様々な金策
宜しくお願いします。
うーん、交渉で値引きすることもできたけど、元が高すぎるよなぁ。しかも競合相手もいたってのは誤算だった。
奴隷商のケピンが掲示したシャナの価格は金貨10枚。1000万円にも昇った。人の命としてなら安いんだろうけども、俺の所持金からしたら現状では手が出ない。あと4日ほど待ってもらえれば用意できるんだが…………。
最初は強気に出ていたケピンだったが、シャナから聞いた裏情報をさも私は情報通で隠し事は無駄ですよぉって感じでゆすって・・・いや説得してみたんですよ。
最初のうちは素直に値引いてくれていったんだけどなぁ。どう説得してみても500万円よりまけてくれなかったんだよなぁ。どうやらどっかの貴族もシャナに目を付けているらしく460万円で落札の予約をしているらしい。しかも即金ではなく分割払いだとのことだ。貴族の権力でごり押しされてしまったらしく、即金でより高く買ってくれる相手を探していたところ俺を発見したということらしい。
今日の真夜中に貴族との引き渡しの約束がある為、俺に残された時間はあと数時間しかなかった。夜に1枚金貨を生み出してもまだ170万円程足らない。くそ、風薙ぎの剣なんて衝動買いしなければよかった。
え?風薙ぎの剣を武器屋に売ればいいだろうって?それはもう試しているんだよ。しかも買い取りは不可なんだってさ。
奴隷商の話しの時も出て来たけど、この世界の商人は基本売る事専門なんだ。冒険者なんかから売られる物は、まずその商品を扱っている元締めに買われて各商人にセリをさせて売られる事になる。各商人が自由に買い取りをしてしまうとシステムが回らなくなってしまうので禁止されているんだとさ。
だから、俺が風薙ぎの剣を売るには、まず元締めに売らなきゃいけないんだけどここで安く買いたたかれるらしい。平均的に店で売る値段の10分の1くらいになるんだとさ。180万した剣も18万にしかならないなら売るだけ損ってもんだ。
八方手を塞がったユキナリは失意の顔で道を歩いていた。自身でもどうしてシャナにここまでこだわるのかわかっていないが、シャナの本当の笑顔を見たいという気持ちだけで行動していたのだが、今まで自分が生きる事しかしてこなかったユキナリが初めて他人を助けようとしている為、理解できていなかった。
そんなユキナリに声をかけてきたイケメンが1人いた。聖銀の鎧を着、堂々たる体格の白馬に乗った騎士。後ろには同じような鎧を着た騎士が2人馬に乗っている。まるで絵本の中から出て来た王子さまのようなイケメンの登場に驚いたのはユキナリ1人だけだった。
「カペーロ子爵様だ!」
「きゃー!かっこいい!」
どうやらイケメンは有名人らしく街の住人は黄色い声援をあげている。
「そこな庶民、そなたの差している剣は我が狙っていた物でな、譲ってはくれまいか?」
カペーロ子爵と呼ばれたイケメンは、俺の腰にある風薙ぎの剣を指差してそう言った。イケメンは王都からの命によりこの街の近辺の魔物討伐の任に行くらしい。数日待街に滞在していたイケメンは武器屋に高々と飾ってあった魔剣に一目ぼれし、狙っていたらしい。しかし昨日俺に買われてしまった為に直接交渉に来たということみたいだ。
イケメンの偉そうな態度は気に入らないけども、これは金を稼ぐチャンスかもしれない。直接売買するのは商人組合からしたら面白くないが、全てを取り締まるのは不可能だろうし、ここで高く売れればシャナの購入に一気に近づく。
ここは選択肢をミスれないぞ。なんとか交渉して170万以上で買って貰わなければ。幸い一度も使っていないし新品みたいなものだろうしな。
分かりました。それでは1金貨と75銀貨でどうですか?と聞いた瞬間、周りがいっせいに黙ってしまった。はて、なんか変な事言ったか?
「ぶ、無礼者!子爵様はその剣を献上しろと申して居るのだ!対価を要求するとは何事か!?」
はぁ!?献上しろだ?タダで180万した剣を渡せってのかよ。なに、あんたら山賊?カツアゲとか騎士がする事じゃねぇだろうが。取りあえず大マケにマケて170万なら売ってやるから、買う気があるなら風の駱駝亭って宿にいるから来なよ。今日の夜までなら販売してあげるからさ。
そうイケメンと護衛の騎士に吐き捨てたユキナリは大股に路地へと入っていった。その場には固まったイケメンと市民が残っていた。
ユキナリは怒っていた。悲惨な人生を歩んできたユキナリにとって、自分の物を強奪されることは最上級の悪になる。対価を払うなら交渉だが、無償を要求されるのは悪だ。イケメン達の発言はこの世界では当たり前のことかもしれないが、相手が悪かったことは否めない。現地人ならすぐに渡しただろう。
ユキナリは怒りながらもシャナの購入資金をどうするかに頭を痛めていた。あのバカイケメンは金持っては来ないだろうし期待しないほうがいい。いきなり寄こせとかいう奴はどこのジャイアニズム持ちだよ。まったくとプンプンであった。
そんなユキナリに再度声をかける人物がいた。草原で世話になったミノタウロスの商人ポピドンであった。牛車に乗って今にも出立しそうな恰好である。
どうしたのかと聞かれた俺は、正直に今の状況を説明した。まぁ、女を買うために金策に走り回っているとか外聞が悪いんだが、もう他に頼れそうな人がいなかったのだ。
俺の話しを聞いたポピドン、いやポピドンさんは気前よく俺があげた金貨を返してくれて、しかも自分も1枚しか持っていなかった金貨を貸してくれるというのだ。なんて良い人なんだろうか。担保として銀のナイフを預ける形になったけども到底金貨に並ぶ価値があるわけじゃないのにこれでいいと言う。
理由を尋ねたら、あなたの生き方が気に入ったからですよと謎のメッセージを残された。ポピドンさんは大きく手を振るとホナップ草原のある東門のほうに進んで行ってしまった。
彼の別れ際の言葉はよく分からないけど、とにかくこれで資金の目途がついた。シャナに会いに行かなくては。
さっきまでの憂鬱な足運びとは逆の、軽快なステップで奴隷商の店まで走るユキナリであった。
ご覧いただきまして有難うございます。