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終焉での世界の始まり06

午前中の授業が終わり、拓哉は昼食を屋上でとろうと片手にビニール袋を下げながら階段を上っていた。

アリスと登校していたのを庵と同じく他の生徒達に目撃され、あろうことかクラスの面々から「付き合っているのか!?」「知り合いなら紹介しろ!?」と休み時間の度に言い寄って来た。

どれだけ神宮時アリスと言う人間が人気かと言う事を思い知らされ、同時に言い寄って来る生徒達に鬱陶しさを感じた。

拓哉は屋上に辿り着くとドアノブに手を掛け、開く。

屋上に足を踏み入たと同時に、春の爽やかな風が吹き抜けた。周囲には人の気配は感じなく、拓哉は屋上の隅にあるベンチへと足を向けた。

そこには一人の少女……神宮時アリスが腰を掛け、一人でサンドイッチを食べていた。

「一人で食べているのか?」

気づいたら彼は彼女にそう声を掛けていた。

彼女は顔を上げ、彼の存在に気づき、食べながら小さくコクリと頷いた。

そして無言で彼に隣に座るように目で訴える。拓哉はそれに従って彼女の隣に腰を下ろした。

「そう言う…あなたはどうしてこんな所にいるの…?」

「まぁ……その色々あってな……」

そう言いながら彼は白いビニール袋から、コロッケパンを取りだし、袋を開けて、それに一口かぶりついた。

そして自分が疑問に思っている事を口にした。

「お前は友達とかと食わないのか?」

その言葉にアリスは無表情で隣にいる拓哉を見ながら、まるで何事も無いかのように平然と答えた。

「私、友達はいないの……」

「そもそも……いなくても困った事なんってないし…」

「あー…そうなんだな……」

拓哉は彼女の言葉に気まずく内心…しまった…余計な事を言ってしまった…と感じた。

だが彼女は気を悪くした訳でもなく、そのまま言葉を続けた。

「それに、この学校には必要だから通っているの。私は別に学歴とかはどうでも良かったんだけど……智也が学歴は絶対に必要だからって言うから……」

今の現代の魔術師は一般の学歴を必要とする。それはこの世の中を生きていく為には必要不可欠な事だ。いくら魔力が強くっても、魔術が他人より優れていても、学歴、一般常識がなかったらそれは意味がない。

