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絶対に魔道具売って生計を立てる  作者: 天川ひつじ
第2章 つながり
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まさかの売却

本日2話目

4日後。店内は、すっかり元通りになった。

テーブルは、あの日の夕食後の時間に店主が来て脚を足すことで使えるように直してくれた。つまり、前の半分のサイズのテーブルが2つできた。

壁は昨日に。なお、切られた部分の板は全て張り直しになった。


あの日、クラウが店に来たことなど無かったかのように、ルイの日常は回っている。


作り直しになった簡易冷蔵庫も無事にバートン経由で売る事が出来た。


迷惑な女性客は、あの日以来、数が減った。

悪評対策で、知り合いに協力してもらった効果だと思う。

・・・始めにクラウがきつく追い払ったことも大きいのかもしれないが。


クラウの事を思うと不快になるので、ルイは思考から追い払う。


日々は順調に回っている。

修理代が出て行ったとはいえ、他は順調なので資金はどんどん増えていく。


この資金を元手に何か挑戦したいみたいことはあるだろうか、とルイは思う。

けれどすぐに思いつかない。


そもそも、家を出て、一人で店をやって生計を立てることこそが、ルイの大きな野望だったのだから。


少し考えるように目を伏せ、それからふと店の正面の大きなガラス窓から見える光景に目を留める。

迷惑な女性客が減ったので、店の方にも出て来れるようになったのだ。


「・・・あれ」

見ていると、通りを歩く女性たちがふと何かを見つけたように足を止める。皆同じ方向を見つめている。

なんだろう。


どうやらこちらに近づいてくるようで、女性たちの視線が次第にこちらに移動してくる。


スッとガラス窓に現れた長身に、ルイは驚いた。

「グランドル! と・・・」

誰だ?


