仲間たちが働かない
次の日、ギルドは俺の話で持ちきりだった。受付嬢は黙っていてくれたらしいが、他のハンターが俺たちの会話を後ろから聞いていたらしい。
しかも、口の軽い悠里が全部喋ってしまったのが悪かった。
三人で協力して倒したことにすれば良いのに、俺が一人でやったこと。剣を使って倒したことにすればいいのに、素手で倒した事。
全部バラしてしまったのだ。馬鹿悠里め、後でシバく。
B+モンスターとは普通の人間が努力して単独で狩れる限界と言われているらしい。
過去にはAランク以上のモンスターを単独で狩猟したハンターも居たらしいが、誰もが例に漏れず天才だったということだ。
そんなところにB+モンスターを一撃で、しかも素手で倒す男が出てきたのだ、話題にも昇ろうものだ。
コレは非常にマズイ事態だ。
俺はサクッと世界を救って悠里と共に元の世界に帰りたいのだ。目立ちたいわけではない。というかむしろ目だったら面倒臭い。
「はい、藤原くん。クエスト持ってきたよ。こんなのどうかな?」
誠治がクエスト用紙を持ってきた。
《ストライクガルーダ一頭の討伐》
と書いてあった。ランクはB+。
俺は頭を抱えた。目立ちたくないと言った所なのに……。
取り敢えず、悠里に見られないように隠して……「なになに?ストライクガルーダ?面白そう!」ああ、見つかってしまった……。
「今度は渓谷?楽しみ!」
完全に乗り気だ……このアホめ……。
「まぁ、藤原くんがいれば余裕だよね」
「お前らも働けよ!」
結局俺たちはガルーダの生息地であるアゼト渓谷へ向かうことになった。
---アゼト渓谷---
「さて、今回はお前たちにも働いてもらうぞ」
俺は重々しい声音で二人を振り返った。
「何すれば良いの?」
「お前らが敵を倒すの!」
「良いじゃん、どうせ一撃なんだし〜」
「甘ったれるな!」
「でも、僕たちには戦闘ボーナスが付いてないから戦ったら殺されちゃうかもよ?」
「そうだそうだ!」
二人が俺に抗議の声を上げる。
「チート能力者がそうそう死ぬか!」
二人は何とかして俺だけを働かせようとしてるらしいな。
俺は腕組みしながら二人の前で仁王立ちした。
「お前達、そんなんじゃ俺がいない時どうする気なんだよ?」
するとその時、悠里が血相変えて俺の後ろを指差した。
「あ、康介、後ろ!後ろ!」
「お前はまたそうやって話を逸らそうとする……」
これは悠里がよくやる手口だ。コイツは都合が悪くなると「ほら、後ろ!宇宙人!」とか、「あ、UFO!」とか良くやるのだ。なんで全部SFなんだ?
「ちょ、藤原くん⁉︎後ろ!」
「おい、誠治、お前も……ガアッ⁉︎」
一陣の風が吹き、突然俺を強い衝撃と浮遊感が襲った。
眼下には小さくなった悠里と誠治が見える。
渓谷全体が見渡せて、なかなか絶景だ。
何て呑気なこと考えてる場合じゃない!
現在俺はストライクガルーダの両足で身体を拘束されているのだ。
今、嘴にくわえられた。ヤバイ、喰われる。
多分ここはすでにストライクガルーダの縄張りだったのだろう。そりゃあ縄張りの中で知らない奴が騒いでたら排除しようとするよな。
(でも、相手が悪かったな)
俺はニヤリと冷静に笑うと、チート握力でストライクガルーダの嘴を掴み、グシャッと握り潰した。
「ギャオオォォッ!」
ストライクガルーダが苦痛に大きく嘶き、俺から嘴を離した。そのせいで俺は空中に投げ出された。
だが、俺はすぐにストライクガルーダの足に掴まり、身体をよじ登った。
「どうだ?自慢の嘴をぶっ壊された気分は」
そして、俺はストライクガルーダの翼の付け根にしがみつきながら、拳に渾身の力を込めた。
「うおおおおおッ!」
裂帛の気合いと共に俺はストライクガルーダの嘴の欠けた顔面を後ろから思い切り殴り飛ばした。
次の瞬間、ストライクガルーダの首が「ブチャグチィブチィッ!」と嫌な音を立て、グチャグチャになりながら彼方まですっ飛んでいった。
「あ」
失念していた。
別に顔を吹き飛ばしたことを悔やんでいるのではない。
高過ぎたのだ。倒した場所が。
「ああああああああああああぁぁぁぁ‼︎‼︎」
俺は何の抵抗もなく真っ逆さまに地面に落下した。
かなりの高空だ、普通の人間が落ちたら骨折じゃあすまないだろう。というか地面に真紅の花が咲くだろう。
だが、今の俺はチート能力者! 高いところから落ちたくらいで死んでたまるかぁぁぁぁああぁ‼︎‼︎
ズドゴォォッ!
