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絶対に魔道具売って生計を立てる  作者: 天川ひつじ
第1章 店を開こう
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換金と隣国調査

早速目的地に向かおう、とルイが馬車に乗り込もうとした時に声がかかった。

「換金は済んでいますか?」

「あ」

浮かれて忘れていた。言葉は同じでも使用コインが違うのだ。単位も変わる。


声をかけてくれた役人が手のひらで示して教えてくれた建物には、多くの人たちが出入りしていた。皆、当たり前の手順として必ず立ち寄っているのだ。

さほど大きくもない石造りの建物だが、門のところに門兵がいる。加えて、建物の扉の所にも兵がいる。多すぎないか。

それだけ襲撃を警戒しているのか。威圧も兼ねているのかもしれない。

そうか、大金が置いてある場所だから当然だ。


ルイもその建物に向かう。入ると、換金待ちの列があった。皆にならって並ぶ。

建物の中は、並ぶための空間と、カウンター。カウンターの上には防犯のためだろう、鉄製の柵がついている。換金のために、少しだけ下に隙間が作ってある。

列に並んでいると、注意書きのある記入用紙を渡された。少し相手が警戒している雰囲気があるのでルイは疑問に思ったが、ヒゲ面で帽子を目深にかぶった自分は怪しいのだと納得した。ということは、この役人は警備も兼ねているのかもしれない。カウンター近くには魔法使いまで控えている。こちらはニコニコ笑顔を浮かべているが。


お金を扱うところだから、警戒態勢がこれほど取られているのだな、とルイはまた納得した。

こういうところに、自作の結界作成具を使えば良いと思う。

自分用とは別に、売る分として4つあるので、売り込めば買ってもらえるに違いない。


値段は、様子を見て決めようかな・・・。


そんな事を考えながらルイは手元の用紙の文章を読む。手数料もとられるという事だ。換金する金額に合わせて手数料も変わる。

少ない金額だと1回ずつの手数料も安いが、何度も繰り返すと結局高額になる。

一度に多く換えた方が最終的には安い手数料だ。

うまく考えてあると思う。


とはいえ、元冒険者の教師からのアドバイスの通り、とりあえずの金額だけ換金する事に決めている。

ここで大金を一気に換金すると、目をつけられて泥棒に遭う可能性があるという。残した分は隣国ではすぐに使えないコインだから、万が一被害にあっても盗まれないですむかもしれない。