龍のグランドルの人の姿。その横に、少し小柄でふくよかな女性。


ガラス越しに、グランドルが店内のルイを見つけてニコリと笑った。

通りの女性たちがキャァっと華やぐのをルイは茫然と見た。


***


「ルイ。久しぶりだ。順調か?」

正面の出入り口から入ってきたグランドルに、ルイは困惑した。どうしてわざわざ、正面から来たのだろう。やっと女性たちが収まってきたというところだったのに。


「すまない。私がいることで、ルイに迷惑をかけていたとは知らなかった」

とグランドルが申し訳なさそうに謝ってくる。

ルイは驚いた。まさか心を読まれたわけでは無いだろう。

「いや、迷惑など。会えて嬉しいよ、グランドル。・・・あの、その人は?」


グランドルは嬉しそうに笑う。

「妻だ。ルイ。紹介したい。アリエル、この人がルイだ。ルイ、この人がアリエル」

「・・・」

無言でルイは、アリエルと紹介された小柄な女性を見る。

アリエルは少し恥ずかしそうに、

「こんにちは。あの、まだ結婚はしていないのです」

とルイに言った。


「初めまして。グランドルの友人の、ルイです。ご結婚はまだとの事ですが、お幸せそうに見えます。グランドルの友人として、どうか彼をよろしく頼みます」

ルイは挨拶を返して、アリエルと、とても嬉しそうな様子のグランドルに笑顔を向けた。


グランドルのこのような表情は初めて見た。

ルイやルイの家族には、グランドルは表情豊かだし気安く笑ってくれる。

けれど、他の人にとっては、たとえ相手が王族であろうと、どこか冷たい。

そんなグランドルが、『共にいるのが幸せでたまらない』と書いた笑顔でアリエルを見つめている。

この顔は、ルイたちに向けられるものとは質が全く違う。

ルイは可笑しくなってしまった。


「良かった。グランドル、まさか私の生きているうちに、彼女ができるなんて」

「ありがとう。・・・世界がこれほど喜ばしいものになるとは、私も思っていなかった」

ルイとグランドルの会話を、アリエルはどこか恥ずかしそうに、けれど嬉しそうに聞いていた。


「それから、すまない、ルイ。迷惑をかけたと聞いて、裏口を目指したのだが、アリエルが入れず、正面から来たのだ」

グランドルが店内を心配そうに見回す。

ルイは納得した。

「あぁ、だから正面から・・・」

頷きながら、ルイは正面のドアを見る。それから、今は仕切りで見えない、裏口の様子を気に掛ける。けれどなんの物音もしない。


「・・・2人で来てくれたのか?」

とルイは尋ねた。

グランドルと、彼女のアリエルとで。


「そうだ。一時も離れたくない」

「そうか。そうだよね」

龍の彼には、人間の短命さが怖いのだと知っているルイは、グランドルの気持ちを察しながら、どこかで冷えた。

なんだ。クラウは来ないのか。やっぱりそうか。


まだ9日の期日にはなっていない。まだ4日目。

とはいえ、グランドルは彼女と一緒にここに来たのに。


ルイの中で、クラウに対する評価が底をつく。


「ルイ。馴染みの古道具屋の場所を教えてくれ」

「え?」

「機械人形の店長さんと、美人の店員さんがいる店だと・・・」

説明を加えてきたアリエルに、ルイは驚く。


「『アンティークショップ・リーリア』だ。教えるのは良いが、どうしたんだ?」

ルイがグランドルに尋ねると、グランドルはため息を零した。

「アリエルの妹が、『戦乙女の剣』に選ばれたのだが・・・」

それは知っている。クラウの事だ。


「あの剣を売って金に換えたと。だから買い戻しに来たのだ」

「え!?」

驚くルイに、アリエルが慌てたように説明してきた。

「あ、あの、あの子、旅費が無くって、困って、それで止む無く・・・ごめんなさい、やむを得ずした事なの」


いかにも女性らしい、少しの気品、気遣い、柔らかな雰囲気。ルイが苦手とする方の女性だ。

グランドルが心配になるけれど、この人こそが、昔の勇者の生まれ変わりなのかもしれないと思うから、心配する必要はないはずだ、腹黒いはずはないはずだ。


ルイはアリエルよりもグランドルに意識を向けることにした。

「えっと」

「その店に案内してほしい。過去のものだが・・・あれは、人間よりも長く存在できるのだ」

どこか辛そうに言うので、ルイは即座に頷いた。

アリエルだっていつか死ぬ。

あの聖剣ほど、姿形を変えず有り続けるものを、グランドルは持っていないのだろう。


「あの、お店は、構わないのですか?」

即座に店を出ようと動いたルイに、アリエルの方が気遣ってきた。

「はい。大丈夫です。・・・そういえば、あの、あなた方も店をしていると・・・」

クラウは、料理屋をしていると言っていた。このアリエルが切り盛りしていたはずだが、ここにいて大丈夫なのか。客がいないとクラウが怒っていたが・・・。


アリエルは、寂しそうに恥ずかしそうに笑った。少し自嘲の笑みだった。

「はい。あの・・・店を閉めてきても、問題が無かったので・・・」


「そうでしたか」

