お金がない
「所でこれからどうするんだい?」
お前は何も考えてなかったのかよ。何でキメ顔で「行こうか」とか言ったの?
「取り敢えず金がいるな。生きていくには住む所と食う物と着るものが絶対に必要だ。そして、金を稼ぐには職が必要だ」
「そうだね、衣食住が無いと文化的な生活は送れないもんね」
「野生的な生活で良いのなら食だけで良いんだけどな」
俺たちは取り敢えず大きな建物へと向かった。
基本的に街並みを見たところ、大きな建物は少ない。そしてここは異世界だ。つまり、でかい建物には何かしらのイベントポイントがあるはずなんだ。
脳みそがRPGに侵されている俺の提案だ。
普通にバイトをして日銭を稼ぐという手も考えたが、俺たちには特殊能力があるんだ、能力の無駄遣いは良くない。
この世界での名称は分からんが、冒険者orハンターに俺たちはなる!
道がわからん時は普通に人に聞いてギルドに行く方が良いな。
通行人のおばちゃんに聞いてみよう。
「この街にギルドってあります?」
「ハンターギルドのこと?この街で1番大きい建物だから、広場に行けばわかるわよ!」
「ありがとう、おばちゃん」
「おばちゃんんん?」
「お、お姉さん」
あっぶな……危うく地雷踏むところだった。
まぁ良い、ハンターギルドとやらはこの街で1番でかい建物だということが分かったし広場ってところに行くか。
人通りの多い通りを歩く事5分程度、広場に到着した。多分ここがおばちゃんの言っていたところだな。
でかい噴水の前で大道芸人が芸を披露している。店も幾つか出ていて騒がしい。
割と栄えてる街なんだなココ……《始まりの街》っていうのは大体ここまで栄えてないのが普通だが。女神の粋な計らいってやつなのかな?
広場に行けば分かるというおばちゃんの話は本当だった。広場から滅茶苦茶目立つ位置にギルドがあったからだ。《ハンターギルド》ってデカイ看板にデカデカと書いてある。
俺たちはその建物へとさっさと入って行った。
「わぁ〜、広いね、康介!」
「そ、そうだなー」
ものすごく広い。ここでは居住スペース、飲食スペースなどと様々な用途別にスペース分けがされているらしく、何人ものハンター達で賑わっていた。
「早く登録しに行こう!ほらほら早く!」
「テンション高いなお前は……今度は何に対してワクワクしてるんだ?」
「まぁまぁ、こういうのには小さい頃から憧れるでしょ?」
ニコニコしながら誠治が俺の隣に来た。
「男子はな!」
何故この女子は男子よりワクワクしてるんだってばよ?
さっさと受付カウンターへと行ってハンター手続きだ。手早く済ませたい。
俺は悠里に引きずられながら受付へと向かった。後ろから誠治が微笑みながらついて来る。
俺は美人の受付嬢に声を掛けた。暇そうに俯いていた顔がぱあっと明るくなった。相当暇だったんだろうな。
「あの、ハンターになりたいんですけど」
「新規登録のお客様ですね!いらっしゃいませ!登録料はお一人様3Sとなっております!」
俺たちはバイトをして日銭を稼ぐ事になった。
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「この世界の通貨なんて持ってるわけ無えだろ!どうしろってんだよチクショー!」
「まぁまぁ、抑えて抑えて……」
そもそも俺たちはこの世界の通貨の単位も知らないのだ。Sって何?
俺は現在誠治と共に森で木を切るバイトをしている。
「おらぁ!喋ってないで手ぇ動かせぇ‼︎」
「「はいっ!」」
親方に怒鳴られながらひたすら木を切る。
切る。切る。切る。切る。切る。切る。切る。切る。
俺たちはズブの素人だが、親方は親切に木の切り方を教えてくれたし、どのみち加工するから切断面は多少汚くても良いとのことだ。
親方は優しい。でも怒鳴り声は怖い。
ちなみに、悠里は宿でお留守番だ。
あいつはこういう時1番働きたがるのだが、悠里はこの職場で雇ってもらえなかったのだ。女だからだろうか。この世界には男尊女卑が根付いているのかも知れないな。
流石に同じ職場じゃないと不安なので部屋に篭って貰っている。
「よっしゃぁ!今日はここまで!お前らよく頑張ったなぁ!飯奢ってやる!」
親方が良い汗かきながら俺たちの背中をバンバン叩いた。
俺たちは全身の筋肉がパンパンだった。
「お、あ、あざっす……」
なんだか、面倒見の良い部活の先輩みたいだ。しかし、俺は吐きそうだったし、部屋には悠里を残して来ているのだ。もう夜も遅いし、心配だ。
「で、でも、今日は帰ります……すいません、連れが待ってるんで」
「なぁんだ、羨ましいねぇ!じゃあホラ!今日の分の給金だ!色つけてやったから取っとけ!」
良い人すぎる。俺は涙が出そうだった。
「あ、あざすっ!」
「ありがとうございます!」
俺たちは親方にお礼を言って家路についた。
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あまりに少ない。
今日1日全力で働いた報酬は銀貨が1枚と銅貨が2枚だった。
「嘘だろ、おい」
俺と誠治の分合わせても銀貨2枚とちょっと……そして夕飯の買い出しで3人分買ったら銀貨1枚と銅貨が9枚残った。
俺は急いで通貨の勉強をする必要がある事を察した。
その日の飯は悠里に作ってもらった。俺は料理なんてやったこと無いしな。
そして、悠里は料理が得意だ。何度も俺は手料理をご馳走になっている。
今日は野菜炒めとパンという訳のわからんメニューだったが、かなり美味かった。