字が書けない
◇バイト生活 3日目
俺たちは金を貯めるため、必死で働いた。俺と誠治は木こりのバイト。
悠里は宿屋の酒場で看板娘をやっている。
悠里が働き始めた事で劇的に貯金の溜まりが良くなった。
その日はいつも以上にバリバリ働いたので親方がまた給金に色をつけてくれた。
その日の晩飯は何故か昨日よりも美味く感じた。達成感ってやつかな。
◇バイト生活 4日目
今日もバリバリ働いた。昨日と特に変わった事は無い。
◇バイト生活 5日目
今日もバリバリ働いた。昨日と特に変わった事は無い。
そろそろ夏休み後半の日記の宿題みたいになってきた。
◇バイト生活 6日目
今日もバリバリ働いた。(以下略)
◇バイト生活 7日目
今日もバリバリ(略
◇バイト生活 8日目
今日も(ry
◇バイト生活9日目
(全略)
◇バイト生活 10日目
今日もバリバリ働いた。
この日、やっと目標額のお金が溜まったので、俺は気分が良かった。
俺たちは10日間世話になった親方に今までのお礼と突然辞めることの謝罪をして帰ってきた。ハンターになると言ったら親方は快く送り出してくれた上、給金をはずんでくれた。良い人だった。
「いよっしゃー!」
俺は部屋に戻ってから部屋の中で叫んだ。隣の部屋の奴が壁をドンドンしていたが知った事では無い。
「やったね、康介!」
「いやー、少し筋肉がついたよ。まぁ、良い経験だったね」
「もう2度とやりたくないな」
そんな事を言い合いながら、俺たちは部屋の中でハイタッチし合った。なんか世界を救ったような気分になっていた。
バイト戦士からハンターになるだけなのだが。
「これでやっとハンターになれるね!」
「ああ、やっとスタートラインだ。ハンターになれば収入も安定するだろうし、楽に暮らせるかもなー」
「今日は疲れたし、ゆっくり休んで、明日ギルドに行こうか」
そう言いながら誠治は布団を敷き始めた。
「そだな」
「明日が楽しみだね〜」
「ちゃんと寝ろよ?」
「眠れないよ〜」
お前は遠足前夜の小学生か。
「ほらほら二人とも布団かぶって目瞑って、電気消すよ?」
お前は幼稚園の保父さんか。
「皆、おやすみ〜」
「おやすみ」
「おやすみなさい」
俺たちはすぐに眠りについた。
---
翌日
「おっはよ〜!起っきろー!康介!皆川くん!ギルドに行くよ〜!」
めっちゃテンション上がってる悠里に布団剥ぎ取られて起こされた。寒い。
「うう、田中さん……?お願いだから寝かせて……今日は一段と早起きだね……」
誠治は低血圧気味に言った。
その通りだ、現在の正確な時刻はわからないが、尋常じゃないくらいに早い。外はまだ薄暗いし。
「悠里……まだこんなに暗いし、もうちょい寝ようぜ……」
「何でよ〜、ギルド行こうよ〜」
「開いてないだろどう考えても」
「根性が足りないよ!」
「いや、根性は関係ないから」
もうダメだ、睡魔が襲ってきた。起きてられない。目が開かない。
「はいはい、おやすみ田中さん」
「二度寝に入りまーす」
「ちょっと、二人共〜!」
俺たちは二度寝した。
---数時間後---
「二人共ー起きなよー、ギルド行くんでしょー?」
いつもより少し遅い時間だったが、誠治が俺たちを起こしてきた。
悠里はさっきまであんなに騒いでいたくせに、すっかり寝ていたらしい。
「んー……眠い……」
悠里は寝ぼけながら両目を擦っている。睡眠中に着崩された服が絶妙にエロい。少し目のやり場に困るな。
俺たちがぐずぐすしてる間に誠治は朝食の準備をしていた。有能なイケメンだ。
不意に悠里が欠伸をしながら立ち上がった。
「ふぁ〜…………」
デカイ欠伸だな……相当眠いらしい。
「テンション上げて早起きするからだ。馬鹿だなお前」
「馬鹿じゃないですー、私の方が康介より成績いいもんねーだ」
「成績の話じゃねえよ」
そんなことを言い合っていたら、誠治がエプロンを外しながらパタパタとこちらにやってきた。準備が完了したらしい。
「ほら、ご飯できたよ、二人共座って」
「うい」
「はーい」
何だかオカンみたいだな、誠治は。
誠治は割と家事スキルが高い。料理は悠里の方が美味いが、手際の良さは誠治の方が上だ。
俺たちは支度を整えてギルドへと向かった。今度は大丈夫だ、銀貨20枚近く持っているんだから。装備なんかを整える余裕もあるんじゃないだろうか。
さて、ギルドに到着だ。悠里は勇み足でギギィッとギルドの扉を開けた。
