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1話 D6 奇跡の力を持った最後の一人

D6…スフィアというお人よしの何でも屋はその日も、通常営業をこなしていた。一人の魔術使と出会うまでは。メイカという少女と出会い、スフィアは犯罪者()である彼女と逃走劇に巻き込まれる…。

黒さドSダークをテーマに明るくシリアスに、大胆に。なんちゃって王位継承所有権を持っていたスフィアと、幼馴染の少女マティナ、スフィアを追いかけてきたモルネ、そしてこの話の主軸は彼らを裏切ったことがあるセインという癒しの力を持つ男の話です。

深々と茂った木々の間を縫って銀色の光を放つナイフが飛ぶ。袖口から取り出したいくつかのナイフは対象の獣に突き刺さると怯んだように鳴き声を上げた。その隙を逃さず、追撃の剣が切り裂く。

「――よし、これで最後!」

マフラーがふわりと揺らぎ、青年――スフィアさんは剣を二回ほど回して周囲を見渡してから剣を鞘に戻した。

軽く上がってしまった襟を直し、僕は一つ息を吐いた。

獣は唐突に襲ってくる。それは仕方がないことだとわかっているが、やはり肩に力が入るのは仕方がない。見れば、そう遠くないところでマティナさんやモルネさんも各々の武器を戻していた。

――王都に向かう道すがら、僕らは途中獣に襲われはぐれてしまったのだ。

気が付いた時には既に遅く、混戦中であったにしてもこれ以上離れないよう、僕らは固まって対峙したのだがなかなかやりづらい戦いだった。こう、背中を合わせて…と戦うような面々ではないような気がして。

幸い向かうべきは王都だとわかっている。王都は特徴的なシンボルというか、広々とした城門が見えるからそちらを目指せばいい。そこで何とか合流できるだろう。

こちらのジョーカー…切り札といってもいいかもしれない。その青年は生憎と向こうのグループに居るだろうし、向こうにはメイカさんも居る。天才的な魔術の才能を持つ少女の傍に居るのであれば身の安全は保障されていることだろう。

「セインサポートありがとな」

「え、…あ、はぁ」

サポート、というか。

スフィアさんに礼を言われ、すんなり受け入れれない自分がいる。

かつて僕は彼らを裏切ったことがあった。そんな僕を未だここに居させてくれるのはスフィアさんがいるからで、強いて言えばスフィアさんは僕の恩人のような人だ。今は彼に何らかの恩返しのようなことができればいいと思ってこうして着いてきているが。まさか、あの当時もスフィアさんが王位継承権利を持っているとは思いもしていなかったけれど。

…だから、その肩書もそろって、どうも近寄りがたい感じになってしまっているのは事実だ。

スフィアさんは特に気にしていないようだけれど、僕としては十分気にしてしまう。

「スフィア、セイン。急がないと日も暮れちゃうわ。」

マティナさんが彼方に見える城門を見上げて言った。それに頷くスフィアさん。

…王位継承権利を持っているとしても、彼は王になどならないと言う。確かに、彼の性格上ふらりふらりとしている方がよっぽど似合っている。何より、彼の話が事実だとすれば両親を奪われた国の王として立つなど、少なくとも僕からしてみればありえないことだ。

向かって歩き出した僕たちは獣道から外れた歩きにくい場所を踏みしめてしばし無言だった。

しかし、その沈黙は長くはなくマティナさんがモルネさんに話しかけはじめる。メイカさんを除いて、ほぼ初めての女性メンバーだからか…それともスフィアさんを慕っているからか…この二人、案外仲がよろしいようだった。

「…あの、スフィアさんって」

「ん?」

剣が収まった鞘を片手に危うげな道もすいすいと歩くスフィアさんに話しかけてみる。疑問があった。

「この…王位争いが落ち着いたら、どうされるんですか?」

ブーツが少々歩きづらさを濃くしている。一瞬ずるりと行きかけたが寸前で支えて気を引き締めた。

「マティナと、また…何でも屋戻りかなぁ…」

ぼやくようにスフィアさんが応える。

女性2人にはこの道は特に歩きづらいだろうと目を向けてみると、思っていた以上に歩けていて女性は強かだなぁなんて思った。

「セインは?」

「…僕は」

村の復興を。

そう続けようとして、口を紡ぐ。

目を背けていたことがある。村の復興を掲げていた僕だが、村が復興しても人がいない。

僕の一族――癒しの力を持つ、喜宇な一族は――滅んだ。

人が居ない村は、果たして復興を遂げたというのか?