俺は轟音と共に両足で地面に着地した。
かなり不安だったが無事着地できた。少し足が痺れたたけで済んだ。恐ろしやチート能力。
俺は少し離れたところに落下したストライクガルーダの首無し死体を引き摺りながら二人の元へと急いだ。
「康介遅いねー」
「そうだね、もう少しかかるのかな。おかわりいる?」
「いる!」
俺が疲労困憊しながら帰ってきたら、二人は岩に腰掛けながら誠治お手製のクッキーを食べてお茶を飲んでいた。
「お前らぁ!ちったぁ働けぇぇ!」
渓谷に俺の魂の叫びが響き渡った。
---
俺は仏頂面でストライクガルーダを引きずっていた。あまりに重すぎて俺じゃないと運べなかったのだ。
「ねぇ、ゴメンって〜、機嫌直して?」
「ほら藤原くん、クッキーでも食べてさ」
「俺は死ぬかと思ったんだぞ?なのにお前らときたら……」
正直怒る気力も湧かなかった。
コイツら俺が命懸けで戦っている間おやつ食ってたんだぞ?しかも、悠里が俺の分まで食ってたせいで一枚しか残ってなかったし。
今から帰れば晩飯時の時間には間に合うし、早く帰りたかった。
「き、今日の晩御飯は私がいつもより本気出して作るから!ね⁉︎」
「良い考えだね、僕も手伝うよ!」
何故だか分からんが二人とも必死である。俺そんなに怒ってるように見える?
「もういいから、もう怒ってねえよ。でも流石にもうちょい働いてくれよ」
俺はうんざりしながら言った。
どうせこう言っても特に何も変わらないんだろうなぁ……。
「分かった、次は頑張るよ」
「僕もそうするよ。ゴメンね藤原くん」
「お、おぅ。分かればいいんだ」
物分りのいい二人に俺は軽く戦慄していた。これから何かを要求されるんだろうか?
「きゃあああぁぁぁぁ‼︎‼︎」
その時、少し離れた場所から女性の悲鳴が聞こえた。
「っ⁉︎」
「行こう!」
直ぐに誠治が走り出した。反応が迅速だ。
「お、おい、この鳥どうすんだよ⁉︎」
「そこに置いとこう!ほら康介、早く!」
そう言って、悠里もダッシュ。
「ああ、もう、わかったよ!」
俺はその場にストライクガルーダを放置して悲鳴の上がった場所へ向かった。
---
グルアアアァァァッ!
何とそこにいたのはドラゴンだった。
どう見ても、お伽話や神話などで見るドラゴンだ。
全身が赤い鱗に覆われており、手や口からは鋭い爪と牙が伸びている。背中には大きな翼。長い尻尾には何本もの鋭い棘が生えている。
そして、そのドラゴンの前には一人の男性と一人の女性。襲われているのは三人パーティの様だ。さっき悲鳴をあげた女性は安全な場所まで逃げていたが、残りの二人は殺される寸前だ。
どう見てもヤバイ。
「藤原くん!そっちの女性ををを頼む!僕はこっちを!」
誠治が男に駆け寄り、肩を貸した。
「す、すまん……」
「お礼は後でいいから、早く走って!」
二人は二人三脚をするように走り出した。
「おい、アンタ。肩貸すから早く立て!」
俺も倒れている女性を起こした。
「あ、ありがとうございます……」
「ああ……」
その時、ドラゴンが誠治達に狙いを定めたのか、二人へ突進を開始した。
「なっ⁉︎く、クソッ!」
俺は直ぐに女性を担ぎ上げ、両足に力を込めて跳躍した。
俺の筋力だったら人を一人抱えていても十分な距離をジャンプすることが出来る。
俺は直ぐに安全な場所で待っている悠里ともう一人の女性の所へ運んだ。
「ここで待ってろ」
俺はそう言い残すと直ぐに誠治のところへと向かった。
誠治は視覚チートを使いながら必死でドラゴンの攻撃を避けている。普段なら余裕で躱せるのだろうが、今は男を一人抱えているのだ、いずれ限界がくる。
「誠治ぃぃぃぃぃ‼︎‼︎」
俺は思い切り地面を蹴ってドラゴンに突進した。
俺は筋力チートの能力を遺憾なく発揮した。俺のチート能力は普通の人間なら不可能な動きを可能にする。
俺は風をビュンビュン切りながらドラゴンの元へと飛び、尻尾を掴んだ。尻尾の鋭い棘も俺には刺さらない。刺さることが出来ない。
「おらぁぁあぁぁあぁ‼︎‼︎」
俺は叫びながらドラゴンのぶん回す。
やがて、ドラゴンの尻尾が千切れてドラゴンが空中に吹き飛ぶ。
「ギャオオオオオ‼︎」
俺は無造作に尻尾を投げ捨て、ドラゴンに向かって地面を蹴った。
空からドラゴンが息炎で応戦してくる。だが、その程度の炎は俺には効かない。
「チート能力者舐めんなぁぁぁぁっ!」
俺は炎を殴り消した。
そして足に渾身の力を込めて空を蹴った。
これが格ゲー名物、二段ジャンプだ!
俺は空中で一気に加速し、ドラゴンの腹をぶち抜いた。