あとすこし
ああ、しまった。
おれは暗闇でため息をついた。
むしょうに美味しい林檎が食べたくなって、遠出をしたのがいけなかった。
しあわせな気分で果肉を頬張ったのもつかの間、おれを激しい雨が襲ったのだ。
がっかりした気分で食事を中断し、おれは近くにあった穴に避難した。
しほうに風は吹き荒れ、あっという間に地面に小川が出来ていた。
ぬれた身体が気持ち悪く、おれは何度も身震いをした。
まだかまだかと待ち続けたが、雨は一向にやむ気配がない。
できることなら明るいうちに帰りたかったが、それは到底無理そうで、
あくまの悪戯をおれは呪った。
と、その時だ。突然の衝撃がおれを襲った。
すこしなんてもんじゃない。まるで天地がひっくり返るような振動と浮遊感。
これはただごとではないと穴を這い出て、おれは全てを悟った。
しくじったと後悔してももう遅い。おれの居る果実は二度と樹に戻らない。