仕方なしに、曖昧に微笑んでみせるとスフィアさんは察し良く分かったらしい。しばし考え込むように顎に手を当て、それからぽんと両手を打った。

「お前も来る?」

「……………、え」

一瞬、何を言われたか理解できずに呆けた声が出る。

スフィアさんはそんな僕の気も知らぬように笑うとつづけた。

「俺やマティナと一緒に、お前らの言うお節介活動しようぜってこと」

「ちょっと、あんたと一緒にしないでよね」

ちゃんとした仕事なんだけど、と後ろから尖った声が届く。マティナさんの言葉に苦笑いをしてスフィアさんはまた僕に向きなおった。

僕は――いたたまれず、目を背ける。

………僕は。

「げっ」

スフィアさんが唐突に足を止めて柄に手を添えた。僕も一瞬だけ遅れて辺りを見る。

――どこからか聞こえ、近づいてくる獣の唸り声。

「…ああもう」

めんどくさそうにマティナさんは結んだ長い髪を払い、その手にボムを抱える。モルネさんが身の丈ほどの長い杖を両手に詠唱の準備を始めた。

「…っスフィアさん、前から来るよ!」

「モルネとセインはサポートしてくれ!マティナ、近づきすぎんなよ!」

「ったく、何であんたが仕切ってんのよ」

モルネさんの言葉に続けたスフィアさんに、マティナさんはぎらりと瞳を光らせボムの“スイッチ”を入れる。

「―――“スイッチ”――ON!」

叫ばれた言葉と共に、火炎を纏ったボムが前方に飛び―――それが、戦闘開始の合図だった。


×


それから何回か獣と遭遇したが(獣道から外れているというのに、よほど飢えているようだ)何とかして撃退し、しばらく歩くと川に出た。

「川沿いに歩けば王都に着く。ようやくここまで来れたな…」

「何か教会に行くよりもこうして向かう方が遠いような気がするわ…」

スフィアさんとマティナさんが深々としたため息を零す。日暮れも近い、恐らくメイカさんたちの方もまだ王都に辿り着けていないだろうから今日はここで野宿か。

スフィアさんとマティナさんが簡易な食事を用意している間に、僕は木々の伐採に取り掛かる。火を掛けるには木々の力が必要だ。申し訳ないと思いつつも、手頃そうな木を持っているナイフの中でも固めのもので切り取る。

それに思っていた以上に集中していたか、後ろからの訪問に気が付かなかった。

「白髪のおにーさん」

ふわりと動いたポニーテール。にこりと笑ったまま、モルネさんは僕の横に腰を下ろす。伐採途中の手を止めて、僕は小首を傾げてみせた。

「どうしました?」

「ちょっとお聞きしたくて?」

長くなりそうかもしれない、と思って止めていた手を動かしだす。特に気にした様子もなく、モルネさんは質問を口にしてきた。

「白髪のおにーさんは、何がしたいのかなぁ、って?」

「…」

痛いところをついてきますねぇ。

小さく微笑むと彼女はくすりと笑い声を漏らした。

「私は、スフィアさんのためにここまで来ました。スフィアさんが私の命の恩人だったから。貴方の事、あんまり詳しくはないんですけど、何か私の障害になるとしたら…ううん、モルネ困っちゃうなぁ」

