終焉での世界の始まり05
ピッピピピと部屋に電子音の目覚まし時計が鳴り響く。
その音で拓哉は目を覚まし、身を起こした。
昨日の自分の身に起きた出来事が夢でなかった事を、改めて再確認してしまう。
夢だったらどんなに良かった事だろうか……
…。そう思ってしまう。
拓哉は、軽く溜め息をついてから、シャワーを浴びようとベッドから降り、部屋を出て浴室へと向かった。
浴室の前にたどり着きドアノブに手を掛けドアを開いた。
瞬間――――――。
思わず彼は固まってしまった。
脱衣場に一人の少女がいた。
背まで届く金髪のゆるふわウェーブの髪に、雪のように白い肌、まるで人形のような愛らしい顔立ちの少女……神宮時アリスがいた。
まだそれだけならば良い。
たが現在今の彼女の格好は肌を露出した格好………
白いレースが所々施されているショーツに、ブラ…つまり下着姿になっており手には制服のカッターシャツを持っていた。
心なしか髪も少しばかり湿っており、頬も多少赤くなっている。
「あっ……」
「…………」
思わず声が漏れ、無表情な彼女の碧瞳と自分の瞳が重なり合ってしまう。
男の本能的に彼女の姿につい視線を向けてしまい胸の鼓動が速まる。
一瞬の沈黙。やがて彼女は怒っている訳でもなく、恥ずかしそうにしている訳でもなく、一切表情を変えずに拓哉へと冷静な声で言った。
「あの……あなた、いつまで見ている気なのかしら?」
「わっ…悪いッ!!」
そう言いながらアリスの言葉に拓哉は慌ててドアを乱暴にバタンと閉めた。
拓哉は思わず、その場に突っ立ってしまう。脳内には先程のアリスの下着姿が、まだ頭から離れず記憶に焼き付いてしまっており、それを振り切るかのように拓哉は深い溜め息をつきながら、「そうだった……。忘れていた、昨日からアイツここに住んでいるんだった」
そう短く呟く。
昨日魔術師に襲われている所を元《代表候補者》付きの上核魔術師の彼女から助けてもらった。
敵の魔術師の狙いは、《代表候補者》になる可能性がある人間……彩和月拓哉の命、もしくは彼が持つ力《生命の源》(ファージア)を手に入れる事。
それを阻止し、彼を護る為に彼女はここに住むと宣言したのだ。
結果その後、部屋は拓哉の兄の智也が使っていた部屋が宛がわれ、生活に必要な物の買い出し(大量の)に付き合わされた。
敵の魔術師を倒す為とは言え、まさか学園のアイドル的な存在の彼女と一緒に住むとは予想もしなかった事だった。
拓哉は頭をポリポリと掻きながらシャワーは諦め、取り合えず制服に着替えて朝食をとろうと再び自分の部屋へと戻った。
「神宮時さん……一体これは何なんですかね……?」
拓哉はリビングのテーブルの上に並んでいた朝食を指を指しながらアリスへと尋ねる。
それに対してアリスは平然と答えながら、
「見てわからない?朝食だけど。それに私の事は……アリスって呼んでって言ったよね」
コーヒーが入った二つのマグカップをコトッと静かに音を立てながら拓哉と自分の前に置き、彼の向かい側の席へと座った。
そんなアリスに拓哉は激しく突っ込む。
「確かに立派な朝食ですよ。見て分かりますよ!だけど、俺が言いたいのはそんな事じゃぁなくってだな、何で全てにおいて朝食が黒コゲなんだ!!」
拓哉の言うとおり、目の前に並べられた朝食はベーコンエッグ、ソーセージ、サラダ、トーストと至って普通の朝食だった。
だが普通の朝食とは異なり、ベーコンエッグ、ソーセージ、トーストは焼け過ぎたレベルを通り越して原型を留めてはいるが、黒く焦げ過ぎており、唯一のサラダに関しては何故だか大量のブラックペッパーが降り掛かっていた。
