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絶対に魔道具売って生計を立てる  作者: 天川ひつじ
第2章 つながり
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9日目

本日2話目

翌日、日課の魔法石を売りに行ってから、瓶詰の店『トルウィス食料品店』に完成品を見せに行った。


店主はさっそくリストバンドを両手首につけて瓶詰を持ち上げ、

「あぁ、確かに軽い。これはいいですね」

と褒めてくれた。

「20,000エラですね? 買いましょう」

「ありがとうございます!」


売れたことも嬉しいが、役に立つものができたことが嬉しかった。

店主はルイにコインを渡してくれながら、嬉しそうに、

「これで負担が減ります。歳を取るとどんどん辛くなるのですよ」

と話してくれた。


***


ルイは上機嫌で退出した。次は、何に着手しよう。


すでに家具屋から外枠を受け取っている『音声記憶装置の簡易版』にしようかな。うん、そうしよう。

『いらっしゃいませ』『卵が安いよ!』『おいしいよ、串焼き肉200エラ!』とかを流し続けたい、という要望をもらっているのだ。

向こうがOKする機能と値段なら買い取ってもらえるだろう、と見込んでの作業になる。


先にサンプルを作ったほうが良い。

店には、今のところ、冷蔵庫と冷凍庫と食料保管庫、あと魔力を入れた魔法石しか置いていないので、増やしたいし、実際は、店よって、ちょっとした希望が異なってくるものだから。


***


グランドルたち、まだ時間がかかるのか、と待ちながら、ルイは制作に励む。


***


翌々日の朝。ルイには分かっていた。今日は、クラウが約束した9日目だ。


来るはずないと思っている。


考えると不快になるので、ルイは考えないようにする。なのにどうしても意識してしまう。

今日が早く終わればいい。そうしたら、『やっぱり来なかった』で済むだけなのに。


今日も、朝に魔法石を売りに『アンティークショップ・リーリア』に行く。

決めたわけではないが、なんとなく朝に売りに行くことが多い。その後自由に動けるからだ。


今日も店頭にいるのは、店員サリエだった。店長代理シーラもまだ戻らないらしい。

さすがに長くないか?


心配するルイに、サリエが情報をくれた。

「シーラから連絡はあります。王家が出している条件を飲むか、グランドル様たちが迷われているそうです」

「条件って?」

「申し訳ございません、これ以上は私も存じ上げません・・・」


あ、嘘だな、隠された、と、貴族の会話に巻き込まれて成長してきたルイには分かったけれど、追及などしない。


「そうですか。あまり長いと心配です」

「そうですね」

少し仕方なさそうにサリエは微笑むので、ルイも同じように微笑みを返した。


魔法石の販売をすませて、ルイは情報収集がてら、町を歩く。

何か不便そうなものはないか、作ったら売れそうなものはないか、見て歩いた方がアイデアが出てきやすいと気が付いたからだ。


それから、ルイの店の悪評対策で協力してくれた、同じ金属工芸ギルドに入っている工房の近くに来たので、お礼を兼ねて訪問してみることにした。露店で飲み物を買って持って行こう。