「そんな殺気でピリピリと、やめてくださいませんか?とっても目障りですし」

毒を毒で返す。僕の言葉に益々笑みを深めるモルネさんは、機嫌が良いようだ。

「安心してください、スフィアさん…達にはもう、迷惑をかけるつもりなんてかけらほどもありません。」

杞憂ですよ、と告げてやると、じぃっとモルネさんがこちらを見てきた。

…正直、彼女は苦手だ。

その瞳が、スフィアさんを慕うという一点にのみ澄んだ瞳が、苦手で。

「白髪のおにーさんのことは、なんとなく聞き及んでいます」

ぴたり、と手を止めた。

「だからこそ、解せないんだよね?あなたがどうして迷うのか」

「…何が言いたいのですか」

だから。

モルネさんは立ち上がって僕を見下ろす。ざぁざぁと流れる川の水音が嫌に耳についた。

「貴方の力は、何の為に振るうべきか、迷うことなど何もないのでは」

と、言っているの。


奇跡の力。

誰かを癒し、守るためのもの。

ずっと僕は、この力を誰かの為に使ったことなどなかった。自分に利益が出るように、それだけを考えて使ってきた。時にはこの力で懐に入り込み、情報を得たり、時にはわざと魔物の傷をいやして邪魔者を都合よく取り除いたり、そうして。


どうして、この力を使ってきたのか。

これから、どうやって向き合っていくか。


最後の一人として、何を貫いていくのか。


…それはきっと、答えなどでていた。

「モルネさんは、思っていた以上に大人な方なのですね」

「子供扱いしないでよ~!?モルネはね、恋する乙女なの!」

両手を広げてモルネさんは言う。

「恋する乙女は、強いんだから!」

「…恋、ですかぁ」

「…何ですぅ、そのバカにしたような言い方」

「いいぇ?」


…ばかみたいに、考えるのはやめにしよう。

この力も、どう使うかなんて自分次第。誰かに縛られた人生などではないのだから。


×


モルネさんの氷の魔術が一瞬にして大地を埋め尽くす。

――その隙間を狙って、獣が飛び出してきた。ナイフの距離ではない範囲中に入ったのをすぐさま確認するとブーツ先に仕込んだナイフを煌めかせた回し蹴りを叩きこむ。

ふぅ、と息を吐いて埃を払うと、獣は痛みに唸りながらも体を起こしてこちらに迫ってきた。

――鼻先で爆発する、ボム。

「…マティナさぁん、危なかったです…」

「何よ、助けてあげたじゃない」

髪の毛が数本チリチリになってそう、と焦げ臭い辺りの匂いに顔を顰める。そこで僕はマティナさんの手に傷を見つけると、彼女の手を恭しく取った。眉を寄せたマティナさんだったが抵抗せず、その間に小さく集中して息を吐く。

光の粒子が零れ出て僕の手から彼女の傷口を包み、痕も残さず癒えていく。

「はい、どうぞ」

「…どうも」

いいえ、と僕は微笑む。

肩に剣を背負ったスフィアさんと、その腰に抱き付くモルネさん「助けてくださってありがとうございます~~」なんて語尾にハートマークがつきそうな声を出しているがスフィアさんは知らんぷりを決め込んでいるらしく、ただため息を一つ零していた。

「あれ、メイカたちじゃない?」

そんな様子を呆れがちに見ていたマティナさんだったが、丁度視線の先、見慣れた顔を見つける。向こうではやはり美青年がこちらを見つけていた。

「あ、そうだスフィアさん」

「何だ?」

スフィアさんに、これだけは先に言っておこうと口を開く。

「僕に人助けを薦めようとする変人なんて、スフィアさんぐらいですよ」

「…それって、褒め言葉か?貶してる?」

「ふふふ、どっちもです」


これからのことは、自分で決める。自分で決められる。

故郷を復興させるか、それからどうするのかだって、自分が決めていく。

この命をどう使うか――自分で、決めるのだ。


(…それは多分、難しいことで)

ちょっとぐらい、寄り道をしたっていいでしょう。

跳ねた白髪に指を入れて軽くいじりながら、僕は合流するべく不安定な足場を歩き出した。



















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