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絶対に魔道具売って生計を立てる  作者: 天川ひつじ
第2章 つながり
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一緒に過ごす試み

朝がきた。


実は少し緊張して眠りが浅かったルイは、いつもより早く目が覚めた。

そっと店側への扉を開いて、カウンターの向こうを見回すと、クラウは壁際で荷物を枕に未だにぐっすり眠っていた。

念のため店内の様子を観察したが、別に物が動かされていたり無くなったりしている事もない。まぁそもそも、店側に置いてあるものはあまりないが。


ルイは静かに奥側にパタン、と戻り軽くため息を吐いた。


どうして店主である私の方が居心地の悪さを感じているのか。


答えは分かっている。自分の住まいに、信用してはいない人間が寝泊まりしているからだ。


だめだ、寝不足で少しぼんやりする。

あーでも、今のうちに風呂に行っておこう。


***


ルイが簡単に作った朝食を、

「ありがとう」

と感謝しながらクラウはペロリと平らげた。

どうも本気でクラウの方がサバサバとしている。


たくましい。

ルイは内心で感心した。


「あのさ。料理、大味で良いなら、1ヶ月俺が作ろうか・・・? 食器も洗うよ。迷惑な客はもう来ないって言ってるから、何か他にできる事言って欲しい」

「・・・いや・・・料理は私が。何かお願いしたいことがあったら、ではその時に依頼させてもらう」

ルイの返事にクラウは頷いた。


ちなみに料理を断ったのは、クラウの作る料理を食べるというのが妙に不安だからだ。頻繁に露店のものを気軽に食べておいて、変な話だが。

ついでに食器洗いも、『アンティークショップ・リーリア』で気に入った食器を買って使うようになっているから、粗雑そうなクラウに割られたらとても嫌だ。


ただ、断ってからルイは気になった。

「ちなみに、もし頼んだとしたら、どんな料理を作るんだ?」

「まぁ、日替わりのスープだよなぁ。ちゃんと作るならさ。あとは、炒め物かなぁ」


あ。スープ、気になる。

実は、ルイはスープを旨く作れないで、毎回露店で買っている。

1人分を作る場合、時間がかかるから、手間の方が勿体ないと教えてくれる人たちは言うし、だったらと数食分まとめて作った時にうまくいかなかった場合のダメージが恐ろしい。

がっかりする味のスープを5食続けて懲りたのだ。


でもさっき断ってしまったルイは、黙っておくことにした。

またそういう話が出来そうなときに考え直そう・・・。


「えー、と」

ルイは、考えを切り替えて、この後の予定を伝えることにした。

しかしその前に気になった。昨日、ルイもクラウも風呂を使用しなかった。ルイは先ほど使ったわけだが。

しかしこう見えて女性であるクラウに、風呂をすすめるのって・・・言いにくいなぁ。

でも、向こうから言いにくかったら申し訳ないなぁ・・・。


どうして私の方が気を遣ってるんだ!