「たのもー!」
「馬鹿かお前は!」
「あはは、面白いね、田中さんは」
のっけからコイツは馬鹿丸出しだな。「たのもー!」じゃねえよ全く。
俺たちはこの前、金がなくてできなかった、ハンター登録をするために受付へ直行した。
受付カウンターに立っていたのは前に話した受付嬢だった。今日も相変わらず暇そうだ。
「あの、ハンター登録をしたいんですけど」
「いらっしゃいませ!新規登録のお客様ですね!登録料金はお一人様3Sとなっております!」
前と殆ど同じ事言ってる。1日に何回コレ言ってるんだろうか。
今回は前と違って、ちゃんと金を持っている。俺は銀貨を9枚取り出して受付嬢に手渡した。
「3人登録をお願いします」
「承りました。では、専用の用紙にご指名をお願いします。失礼ですが、代筆は必要ですか?」
あー、俺たちは字が書けないんだった。少しぐらいは書けるし読めるようにはなったが、流石に用紙に記入するのは無理だな。
「じゃあ、お願い……」
と、俺が代筆を頼もうとした時、
「僕が字をかけますので、代筆は結構ですよ」
隣に立っていた誠治が名乗りを上げた。誠治はそういえば特殊能力のお陰で読みが完璧なんだったな。でも書けるってのはどういう事だ?
「読みが完璧なんだから後は字を覚えるだけだよ。漢字を覚えるのとそう変わらないよ」
成る程、流石は勤勉なイケメンだ。相変わらずスペック高いな。
誠治が用紙に字を書き込み始めた。
割ときれいな字なんじゃないだろうか。几帳面にまとまった字だ。
「何書いてるんだ?」
「名前と年齢と性別だね、二人共年は?」
「俺たちは17だ。誠治は?」
「僕は19歳だよ」
ふーん……、って年上だったのか⁉︎
「そうだね、僕も気が付かなかったよ」
「心を読むな!」
確かに、気配りもできるし料理もできるしイケメンだし優しいし、年上な感じはしてたけども。
「え、誠治さんって呼んだ方がいいですか?」
「あはは、気持ち悪いから今までと同じでいいよ」
「今さらっと毒吐いた?」
「気のせい気のせい。よし、完成っと」
誠治が三枚の用紙を書き上げたらしく、そのまま受付嬢に提出した。
その後、受付嬢は俺たちが提出した用紙を持って10分ほど奥に引っ込んだ後、三枚のカードを持って出てきた。
「では、こちらがハンターギルド登録証、通称ハンターカードとなります」
受付嬢がコンビニの会員カードくらいのサイズのカードを差し出してくる。
そこには俺の名前と年齢と性別が書いてあり、その隣にはEみたいな文字が書いてあった。
「コレは……?」
「コレは持ち主のランクを示します。ランクはE−からS+までございます。コースケ様ははまだ何も実績がありませんので、E−ランクとなっております」
成る程ね、ってかコレE−って読むのか。そっちに驚きだよ。
「クエストってどうやって受けるんですか?」
「あちらのクエストカウンターの前に張り出されているクエストから自分のランクにあったクエストを選び、それをカウンターに持って行ってハンコを押してもらい、契約金を払えば受注完了です」
分かりやすい上に面倒臭がらずに教えてくれる。多分この人も良い人だ。
「クエストは成功すれば契約金が返還されますが、失敗すれば没収される上、何度も失敗すればランクが下降します。
逆にクエストをこなし、実績を作っていく事でランクは上昇します。
ランクは受けるクエストの目安にもなるのでクエスト受注やパーティ編成に非常に重要です。不正などでランクを上げると命に関わりますのでご注意を」
「成る程ね、ちなみにE−ランクだったらどんなクエストが受けられるんですか?」
「E−ランククエストの代表的なものは、危険の少ない生き物の捕獲や、植物採取、失くした物の捜索などですね」
やばい、簡単すぎて笑えないぞ。失くした物の捜索なんて自分でやれよ。
「原則、どのランクのクエストでも受注可能ですが、クエスト中での事故は全て自己責任となりますので」
まぁ俺たちは取り敢えず自分に見合ったランクのクエストをこなして、ランクを上げていく事になるのか。面倒臭いけど……。
「他にご質問などごさいませんでしょうか?」
「あー、いや、もう結構です。ありがとうごさいました」
「それでは、良い冒険を」
俺たちは受付嬢にお礼を言った後、受付を後にしてクエストカウンターへと向かった。
まずは何かしらクエストをこなしてランクを上げねば。