まるで食べ物に対する冒涜かのように……
あの後、拓哉が制服に着替えてからリビングに来た時にはアリスが一足先に来ており、あらかじめ作って置いたであろう朝食をテーブルの上に並べていた。
まさか女の子の手作りの朝食を食べれるとは夢にも思わず、内心ラッキーと思った矢先、結果はコレだった。
ガッカリするなと言う方が可笑しい……。
「だって……良く焼けていた方が良いでしょう?」
可愛く小首を斜めに傾げながら、まるで当たり前のように彼女は言う。
「…………焼きすぎですよ…アリスさん…」
拓哉はそう言いながら無言で目の前に置かれた朝食を見、そしてアリスへとチラッと視線を向ける。
彼女の瞳は何処か自信に満ちた色をしていた
。そう……それは味には自信があると言いたげな顔をしている。
拓哉はそれを未だにまだ信じられず、微妙に青い顔をしながら、また再び視線を朝食へと移す。
(これを……食べなきゃならんのか…食べないと駄目だよな?…コレ……)
今まさに究極の選択とも言える事を迫られているであろう中、唐突にアリスは彼へ告げた。
「でも…あなたのお兄さんには好評だったわよ」
「えっ!!兄貴食ったのか!?」
拓哉の言葉にアリスはコクリと静かに頷きながら、
「美味しいって凄く喜んでいたわ。泣きながら」
一言言った。
(兄貴………)
拓哉はそれを聞いて、手で顔を覆いながら、思わずクッ……と悔しそうにアリスから顔を背ける。
拓哉の兄、智也は人が良く基本的に優しかった。それも女性に対しては。
だからなのだろう……。
きっと彼は彼女の手料理を拒否すると言う選択枝を選ばなく、敢えて食べると言う選択を取った。
それも彼女が傷つかないように……。
だが、そんなものは優しさではない。相手の事を思うのであれば、きっぱりと相手へと伝える事も大切だ。
人は失敗を得て、それを繰り返しながら成長していく生き物だ。
それに…………。
(俺は兄貴とは違う!優しい奴なんかじゃぁない!それに優しいだけではコイツの為には
ならないッ!!)
一口食べて不味かったら彼女の為にも、ハッキリと言おう。そう心に決め、近くに置かれていたフォークとサラダを手に取る。
「誉めてもらえた…だから作ったの。敵を倒す為とは言え、この部屋に居候させてもらう事になってしまった……私に魔術以外で出来る事はこのくらいしかないの。だから感謝の意味を込めて作ったの……」
唐突な言葉と共に、アリスはほんの少しだけ口許を緩ませながら柔らかく微笑んだ。
その顔を見た瞬間、拓哉は先程の考えなどは頭から一瞬にして吹き飛び、また同時に彼女の素直な行為が嬉しくも感じた。
「そんなの気にするなよ。俺がお前に護ってもらう立場なんだし、そもそも敵の魔術師を倒すために協力してもらっているんだしさ、じゃぁ、有り難く頂くな」
……見た目だけで判断するのは止めるか。せっかくアリスが作ってくれたんだしな……。
食べたら案外イケるかもしれないし…そう思いながら、彼はフォークでサラダを一口食べた。
食べた瞬間、口の中にはレタスと角切りにしたトマト、大量のブラックペッパーが混ざり合い、またそれに加えて手作りのドレッシングが独特なアクセントを醸し出している。
ハッキリと言って不味い。それも物凄く。
「どう…?美味しい…?」
心配そうに彼女は尋ねる。
最初、不味かったらハッキリと言おうと考えていた拓哉だが、彼女の行為を無下には出来ず結果何も言えないまま、
「………美味しいです……」
と不味さに必死に耐えて、答える他なかった。
男にはやらなければならない時が少なからず存在する。