ルイは少し遠いところを見ていたのを現実に戻し、クラウに言った。

「えーと。毎日、私は『アンティークショップ・リーリア』に品物を売りに行く。それで、その間、きみは風呂でも入っている?」


クラウはポカンとしてルイを見た。そしてマジマジとこう言った。

「良いよ、そんなに気を遣わなくても。お客さんとしているわけじゃないしさ。この町、公衆浴場あるだろう? そっち使う」

「公衆浴場」

「え、グラオンには無いの? あるだろ?」


ルイは無言になった。

そうか。そういう施設があるのか。実家も貴族だし、ルイは早々に店に風呂を作ったから知らなかった。


ルイは真面目な顔で頷いた。

「じゃあ、それで」

「あぁ」

少しクラウは不思議そうにして、

「え、あるよな?」

と首をかしげているが、ルイは知らない。

「役所で聞くか、他の町の人に教えてもらってくれ」

「なるほど。知らないんだ」


ストレートな指摘にルイは黙った。なんだかムカついた。

いや、気にするな。


「えー、とにかく。今から私は売りに出かける」

「分かった。じゃあ、店番だな」

真面目に頷くクラウに、ルイは肯定の頷きを返せなかった。

なんだか、この人を、自分の大切な店に1人で残すのが急に不安になったのだ。

奥側には、ルイの資産のほぼ全てが置いてある。


「・・・いや、一緒に来てくれ」

「え? 店番は」

「とりあえず、一緒に」

「分かった・・・」

腑に落ちない様子でクラウが答える。

とはいえ、やはり信用できない。つまり、ルイが出る時はクラウも連れて出たほうが良い気がする。

なんだか変だが、安全のためだ、仕方ない。


***


前に訪問した時、クラウの入店を止められた。あの時は『文鳥時計』とやらをクラウは壊した。

二人ともそれをしっかり覚えていたので、クラウは外で待たせて、ルイは『アンティークショップ・リーリア』に入店した。


今日は、店頭に店長ジェシカがいた。

「いらっしゃいませー、ルイ様!」

「おはようございます」

カウンターに、いつもの魔法石を置くと、ジェシカは品定めも無しにコインを渡してくる。


「シーラさんは、まだ?」

「はい。長期滞在になりそうですネ」


「お店は大丈夫ですか?」

「大丈夫デスよ。シーラは向こうでも仕事ができますから」


「なら、まだ良かったです」

少し安心したルイに、ジェシカの方は扉の向こうに目をやってから、ルイを向いた。

「ルイ様。クラウ様も、入っていただいて大丈夫ですよ?」


「え?」

どうして、クラウが来ていると分かったのか・・・いや、この店は、到着前に気付く店だった。

どういった仕組みか知りたいな、と思いながらルイは確認した。

「前に、ものを壊すからって、こちらに入るのを止められてしまったのですが・・・?」


ジェシカは頷いた。

「そうデスね。でも、大丈夫になっています」

「・・・そうですか」

「是非握手したいデス!」

「呼びましょう」


クラウを店内に呼んだ。ジェシカはクラウと握手をしてとても嬉しそうだった。

「わぁ、『空』の魔力を貰いました!」

と喜んでいたので、クラウは不思議そうにした。


ルイにも目で尋ねられたが、ルイにも分かるはずはない。

聖剣に選ばれた影響だろうか?


