モンスターが相手にならない
「ねえねえ、コレなんかどう?」
そう言って悠里は一枚のボロいクエスト用紙を手に取って見せてきた。
《デストロイシャーク一頭の討伐》
と書いてある。
取り敢えず悠里の頭を小突いていおいた。
「アホか‼︎無理に決まってるだろ‼︎ランク見ろ!ランク!何でこんな凶悪そうな奴を持ってくる⁉︎」
「でも適正ランクD+って書いてるよ?」
この名前で適正ランクDなのかよ!
めっちゃ強そうな名前してるというのにこれいかに。
「ランク的には適正クエストなんだし、行ってみるのもいいんじゃないかな?」
誠治が悠里に助け舟を出してきた。すでに俺の味方はいないらしい。
「ま、まぁ、適正クエストなんだったら、良いかな……」
俺は溜息をつきながらも了承した。
どの道悠里が乗り気になっている以上俺にはどうしようもない。それに、反論材料も無いしな。
渋々、俺はクエストカウンターにクエスト用紙を提出した。
「《デストロイシャーク一頭の討伐》ですね、このクエストはあなたの適正ランクよりかなり上ですが宜しいでしょうか?」
「あ、はい」
俺たちのランクはまだE−だもんな。普通に考えれば3つもランクが上なのか。でも適正じゃ無いのか?
少し不安だったが、俺は銀貨を一枚差し出した。
失敗したら銀貨を一枚とられると思えば緊張感も湧こうものだ。俺たちにとって1Sとは割と重たいものなのだ。
「それでは、御武運を!」
俺たちはデストロイシャークが居るという、リーア海岸へと出発した。
---リーア海岸---
片道2時間ほど掛けて、俺たちはデストロイシャークが出現するというリーア海岸に到着した。
俺たち3人は海岸線に沿って歩いたがデストロイシャークは一向に出てこない。
まさか、海に潜って探さないといけないのだろうか?それは面倒臭い。
ちなみに俺たちの装備はギルドが初期装備として支給してくれた鉄の剣と皮の鎧である。
正直いって心許なかったが、お金が無いので仕方が無い。
「サメ出てこないね」
「そだな」
「あ、いたいた」
「見つけたのかよ!」
誠治が特殊能力を使って発見したらしい。
水の中にいてもお構い無しに索敵可能とは恐ろしいな、チート能力。
「でも海はサメのホームグラウンドだから、飛び込むのは危険だよね……うわっ、速いな……」
誠治がサメのスピードに軽く引いている。どうするんだコレ。
時間ばかりが無意味に過ぎていく。時間制限は無いが夜になると戦闘は不利になるし、短期決戦で決めたい。
「康介は筋力チートなんでしょ?殴ってみたら?」
「それで俺が食い殺されたらどうするよ?」
「多分大丈夫だって」
悠里はそう言って俺をトンッと海に突き落とした。なんの抵抗もできず、海に落ちる俺。
トボオオン!
「お前っ!……ゴボッ、このヤロっ……やべ、皮の鎧が水吸って、重いっ!」
「がんばれ♥︎がんばれ♥︎」
「藤原くん、任せた」
「テメェ達、後で覚えてろおおぉぉぉお‼︎‼︎」
騒いでいたら背後から殺気が。
ゆっくりと振り向いたらそこにはデストロイシャークが。
「ゴボゴボゴボゴボ!!!」
水中にいる為ちゃんと声が出ないが、ヤバイ。生命の危機だよコレ。
そしてデストロイシャークは俺を餌と定めたのか、高速で俺に向かって突進してくる。
覚悟を決めろ、俺!何もしなければ死ぬぞ!俺のチート能力を信じるんだ!
サメの鼻先にはロレンチーニ器官と呼ばれるものが備わっている。そいつを刺激すると認識を撹乱することが出来る、と本で読んだことがある。
だったらやることは一つだ、突進してくる奴の鼻先に拳骨をブチ込む!
(うおおおぉぉっ!)
水中ではゴボゴボ言うだけなので心の中で叫ぶ。
覚悟しろ!と思っていたら予想以上にデストロイシャークの移動スピードが速く、突進をモロに食らい、俺は海面から空中へ吹き飛ばされた。
「クソッ!」
下ではデストロイシャークが大口を開けて俺の帰りを待っている。
死にたくねえ!諦めてたまるか!悠里、お前マジで覚悟しとけよ!
俺は拳を振りかぶり、思い切りデストロイシャークの鼻先を殴りつけた。
デストロイシャークは木っ端微塵になった。
「ファッ⁉︎」
海面には夥しい量の血液と少しの肉片と骨やヒレ、後は大体沈んでいった。
「嘘だろ……」
具体的なボーナス数値は見ていたが、ここまでとは思っていなかった。あの凶悪な面したサメを一撃で粉々にするなんて……。これがチートか。
「すっご〜い!流石は康介!」
悠里は呑気に俺に駆け寄ってくる。俺は一時、死を覚悟したというのに。
「お前!ふざけんなよ!2度とするな!」
「ごめんごめんって」
「あははは、でも藤原くん、結果オーライでしょ?」
「うるせぇ!」
俺たちは微妙に残っていたデストロイシャークの骨や肉を持ってギルドへと帰還した。
---ギルド---
「たっだいま〜」
「ただいまっと」
「結構、長い距離歩くね。疲れたよ」
「俺の方が疲れてんだよ!」
「だから、ごめんって」
俺たちは愚痴を言いながら、俺たちはクエストカウンターへ報酬を貰いに行った。
「《デストロイシャーク一頭の討伐》達成ですね!報酬の15Sとなります!」
うおお!高い!俺のバイト2週間分だ!ハンターって以外と割のいい仕事なんだな。
Dランクでこんなに貰えるんだったらかなり幸先良いんじゃないだろうか。
「パーティ情報の提示をお願いします」
「あ、はい」
俺は俺たち3人分のハンターカードを出した。
「ええっ⁉︎」
すると、受付嬢が驚愕の声を上げた。
「どうかしたんですか?」
「さ、三人共、Eランクだったんですか……?」
「そうですよ?」
「その、このクエストは……Bランク+なんですけど……」
受付嬢はそう言って、クエスト用紙のランク欄を指差す。
「ええええ⁉︎だ、だってD+って言ってたじゃ……」
まさか……擦り切れて下の方が消えてたのか……?嘘だろ、なんで気が付かなかったんだ?
ちょっと待て、俺はそう言えば一度もクエスト用紙を見てない。悠里がD+って言うから完全に信じ込んでいたんだ!
しまった……悠里ならやりかねないミスだ。アイツは勉強の成績は良いが割と抜けてるからな……。
ここで悪目立ちするのはマズイぞ……チート能力がバレることはないだろうけど、不審に思われるのは何かと面倒だ。
「じ、実は旅の人に助けてもらって……」
「今日リーア海岸に行ったのはあなた方だけですが」
「…………」
オワタ。
「なんで、クエスト受注したとき言ってくれなかったんですか!」
人の所為にすることにした。
落ち着け俺、今の俺は完全にクズじゃないか。
「パーティを組んでいる方が居るように見えたので……その方々のランクが高いのかと……」
まぁ、普通そう思うわな。
E−ランクの奴がなんの躊躇もなくB+ランククエスト受けてたら誰だって普通そう思うわな。俺だってそう思う。
もう誤魔化せないし、諦めよう。
「この事は内緒にしてもらえませんか?」
「も、勿論、ギルドには守秘義務がありますから!」
良い人で助かった。
『転生魔王の異世界征服』という作品も書いてます。良ければそっちもよろしくお願いします