そう、それは彼女の……もとい女の子が自分の為に作ってくれた料理をどんなに不味くても無理矢理平らげなければならないと言う試練にも満ちた事を……。
「そう…それなら良かった。なら私の分のコレもあげる……」
そう言いながらアリスは自分の分のソーセージをフォークで刺し、拓哉の口許へと近づけ「はい、あーん」とする。
普通ならば、どんなに願っても叶えられない光景だ。
だが……何でだろうか。とてつもなく、不幸だと感じるのは……。
拓哉は差し出されたソーセージを無理矢理口の中に詰め込み、急いで麦茶で流し込んだ。
サラダと黒コゲのソーセージのおかげで口の中が最悪だ。
そんな彼の心境など知る由もない彼女は平然とした様子で言う。
「今日の夜ご飯も作ってあげる……何が食べたい…?」
「いや、そんな気持ちだけで結構です!!夜は代わりに俺が作ります!作らせて下さい、お願いします!!」
彼女の台詞に拓哉は必死で、早口で捲し立てながら、懇願するかのように言った。
この部屋に彼女がいる間は絶対に彼女に台所を開け渡してはならない。そう心に固く彼は誓った―――。
「おい拓哉、どう言う事だよ!あの神宮時アリスと一緒に登校するなんって!」
学校に登校して自分の席に着くや否や、前の席に座っている庵が体ごと拓哉の方へと向けながら、興奮した状態で訪ねてきた。
庵の台詞に内心、下らないと多少呆れながらも彼は素っ気なく答えた。
「別に。たまたま一緒になっただけだよ」
拓哉のその言葉に対して庵は拳をぶるぶると震わせながら。
「クソッ!!何と羨ましすぎる!たまたまでも良い!俺もあの神宮時アリスと一緒に登校したいッ!そして友達関係から良い感じにな
って願わくば恋人関係になりたいッ」
拓哉は力説する友人を横目で見ながら、
「お前アイツとは友達でも何でもないだろう」
などと突っ込む。
「そう言えば、神宮時って何でそんなに人気があるんだ?確かに可愛いけど……」
何気なく言う拓哉の言葉に庵は瞳をくわっと見開き、拓哉をまるで信じられない物を見るような目つきで見る。
「えっ……お前あの可愛さが分からないのか……?あの清楚で、可憐で、無口で、人形のように愛らしい。それがゆえにこの学園のアイドルと呼ばれている意味が本当に分からないのかッッ!!」
そう言いながら、今にも詰め寄りそうな勢いで言う庵に拓哉は慌てて答える。
「分かった!分かった!だから顔を近づけるな!気持ち悪い!!」
拓哉の台詞に庵は顔を引っ込めながら、溜め息混じりで、まるで心外だとばかりに言う。
「気持ち悪いとか言うな!安心しろ。俺はお前なんか興味がない」
「好きなのは女子だけだ!!」
「ああ……。物凄い安心したよ。平常運転で……」
親指を立てながらドヤ顔をする庵に半ば呆れながら答える拓哉。
「あーあー、それにしても神宮時アリスと、もし付き合えたらデートもだけど手料理とか食ってみたいな~」
「て……手料理……」
腕を組みながら言う庵に拓哉は思わず顔を引きつらせながら、小さく呟く。
「おう。一部のファンの間では少しばかり有名な話なんだぜ。かなり上手すぎるって。それも気絶する程に」
(それ、絶対に違う!!間違った認識だ!妄想が美化されまくっているッッ)
庵の台詞に、そう内心突っ込みを入れずにはいられない。現にアリスの作った朝食を食べて、あまりの不味さに朝から気絶しかけた。
だがアリスの手前残すわけにも行かず、全て平らげたのだ。
あの料理は本気でヤバイ………。
敵の魔術師を倒す前にあの料理で命を落としかねない……わりとマジで……。
内心そう痛感してしまう。
「そう……なのか……」
彼女の料理を一足先に味わい、真実を知ってしまっている拓哉にはそう答えるのが精一杯だった。