6つの世界が別れている中、魔術師と言う存在は認められてはいるが、中には力の力量がそこまでない者だって存在する。

その場合、魔術師を傍らに普通に職に就く者だって少なからず存在する。

自分の手の内……選択肢の範囲は広い事に越したことはない。

そんな理由で現代の若い魔術師達は学歴を手に入れる為に学校へと通っているのが大半だった。

「確かに兄貴らしいな……」

拓哉はふっと軽く笑いながら答えた。

同時に智也なら、そう彼女に言うのだろうとさえ思えた。

普通ならばいくらパートナーを組んでいたとしてもそれは相手の事情にしか過ぎない事だ。

自分には関係がない。

だが相手の事がほっておけない性格の彼ならば彼女の事を想いながら強く学校に通う事を勧めたのだろう。

実に兄らしいと拓哉はそう感じた。

「そう言えば、何でお前は…アリスは兄貴と《契約》をしたんだ?」

何気無く言う拓也にアリスはポツリと言葉を漏らした。

「私は……彼に拾われたの……」

そして彼女は、ゆっくり上を見上げた。そこには雲一つない青空が広がっていた。

「あの時……何もなかった私に彼は手を差し伸べてくれた。こんな私を彼は自分の利益とか、そんなの考えずに私を選んでくれた」

彼女はまるで思い出すかのように、そっと瞳を瞑り、開く。そして言葉を続けた。

「だから……私は彼と《契約》をしたの。お人好しで、優しい彼が目指していた世界を見て見たい。そう思ったから」

その想いは自分がかつて智也へと感じた想いと一緒だった。

こんな腐った世界を兄は変えたいと言った。

優しく、お人好しで、でも強い、そんな兄だからこそ拓哉はそれが出来るのだと心の何処かで信じていた。

そしてまた、彼女も信じていたのだ兄を…智也を。

それが分かった。いや、分かってしまったのだ……。

自分の想いと彼女の想いは酷く似ていた。

「でも智也は……私の為に……」

そうかき消えそうな声で彼女は呟きながら、次第に悲しげに瞳を伏せた。

そんな彼女の様子に拓哉は前を見ながら言葉を被せた。

「お前の為じゃぁねぇよ。少なくとも兄貴はそう思ってない」

その言葉にアリスは顔を上げ、碧瞳を拓也へと向けた。

「それに兄貴は敵の《代表候補者》に殺されたんだろう。しかもそいつは今俺を狙っている……。」

「だったら、そいつを倒せばすむだけの話だ何も問題なんかねぇよ。そうだろ?」

彼はそう言いながら彼女の顔を見た。

「ええ……そうだけど……。」

彼の思いがけない言葉……台詞にアリスは内心驚きを隠せずにいた。

どうしてそんなに簡単に彼は言えるのだろうか………。

普通家族が……大切な人が殺されたらそんなに簡単な言葉は言えるはずがない。

ましては《代表候補者》を護る上核魔術師が《代表候補者》を護りきれなかったのだ。

《代表候補者》と契約をした魔術師は自分の命と引き替えにしてでも《代表候補者》を護り抜かねばならない……。

それはこの6つに別れた世界で、のちに《代表者》となる重要な人物に、なると同時に日本全ての6つ国一つに纏め上げ、それを治める事となる、さらなる重要な人物になる可能性がある人間なのだ。

契約を交わした魔術師は《代表候補者》を護る為の都合の良い駒にしかすぎない。

例え互いの理解、利益が一致しても………。

だから感謝はされど罵倒されると思っていた。

だけど、彼は…彩和月拓哉は違っていた。

罵倒されるどころか敵の魔術師を倒せばすむだろうと……ただそれだけだろうと言う。

それが、どれだけ大変な事なのか彼も理解している筈だ。

だけど、その言葉を彼は簡単に口にする。

それも智也(彼)と同じように――――。

アリスは拓也から顔をフイッと背け、そしてポツリと呟いた。

「あなた………変わっているわ……」

その言葉に拓哉は彼女の言っている意味が全く分からず、「そうか?」と不思議そうに返す。

「そうよ……変わっている…」

再びそう言いながら彼女は拓也に向けて微かに、そして柔らかく微笑んだ。

その笑顔があまりにも可愛らしく、綺麗だと彼は思わず感じてしまった……―――。



放課後アリスは誰も居ない廊下を一人で歩いていた。

時刻は17時。

もう学校には殆んどの生徒は残っておらず、いたとしても部活をしている生徒のみだ。

暫く歩いたのち、彼女は足を止め、そして周囲に誰もいない事を確認をすると首に掛けているネックレスタイプの金色の懐中時計を手に取る。

そして瞳を瞑り、それを強く握りながら、力を込める。すると彼女の足元に淡く赤い光と共に魔方陣が浮かび上がり、その光は一瞬で周囲……全てを包み込み、時を止めた。

彼女は瞳をゆっくりと開き、そして駆け出す。二メートル先にある教室……資料室の前で足を止め、勢い良く教室のドアを開き、室内に足を踏み入れた。

狭い室内には棚、テーブルの上に幾つもの資料が山積みで置いてあり、その中に一つだけ異なったもの……一羽の黒いアゲハ蝶がヒラヒラと舞っていた。

アゲハ蝶は天井に高く舞い上がると黒い光を強く放ち、同時にふっとかき消えた。

「やっぱり……」

アリスは一人確信するかのように言った。

拓也と昼休みを過ごした後、自分の教室に向かう途中、彼女はふっと一瞬違和感を覚えた。それは魔導師だったら誰でも感じる相手の魔力の気配。

だが、この学校には彼女の他に何人かの魔導師が通っている。

生徒として通っている魔術師達は極端に学歴が必要な者のみだ。彼女のように《代表候補者》付きの魔導師は一人も存在しない。

それに昨日夕方襲ってきた魔術師はこの中にいる魔術師達より魔力の気配、力が桁違いに違う。

だけど昼休みに感じた気配は違っていた。上核魔術師の気配そのものだった。

だから彼女は人気が少なくなる、この時間帯を狙い、結界を張り、敢えて相手の魔力を探り出した。

結果はビンゴ……当たりだった。

彼女は体の力を抜き、結界を解いた。周囲の赤い光……空間は一瞬で消え、いつもと変わらない放課後の風景へと戻った。

そんな中彼女は思考を巡らせながら人知れず、それでいて小さく呟く。


「この中に…敵がいる……」





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