職人気質の店主は突然の訪問に少し驚いたが、ルイのお礼に喜んでくれた。

ついでに工房を見せてくれた。


ここは家具に取り付ける金具を専門にしている。金属の板を切りだしたり打ち出したり模様をつけたりする技術は純粋に素晴らしい。

ルイが目を輝かせるのを見て取って、店主は得意げに説明してくれた。


単純なもので、ルイは自分の店の家具にも何か金具をつけたくなった。機能だけを重視したので、ルイの店の家具には装飾は一切ない。

店主が、四隅につける飾り金具を見せてくれた。


「薄い板なら糊で張っても良い」

という発言に、ルイは金具を購入した。

扉につけている『OPEN』『CLOSE』の案内板の四隅に、これを張ろう。


店主の方も嬉しそうにして、特別価格にしてくれた。

良い糊はどれかも教えてくれたので、帰りに買って帰ろう。


***


ニコニコしながらルイは正面入り口から帰った。扉の案内板の四隅を飾るためだ。

ちなみに、グランドルがアリエルを連れて町を歩いたことで、迷惑な女性たちもさすがに諦めたらしく、ルイの店には集まらなくなった。もう普通に正面も使える。


案内板を飾ると、少し趣深く渋くなった。嬉しい。

上機嫌で店に入る。


店内を見回して、本当に飾り気がないな、とルイは思った。

しかしそこで冷静になった。

飾り気は確かに必要だが、その前に品物が少ない。オーダーメイドを主にするから予定通りだと言えば予定通りだが。


さっさと『音声記憶装置の簡易版』を完成させよう。


ルイは奥に入り、黙々と作業に取り掛かりなおした。

今日で取り掛かって3日目だから、大体できている。ただ、思ったより音が小さい。

うーん。

自国から持ってきた魔道具の簡易版だから簡単にできると思ったのにな。

あれと何が違うんだ。

箱の大きさ。魔法石の質と大きさ。

ひょっとして魔法石が小さすぎるのか?


じーっと考えていたら、空腹を覚えた。時計を見れば、昼食の時間は軽く過ぎていた。

空腹すぎて作る元気もない。

パンは買ってある。瓶詰も。あるものを先に食べてから考えよう。


ルイは昼食を食べ始めたが、空腹になりすぎて、パンと瓶詰だけでは収まらなかった。

露店で何か買ってこよう。


正面から出たほうが店が多いので、正面から出て昼食を買いに行く。

露店で立ち食いして腹を満たしていると、顔見知りと会った。


珍しい雑貨屋が来ていると教えてもらって、興味を引かれたので足をのばして見に行くことにした。


***


いつの間にか夕暮れだった。

昼食に出たつもりが、うっかりこんな時間に。まぁ気分転換に丁度いいか。


正面から店に戻る。

夕暮れの日差しが正面の大きなガラスから差し込んで、店内がオレンジ色に染まっている。


「さて」

ルイは奥に戻り、再びテーブルに向かい合う。


音の大きさを改良したい。魔法石を複数にするのは無理だな、中心は1個でないと音が割れる。

やはりもう少し大きな魔法石。うーん、いっそ音を大きくする機能を組み込んだ方が良いのか? だが手間と使用素材が増える分高額になる。露店の人たちは本当に安いものしか買わない。


気が付けば、もう日が落ちていた。道理で手元が暗いはずだ。日が落ちるのは早い。

ルイは灯りをつけた。パァっと室内が明るくなる。


夕食はどうしようかな。ついさっき昼を食べたと思ったのに。

立ち上がって、あ、とルイは気づいた。


今日は、クラウの約束の期日。


「やっぱり来ない」

急に不機嫌にルイは呟いた。不誠実な人間は、だから嫌いだ。もう関係のない人だから構わないが!


夕食を作ろう。


ゴンゴンゴン! ゴンゴンゴンゴン!


「え」


裏口が連打された。まさか、とルイは思った。


音が止み、奥の窓の方に人影が現れた。覗き込んでくる。目が合った。

「開けてくれ!」

と、向こうが叫んだのがわずかに届いた。


動揺した。

一瞬、開けるかどうか迷ってしまった。なぜ迷う、開けなければ。


どうしてだか焦りながら、なぜかゆっくりとしたくて、ルイは裏口の鍵を開けた。


クラウがいた。


ルイはやはり驚いていた。


「留守だとばっかり・・・ずっと待ってたんだ!」

情けない声で訴えたクラウは、

「ごめん、戻ってきました」

謝罪の礼をルイにとった。


動揺した。


***


とにかく、招かなければ。

動作で中に入るよう促すと、ホッとしたようにクラウが入ってきた。


まさか。


「ずっと、裏口に? いつから?」

どこか茫然とした自分の声をルイは聞いた。

クラウは答える。

「今朝着いた。留守みたいだったから、待ってたんだけど・・・夜分になってごめんなさい。でも本当に、裏口にはずっと着いていた」


キュルルルルーグゥー


と、クラウの腹が盛大に鳴った。クラウはとっさにお腹を抑えたが、鳴りやまない。


まさか、食べずに待っていた?


