霧島研究所
半年以上経ってしまいました…
お久しぶりです。
日曜日になった。霧島優希さんと霧島研究所で会う日だ。
どこの研究所でもそうだが、研究所内部をそこの研究者、それも主任とともに見学出来る機会なんてそう多くない。まして、あの霧島研究所を見せてもらえるなんてそうそうあるものではない。というか、聞いたことがない。俺は、出来るだけ長く居ようと、集合時間の10時より15分前に着くように行くことにした。
霧島研究所までは家から2時間と少し。いつもならまだ寝ている日曜日の朝8時、俺は電車の中で何を質問するかを考える。まぁ、研究所を見てから最終的には考えるのだが。
霧島研究所は横浜市にある。と言っても中華街がある場所とは全く違う。霧島研究所の最寄の駅を降りるとそこは普通の街だった。教えられた場所を目指して歩く。暫くして、それは見えてきた。街の中とは思えない程木々が生い茂っており、遠目にもすぐに分かる。
着いたはいいが、門が見当たらない。仕方なく門を探して周りを歩く。暫く歩くとようやく門が見えてきた。今が10月で良かった。夏なら汗だくになっているところだ。
時計を見ると時間は9時55分。門を探して歩いてるうちに結構時間がたってしまった。
門は閉まっていた。俺が門の前に立つと中から黒髪が腰まで伸びた美少女が出て来た。歳は俺と同じくらいだろうか。
「どちら様ですか?」
「涼宮和樹と申します。霧島優希様はいらっしゃいますか?」
俺の言葉を聞いた瞬間、少女の顔が明るくなった。とは言っても今までも暗かった訳ではないが。
「涼宮様ですか⁉︎私が霧島です!霧島優希です!今日はあえて光栄です!」
そう言って、彼女は俺に中に入るよう促してきた。
「これは失礼しました。こちらこそ光栄です。」
「いえ、仕方ないですよ。顔出してないんですから。」
そうなのだ。
霧島優希は記者達の前に出るときは、いつも、大きな黒いコートを着て、顔はいつもフードで完全に隠しているのだ。そのため、情報が公開されている年齢以外、何も分からない。性別さえもだ。
「霧島優希、16歳です。科学者やってます。よろしくお願いします。」
「涼宮和樹、16歳です。学生やってます。よろしくお願いします。」
「あっ、ため口で良いですよ。貴方様に研究のきっかけと理論の基を頂かなければ、ノーベル賞など到底無理でしたから。私に敬意を払う必要なんでありませんよ。」
また、言ってる。俺は何もしてないのに。
「そんなことないですよ。日本を代表する科学者である霧島さんに一介の学生である私が敬意を払うのは当然です。霧島さんこそため口で良いですよ。」
「そんなことないですよ。でも、そこまで言うならこうしましょう。どちらもタメ口にしましょう!」
「えっ…」
そんな、いいこと思いついたみたいな顔されても…
「いいですよね!私のことは“優希”で良いですから。」
霧島さんはキラキラした目でそう言ってくる。ダメだ…拒否する理由が思いつかない。
「本当にいいんですか?」
「ぜひ!」
身分不相応な気しかしないけど、
「それではお言葉に甘えて。僕も“和樹”で良いよ。」
正直に言うと、凄く嬉しい。ただ、ノーベル賞受賞の決まっている人と、タメ口で話す権利が自分にあると思えないだけだ。それでも、
「和樹、研究所を案内するから着いて来て!」
優希が嬉しそうだから今はこれでいいのかもしれない。
優希に研究所を案内してもらい、優希の部屋にやって来た。
「それにしても、よくこんなに機材が揃ってるな。」
霧島研究所には最新の実験機器が揃っている。
「一応、国が作ってくれたからね。」
優希によると、優希のただならぬ才能を見越した国が優希のために作ってくれたのだとか。その代わり、高校卒業までにノーベル賞取れなかったら国の研究を死ぬまで手伝うことになっていたらしい。凄い話だ。でも、まぁ、優希はノーベル賞を取ったわけで……
「ってことは、今は完全に優希のものってこと?」
「そうらしい。」
それぐらい理解しとこうよ…
まぁ、そんなことはこの際どうでも良い。
「ところで、他の人達は?」
そう、この研究所の中で俺は優希以外の人を見ていないのだ。
「今日は休みにした。和樹と二人で話したかったから。と言っても、助手は二人しかいないんだけどね。」
そうだった。“話したい事がある”と言われてたんだった。
「話は変わるけど、話って何だったの?」
「あぁ、それね。実は…
和樹に今日から此処の研究所に来て貰いたいんだ。」
…聞き間違ったようだ。
「えっ?」
「だからっ、和樹に此処に来て一緒に研究して貰いたいんだ。」
どうやら、聞き間違いではないようだ。
「俺にはそんなこと出来ないよ。第一、俺は普通の高校生だぞ?」
「大丈夫。和樹なら出来る。今のところ、私と理論を語り合える人は和樹以外いないんだ。やってくれるよね?」
真剣な目をしている。本気だ。だったら、選択肢は一つしかなくない。
「俺なんかで良いなら、是非。精一杯頑張るよ。」
「有難う。和樹と一緒に研究出来るなんて嬉しいな。」
優希は凄く嬉しそうだ。
「それと、私と友達になってくれないかな?」
優希ははにかみながらそんな事を言ってきた。まぁ、タメ口で話している時点で友達の様な感じもするけど…
「俺なんかでいいなら喜んで。」
「やった!」
優希によると、頭が良過ぎて、友達が出来なかったのだとか。まぁ、頭が凄く良くて、おまけに容姿端麗、まさに才色兼備。そりゃ、近寄り難いわな。
「ということは、俺が初めての友達…?」
俺がそんな事を質問したら優希の表情に影が刺した。
「…そうだよ…」
今の間は何だったんだろう…