***


ルイとクラウは、途中で魔法石を買いつつ、ルイの店に戻った。

「私は、これから魔道具を奥で作る。だから、きみは店側で店番を頼む」

「分かった。カウンターの中で立っていればいいかな」

「・・・そうだな」

そういうお客の待ち方をルイはしたことが無いが、確かにそこで待つのが普通そうだ。


店内を改めて見回したクラウは、

「客が来たら、どうすれば良い。すぐにあんたを呼んだらいいか? 教えてもらえたら、分かる範囲で、俺から説明するが、どうしたらいい?」


ルイは無言でクラウを数秒見つめた。この人真面目だ。やる気だ。

さすが、戻ってきただけの事はある。


初めに不信感が全開だっただけあって、当たり前の事に見直す気分だ。


「えーと。そうだな」

来ないと思うけど、と思いつつ、ルイは言った。

「客が来たら、では、簡単に説明を頼む。それから、注文の品が届けられたら、受け取って、私にも声をかけてくれ、挨拶したいから」

「分かった」


店番をやる気まんまんのクラウに、現在店にある魔道具と魔法石、価格などをクラウに教えた。

たぶん、客はないと思うんだけど。


***


ルイは魔道具作成に取り掛かる事にした。『音声記憶装置の簡易版』だ。

先ほど、少し大きめの魔法石を安く買ってきたので、それを組み込もうと思う。


魔力を込めないといけないんだよな・・・。

いつも使っているサイズのなら、勝手に魔力を貯める魔道具があるから魔力入りのが揃っているのだが、仕方ない。


ちなみに『雷』だ。中核に使う。補佐に『水』も使うがこちらはいつものサイズのままで。

なお、『熱』ではないので、普通に集中しないといけない上に、魔力が溜まるスピードも遅い。


じーっと、『雷』の魔法石を持って、ルイは座っていた。


***


「ごめん、昼飯そろそろ食いたいなと思って」

遠慮がちに声がかけられて、ルイはパチリと目を開けた。寝てたわけじゃないんだぞ。


少し困った様子のクラウが、しきりの壁の近くに立ちつつ、ルイを見ていた。店側への扉は開いたままだ。

時計をみると、確かに昼の時間が過ぎていた。


「あの、なんか、やっぱり俺が作ろうか」

と遠慮がちにクラウが言った。


「あー・・・」

魔法石に魔力を流し続けつつ、ルイは軽く思案した。

「・・・えーと。朝に断っておいて申し訳ないけど、じゃあ、何か簡単なのを・・・あ、食料保存庫と冷蔵庫からの取り出し方は分かるか?」

「さっき、店用に説明してもらったから大丈夫だ」

「えーと、じゃあ、ごめん、今回、お願いする・・・」

「分かった」


魔力を流す方に集中するせいで、どこか上の空で返事をするルイに、少しクラウは戸惑ったが、遠慮がちに台所に移動して、鍋などを触り始めた。


んー。昼御飯か・・・。


***


「できた」

クラウが声をかけて、ルイはまた目を開けた。決して眠っていたわけではない。

ルイは深呼吸して、一度『雷』の魔法石をテーブルの上にゆっくりと置いて、手を放した。


「・・・それ、何してるんだ?」

テーブルの上に、3種類の料理の皿を乗せながら、どこか遠慮がちにクラウが確認してきた。

「・・・眠っていたわけじゃない。魔力を溜めているんだ」

「そっか」

「集中しないといけなくて」

「そっか。あ、ちなみに、慣れてる料理にさせてもらった」

「あ、ありがとう。助かる」


ルイは料理をじっと見た。あれ、なんだか美味しそうだ。少なくとも自分の料理より料理っぽい。

なんだか少し悔しい気が。張り合っている気は全くないが。


「これも」

クラウが小皿にタレを出した。

「これは?」

「途中で味を変えたくなったらつけて食べれば良いと思って」


ルイは唸るように感心した。

「さすが、料理屋・・・」

「両親がね。俺も姉さんも、どっちかっていうと大味でさ・・・。冒険者向きって言うかさ」

自分の発言なのに、不満そうにクラウは眉をひそめた。


「作ってくれてありがとう」

「いや」

「食べていいかな」

「うん、食べよう。不味かったらごめん」


幾ばくかの遠慮をしつつ、ルイとクラウは昼食を開始した。


あ。キツイ。塩が。

と思った瞬間、ボリッという音と振動がルイの口の中で起こった。


なんだこれは。

少し躊躇ったルイの向かい側、クラウが、ボリッボリッという音で食事を奥歯で噛み砕いていた。


「あ。悪い。固かったか? でも食べられるだろ? 噛めばいいしさ」

「きみ、本当に料理屋の娘か?」

「切るのと、洗うのと、あとスープは担当」

「・・・」

「アゴ使わないと、アゴが退化すると思うんだよな」


音をさせながら、ルイはよくよく噛んで、飲み込んだ。


「食べられるだろ?」

「・・・そうだな」


ルイは、テーブルの上に置いた魔法石に目をやった。それから、並べてある料理を見た。


まぁ、作業時間は、増えたわけだし・・・。


「酢を足せばよかったかな」

「いや、塩をもう少し抑えれば・・・」

「そうか?」

「好みかもしれないが」

「そうだよな。好みってあるよな」


まぁ、良いか。とルイは思った。


あれ。スープの依頼はやっぱり危険かもしれない。


***


「なぁ、聞いても良いか?」

と食事後、食器を洗っているルイに対して、所在なさげにクラウが尋ねてきた。

「なんだ」

チラと振り返ってルイは答える。


「いや、その、それ、何作ってるんだ?」

クラウは、テーブルの端に寄せている作成中の魔道具と、ルイが先ほどまで魔力を溜めていた『雷』の魔法石を指差した。


どう答えようかルイは少し思案したが、別に隠すものでもないような気がしたので、答えることにした。

「開発中の魔道具だ。短い言葉を記録することができる。その言葉を復唱させる」

「何に使うんだ?」

「露店の呼び込みとか、挨拶に」

「ふぅん・・・」


ルイは様子をもう一度振り返り、

「試してみるか?」

と聞いてみた。

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