あそこでなければ、迅速にメリディアの王家に売り飛ばされる事などしなかったはず。
ルイが呻くので、クラウがギョッとした。
「おい、どうした」
「いや」
ルイはなおも呻いてから、クラウをキッと見上げた。クラウが驚いている。
「クラウ。相談がある」
「なんだ」
「店に入ろう」
「分かった」
***
店を『CLOSE』にして、ルイとクラウは奥のテーブルに向かい合って座る。
「クラウ。今から聖剣について話をしたい。でも、きみを責めようって話じゃない」
「・・・あぁ」
「あと、私も、あの日きみを夕食に誘わなかったことに、罪悪感を感じている」
「なんでだよ」
「そうしたら、きみは、少なくとも『アンティークショップ・リーリア』には売らなかったかもしれない。遅いからと店に泊めていれば、きみは万全の状態で町に戻れた。そうだ、私も大人げなかった。旅費がないのを気づいてたのに、きちんと気づかなかった」
「いや、そこはあんたが責任を感じるとこじゃないよ。俺が店を壊したのが問題なんだし」
「・・・いや・・・とにかく、それは置いておいて、話をしよう」
過去の自分の愚かさを詰りたい。
「う、うん・・・」
ルイの渋面を、クラウがなんだか奇妙なものをみるように身を引いた。
ルイはしっかりとクラウを見つめて話し始めた。
「グランドルは、龍だ。だから人より長生きだ。だからあの剣を大切にする。聖剣だから、グランドルと同じぐらい、変わらず存在できるものだからだ」
「・・・」
「でも、その聖剣が、グランドルの手元から離れた。ただ、クラウの責任でもない。聖剣がクラウを選んだ時点で、グランドルの手元を離れるのは仕方ないと、私は思う」
「・・・」
「ただ、グランドルが、怖がっているのが・・・友人として、なんとかしたいと思うんだ」
「怖がっているって?」
「私たちは人間だ。グランドルはアリエルさんを見つけたけど、アリエルさんも含めて、グランドルを置いて死んでしまう人間だろう。グランドルにとっては、あっという間の時間なんだ。ずっと、人間はすぐ死んでしまう、って私にも言っていた。だから、せめて子孫を残して行って欲しいって、私にも頼むぐらいなんだ。まだ14の人間に」
年齢を言ったところでクラウは目を瞬かせた。そういえばクラウには年齢を秘密にしたのだった。そうだよ、4つも年下なんだ。なんだか嫌な気分だ。
「グランドルは、アリエルさんが死んだ後も、ずっと残るものがないと不安なんだ」
この言葉に、クラウは分かったようで頷いた。
「それで・・・何か、無いかな」
「え?」
ルイは、自分の中の、まとまりそうになっている気持ちを探るようにしながら言葉にする。
「聖剣が何でできてるか知らないけど、人間よりも長く存在できるものを、グランドルに・・・渡したい。聖剣の代わり・・・いや、アリエルさんとグランドルの記念の品だ。それを・・・」
「良い案だ。ルイ。それ、良い案だ!」
クラウが立ち上がった。テーブルを挟んで前のめりになる。
「そうだ。結婚祝いに、永遠に残るようなものを、そうだ、ルイ、あんたなら作れないか。なんか色々作ってるし! 協力する。良い案だよ、それ。是非頼みたい!」
「うん」
ルイも頷いて、思わず立ち上がった。勢いのまま、差し出された両手で握手する。
「グランドルのために!」
「姉さんのために!」
強固な協力関係が生まれた瞬間だった。
***
ところで、ルイの店には、新しい客も来るようになった。つまり、新しい注文も入っている。
魔道具と言うのはすぐに作成できるものではないから、すでに1ヶ月半ほど先まで作成予定で埋まっている。
「少し、注文を受けるのを抑えたい。贅沢な話だけど」
ルイが日付と注文者の名前を書きだして、クラウに相談する。
「待て、それ本当に贅沢だよ。そうじゃなくて、1件ごとの納期を延ばしたほうが良い」
とクラウが止めた。
「納期を延ばす?」
「そう。つまりさ、例えば毎朝、あんたは『リーリア』に品物を売りに行くだろ? あんな風に、姉さんたちへの品物づくりを、毎日の日課にしとくんだ。その時間を毎日確保しておく。その上で、他の注文は受けたほうが良い。それで納期が先になりすぎて客が断るなら仕方ない」
「なるほど」
「あと、本当に突発的に何があるかわからないから、定期的に完全な休日を作っておいたほうが良い。何事もなかったら、新規商品の開発したり、姉さんの品物を進めたりしても良いし、普通に出かけたい時だってあるだろ。でも予定がズレ込んだら、その日を働いて補うんだ。例えば風邪ひいて他の日が動けなかった分、仕事する日にする」
「なるほど。参考になる」
クラウは、ルイに比べて様々な方法を知っていると感心する。
相談し合って先の事を決めていく。
***
クラウがいるのは、あと15日間だ。
ルイは不安を覚えた。もっといてくれないだろうか。
けれど、クラウはとりあえずは一度、自分の店に帰ると何度も自然に話している。
ルイは思い切って切り出した。
「弁償期間が終わった後も、せめてグランドルとアリエルさんに渡す品ができるまで、店にいてもらえないか? 色々協力してもらえたら助かるんだけど・・・」
「そ・・・う、だよな」
ルイの言葉にクラウも納得したように頷いたので、ルイはほっとした。
「贈り物さ、作るの時間かかるよな?」
「あぁ。きちんとしたものを作りたいし、素材から選ぶから。何を作るか、から・・・結婚祝いだから、装飾品が良いのではと思うけど」
「あ、姉さんに合うのだと二人とも喜びそう」
クラウが頷いて嬉しそうにした。
ルイはその様子を見ながら、訴えた。
「装飾品ならなおさら、デザインが重要だ。その上で加工だから時間はとてもかかるはずだ。長く保つ素材だから、簡単に加工できるはずはないし」
「うーん。そっか。それに、あんたの店、注文なんだかんだ絶え間なくあるよな」
バートンの手腕、クラウが店番にいてくれる効果、それからすでにルイの魔道具を使っている人からの紹介のお陰で、多くはないが、お客は注文をしてくれる。
クラウは考えて、
「ってことは長期計画かぁ。でも、ずっとっていうのもな。贈り物、遅くて半年後にはできる?」
と尋ねてきた。
「できれば結婚式に間に合わせたいけど、分からない。本当にどれだけの速度で作れるかどうか・・・。中途半端な品にはしたくない」
「うん。それは分かるよ」
ちなみに式の日取りなどまだ決められていない。
クラウは少し考えてから、うん、とルイを見た。
「あの、さ。その品物の代金、半分は俺が出せればって思う。実際の金額が分からないからアレだけど。で、その分を働かせてもらうっていう契約だと嬉しいかも」
1ヶ月後もいてくれそうな様子にルイは意気込んだ。