裏口なんて全然気づいていなかった。

そういえば今日は出かけている時間が長かった。出入りは全て正面からだった気が、する。思い返せば。


罪悪感が湧いて、ルイは申し出ていた。

「何か作る」

「あ、すみません。でも有難いです」

恐縮するクラウに、ルイは背を向けた。


食材を取り出す。そうだ、自分の分も。


え。

戻ってきた。

戻った。期日通りだ。


ルイは赤面した。見られないように背を向けて、料理を始める。


見限っていたのに。見くびったのに。


どうして私は動揺している?

少し嬉しいのも、変だ。


まさかの約束通り。


***


ざっくり作った夕食を一緒にとった。


「修理終わってるんだな」

とクラウがテーブルを見つめたが、これがないと仕事に差し障るので、直っていて当然だ。


ルイが目を伏せて無言でいるので、クラウがしっかりと申し出てきた。

「あの、1ヶ月、店番と用心棒をする。それで、許してもらえる、か?」


ルイは、無言でいた。言うべきかどうか迷う。

グランドルがアリエルを連れてきたことで、もう迷惑な女性たちを追い払う必要は無くなったのだ。


無言のルイを、クラウが不安そうに見つめている。


まず、信じていなかったことを謝るべきだろうか。いや・・・守って当然だし、疑われて当然の言動もしていたから・・・それは必要ない気がする。


ルイは考えをまとめて、やっとクラウを見た。

「1ヶ月。店番と、用心棒」

「うん。分かっている」


「ただ、もう、あの迷惑な女性たちは来ない」

「え?」


「つまり、普通に店番を頼む」


クラウが少し理解できていない様子でルイを見つめた。

ルイが待っていると、クラウがようやく返事をした。

「それで、良いのか? 普通に店番」


「・・・1か月以上拘束する気はないから」

「分かった。店番をさせてもらう」

クラウは真剣な表情でルイに言った。

「あぁ」

とルイも頷いた。


とはいえ、内心ではルイは「うーん」と唸っていた。

正直、店番といっても、この店を訪れる客などほとんどないのだ。

それでも、まぁ良いか。状況が変わる前とはいえ、そういう話だったわけだし。他に思いつく事もない。


***


「ところで、聖剣を、売ったそうだが」

「え」

ルイの言葉にクラウは驚き、けれど正直に「あぁ」と頷いた。

やはり、旅費が無くて売る事にしたそうだ。


「姉さんたち、あんたのとこに、尋ねてこなかったか? ごめん」

クラウが自分の店に戻り、状況を説明していると、姉アリエルと一緒に話を聞いていたグランドルが剣を売ったことに怒った。

そして、グランドルは姉アリエルに、思い入れのある品だと説明、姉アリエルの理解を得た上で、買い戻しに飛んで行ってしまったそうだ。


「そうか・・・グランドルときみのお姉さんは、今、買い戻しの交渉中だ。もう数日経つ」

ルイは説明した。


なお、グランドルが怒るのは分かる。

ただ実際のところ、あの剣はグランドルのものとは言い難いようにルイは思った。

選ばれたのはクラウだ。それが路銀に困り、売ってしまったなら、正当に咎める事の出来る人はいないような気がする。

加えて、クラウはあの剣を持て余していたわけだし。


「まぁ、良い。えぇと」

ルイはどうしようかな、と店内を見回した。


すでに夜。

問題の再燃だが、クラウはどこに泊めるべきか。とはいえ、なんだかすでにルイは諦めるような気持ちになっている。どうしてだろう。


「店側で寝させてもらえないか。荷物を枕にしたら十分だし」

クラウも考えていた様子でそう言ってきた。とりあえずそれで。ちなみに悪いが、簡易テントは貸し出さない。単にクラウに使われるのが嫌だ。


それから、ルイは気づいた。

トイレと風呂も共用になるのか?

え、他所で借りてもらうとか無理なのか?


「俺は男で過ごしてきてるし、共用でこっちはいいけど?」

クラウの方がサバサバとしている。


「うーん」

ルイの方が呻く。嫌だなぁ。とはいえ少なくとも数日は共用でしか仕方ない気がする。


防音消臭効果の魔道具・・・。

簡単にはできないが、急ごう。

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