記入用紙に『50,000チル』と換金金額を書き込んだ。

現金は200,000チル持ってきている。

換金したら、手持ちは150,000チルに、残りは手数料をひかれて47,350エラできるはずだ。

ちなみに、国よりもこのメリディアの方が少し物価が高いと聞いている。


ルイは大人しく順番を待ちながら、道具を売り込むなら誰にどのタイミングが良いかを考えた。

カウンターの役人だろうか。でも忙しそうだし、まだ人も並んでいる。もしそんな話ができたら試そう。

他に声をかけやすそうな人がいればいいが・・・。鉄柵までついているカウンターの向こう側で働いている人たちは少し離れた場所にいるから声がかけづらいと思う。


様子をみているうちにルイの番が来た。

「記入用紙と、その分のコインを出してください」

「はい」

他の言葉のやり取りを許さないようなキビキビした口調はどこか命令調で、ルイはとっさに2つ返事で用紙と50,000チル分のコインを窓口に置いた。

「細かいコインは希望しないのですね」

「え?」


ルイの返答に役人は顔をあげて、ルイの記入用紙をルイにスッと押し出した。

希望欄があったが、ルイは無記入にしてしまっていた。

「旅は初めてですか」

「はい」

「細かいコインはあった方が良い。支払いで使います。当方に任せますか?」

「え、はい」

規律正しいようでいて、恐らく少しイレギュラーな会話に緊張した。

ルイの様子を役人は少し観察するように眺めてから、勝手に細かいコインの希望欄に10,000チルと記入した。

「このようにいたします」

「はい」

どうやら、口頭では金額は出さないらしい、とルイは気づいた。

他の人にどれだけの金額がやり取りされたか分からないようにするためだ。つまり防犯対策か。


そうだよな、大金を持っている人がここで分かってしまったら、悪人に狙われてしまうよな。


ルイの手元に、手早く用意された47,350エラ。数が合っている事を確認して受け取った。


うん。魔道具の売り込みなんてできる隙はなかった。

これは自分の商人的技術がないせいなのか、向こうが隙を与えないから当然なのか。


売る事に未練のあるルイは、換金所の中をふと見回した。

ルイの動きで、魔術師がわずかに警戒態勢に入ったのを察した。

そういうのは敏い。家が代々騎士だからだ。ルイは騎士になる本格的な教育は受けることができなかったが、他の家よりも騎士の心得に接してきている。


警戒を解くために魔術師に声をかけた方が良いか。

言い出し方はどうしよう。

『結界作成具を使いませんか』

とか、かな。


緊張でルイは一歩を踏み出して、その直後に不味い事を直感した。

正しい魔法使いは結界も張る。つまり結界は魔法使いの領域だ。

自分は、魔法使いができる事を、魔法使いなしでできるモノを売ろうとしている。


絶対握りつぶされる。


マズイ。

ルイは自分が向かったために一歩近づいてきた魔法使いに、取り急ぎ

「すみません、トイレはどこですか」

と尋ねていた。


***


教えてもらったトイレの個室にて、ルイはホゥ、と聞かれないようなため息をついた。

ちなみにかなり警戒されたらしくて、役人の1人がトイレの案内と言いながら自分の監視についている。

なんという警戒態勢。

違うんだ、申し訳ない。ただ売り込みをしたかっただけなんだ。強盗などでは決してないんだ。


ルイはこう見えて落ち込んでいた。

絶対売れる品だと思っていた結界作成具に、早々欠点が発覚した。


これは、魔術師の仕事仇になる。

いや、警備の仕事をするものにとっても仕事仇だ。


かなり良い魔法石を使っているから、細かい条件を刻むことが可能なので、

『日中は換金希望者と関係役人のみ通す。閉館後は役人以外は通さない』

等々設定が可能だ。


だけど、そんな事ができたら、少なくともルイが見て過剰と思う、門番×2人+扉番×2人は半数で足る。

つまり、2人の職を失わせる。


あー、これ、難しいな。

売り方とかが。


自分の生活を考えるからこそ、人の生活を奪うと分かる事は避けなくては。騎士ではないが、代々の家の精神に反する。

それに下手したら恨まれて殺される事にも発展する。


とにかくこの後すぐに馬車に乗って目指す町に向かう事にしよう。


問題を先送りすることにして、ルイはトイレを出つつ、案内という名の監視員に軽い礼の姿勢をとった。


さぁ、馬車に乗り込もう。丁度次の馬車が客を待ち始めたところだった。


***


ゆらゆら揺られ、腹が減ったので途中の町で一旦おり食事をとる。

それから再び別の馬車にて、移動を再開する。


どうでも良いが、かなりヒゲがかゆい。何度もボリボリかくと、隣のご婦人が非常に迷惑そうな顔を向けてきた。

申し訳ない。


***


「リグリシオに着きましたよ」

中継地点の町にやっとついた。

御者の声に、一緒に乗り込んでいた人たちが馬車を降りていく。

ルイも続いて降り立った。

すでに夕暮れだ。今日はここで泊まろう。


夕食をとろう。あと、物価を調べたいから道具屋も行きたい。

それから、隣国に来た記念に、今日は宿に泊まりたい。身体も清潔にしたいし髪も洗いたい。


馬車から降りていった人たちが同じ方向に向かって歩くので、ルイもとりあえずついていくと、少しして店や宿が並んでいるエリアにたどり着いた。


皆がバラバラと店に入ったり宿に入ったりで町の中に溶け込んでいく。

ルイも見回す。

すぐそばに道具屋があった。


よし、入ろう。


***


コロンコロン、とどこか愛嬌のある太い音が鳴る。

室内には何人かの先客がいて、それぞれ品物を手に取ったりして眺めている。1人は店主と思われる年配女性と話している。

「リィルランプの良いのはないか?」

明かりを求めているようだ。カウンターに、少しずつ形が変わったランプが3つほど出される。客が尋ねる。答えが返る。


ランプは必需品だもんな。

すでにある道具の改良型の方が、無難なのだろうか。

ルイは会話に聞き耳を立てつつ考えた。けれど途中でそれも放棄した。

ランプの値段はあまりにも安い。

改良できたとしても、本来の値の安さに、高額になるランプが売れるのか分からない。

となると、独自性のあるもののほうがやっぱり良いんじゃないだろうか。


ルイは店内をあるいて品物を見回す。

一つを手に取って、首を傾げた。

筆記具だ。ペンだ。

相当安い。隣国の方が物価が高いと聞いていたのに、こんな値段なのか?


・・・いや。相当粗雑な品物だ。

こんなものしか置いていないのか。いや、それにしてはこのコーナーは他より広い。ペンの売れ筋はこれなのか。


ルイはここに来て事実の1つを知った。

自分は名家の子息なので、質の良い品物しか見たことが無いのだ。

つまり、庶民が使う品物の基準が分からず、価格の相場もさっぱりわからない。


そういえば、自分の使っている品物も価格はよく知らない。自分で直接買うようなことが無いからだ。


「んー」

マズイ、少しの調査だけで先行きに暗さを感じてしまった。焦りさえ覚える。

いや落ち着け。目指す鉱石の町グラオンに行くまでにいくつもの町を通らなくてはならない。その中で店を見ていけば分かるはずだ。


「お客さん、何かお探しですか?」

ペンを持って唸ってしまったルイを見咎めたのか、客の相手をしていたカウンター女性が声をかけて来た。


「あ、いや。迷っただけだ。すまない」

「はぁ、そうですか」

女性は少し気味悪そうにして返事をした。

自分のせいとはいえ、こういう扱いを女性に受けたことが無いのでルイは驚いた。変装はやはり役に立つ。


店内をブラブラする。

正直欲しいものは今のところない。どちらかといえば腹が減ったので食べ物が欲しいが道具屋にはそれはない。

価格は全て安すぎて、ルイは自作の魔道具の売り込みは控えることにした。

せっかくだから何らかの情報は貰いたいところだが、何も買わないのに情報を貰うのはマナー違反だと教師たちも言っていた。


もう店を出て、夕食と宿を求めることにしよう。

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