そんな風にしか、返答できなかった。


***


人型のグランドルとアリエルを連れて、ルイは『アンティークショップ・リーリア』に足を向けた。

道中で、グランドルを見つけた女性が嬉しそうに悲鳴を上げ、直後にその横に大切に守られるようにして共にいるアリエルを見て今度は絶望したような悲鳴を上げている。


正直、女性がどうなろうが構わないが、とにかくルイの店に押しかけないようになってくれればそれでいい。


それにしても、まさかあれを売るなんて。

道中、ルイは呆れるように思う。


目的の店『アンティークショップ・リーリア』の扉を開けようとして、ルイは少し躊躇した。

また内部倉庫にいざなわれるかと思ったのだ。グランドルを連れているからだ。

だが、少し待っても入店を止める人は現れない。


良いのか、と思いながら、ルイはようやく目の前の扉を開けた。

「いらっしゃいませ」

どこか苛ついたような冷えた目で、店長代理シーラが迎え入れてくれた。


***


「4日ほど前私が来た時に連れてきていた者が、この店で剣を売ったそうなんだ。それを買い戻したい」

ルイの言葉を静かに聞いて、シーラは首を横に振った。


「ルイ様。あちらは、もう売れました。当店にはもうございません」

「えっ!!」

シーラとルイの会話に、グランドルが口を挟んできた。

「誰に売ったというのだ」


「お答えできかねます」

「そこを、すみません、お願いします教えてください!」

ルイがグランドルのために頼む。

シーラは冷たくルイと、カウンターの傍にまで来たグランドルを迷惑そうに見やった。


「お売りした先も大切なお客様ですので、お答えできかねます」

「待ってくださいシーラさん、あれ、聖剣なんです。『戦乙女の剣』と言ってー」


「存じております。その上で買い取りさせていただいております」

「えっ。じゃ、じゃあ、そんな聖剣を一体誰に・・・」

「言わないと、店を壊す」

「待てグランドル! 止めろ」

「グランドル、お願い、そんな事は止めて」

本気で破壊しそうなグランドルを、ルイとアリエルが慌てて止める。

ルイの言葉には動じなかったくせに、アリエルの焦った声にグランドルは振り向いて、困ったように笑んだ。

態度の違いにルイは動揺したが、まぁ仕方ないやと思い直した。


あれ、ひょっとして、クラウならもっと差が激しい・・・?

とルイにふと考えが浮かぶ。

ルイでさえこれなら、きっと色々・・・とふと同情が湧きかけて、あんなやつの事などどうでも良い、と冷静に戻る。


一方、グランドルの圧力にシーラが冷えたように黙り込み考えている。

「・・・店長を呼びます。少々お待ちを」

「分かった」

グランドルとシーラの間で緊張が走る。


「えーと、こんにちはー! わぁ! 初めまして、赤龍サマ! 光栄です!」

店長ジェシカが、パタパタッと、軽やかに駆けてきた。

『赤龍サマ』という呼びかけにルイはジェシカを驚いて見た。分かるのか? そんな機能までついているのか?


「そうですか。赤龍ですか」

と、シーラが店長ジェシカを傍に招いてため息をついた。

「変わった存在だ」

グランドルが興味を引かれたようにジェシカを見つめている。


「よろしければ、ご慈悲を賜っても? 動力が足りていません」

「え」

「動力? 熱で構わないのであれば」


シーラの言葉にルイは驚き、グランドルは少し首を傾げる。


「動力が足りない? あのまさか・・・」

「いいえ。ただ、数日、ジェシカの動きが激しかったものですから。それだけです」

「そうでしたか・・・」

ルイは深くを尋ねないようにした。それぞれ事情はあるし、深く話そうとしないのなら聞かないのがマナーだ。


「握手してくだサイ!」

ジェシカがにこにこしながら、グランドルに両手を差し出す。

「熱を与えれば良いのだな?」

確認しながら、グランドルは、グッと片手でジェシカの頭部を掴んだ。


え。そこを持つのか?

ルイは驚き、ジェシカも目を丸くしたが、シーラが淡々と、

「頭部、胸部、脚部にも入れ込んでおります『熱』の魔法石を満たしていただけたら幸いです」

と頼む。


ユラッと、ジェシカの輪郭が揺れた。一気に周辺に熱が生まれたのを肌で感じた。

それはすぐにジェシカの内部に消えていった。


「わー、フル充填です!」

ジェシカが驚いて目を丸くして、結局握手せず放置された両手をニギニギと動かしている。

その様子に、シーラが少し頬を染めるようにして雰囲気を和らげた。嬉しそうだ。

ルイは驚いた。


ルイが驚いているのに気付いて、シーラはすぐに表情を消したが、それでもグランドルを見た時に再び表情には感謝の念が溢れていた。

最大級の礼を、シーラはグランドルにとった。


やはり貴族だ、とルイは知った。

シーラは、貴族そのものの動きを身に着けている。

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