シャナ
宜しくお願いします。
翌日、2枚の金貨と32枚の銀貨を持った俺は再び商業エリアへと足を運んでいた。昨日買った風薙ぎの剣と闇掛けのスパイクは勿論装備している。
武器屋があることからも分かるように、この世界では銃刀法なんかの法律は無いようで、戦士や冒険者といった風貌の人達は街中でも武器を持っている。流石に抜き身ではないけどもこれが普通の世界なんだろう。
勿論、俺だってせっかく大金出して買ったんだから持ち歩きたい。別に見せびらかしたいわけじゃないんだからね!
俺の今日の目的は防具屋だ。昨日は日用品が重くってこっちまで来れなかったけどもやっぱりいつまでも布の服じゃあダメだろう。武器に釣り合うだけの高性能な防具が欲しい。聖銀の鎧とか恰好良くないか?聖騎士とか憧れる。いつまでも職業無職のままじゃいけないしな。よし、まずは騎士を目指そうか。まずは形からってことで防具屋にレッツゴー!
はて?なんで俺はここにいるのかな?
薄暗い室内にはカビのような獣のような匂いが充満している。さほど広くない中には、大小様々な檻が置かれている。入口から一番近い檻には、子供のような身長に赤い肌を持ったいわゆる【ゴブリン】と言われる魔物が狭い檻内に十数匹入れられていた。その向かいには【コボルト】だったかな?ブルドックのような頭を持った二足歩行の魔物がゴブリンと同じように詰め込まれていた。
そう、ここは魔物専門の奴隷商の店だ。商業エリアの端のほうにポツンと建てられたテントの中にあったんだけど、最初は気づかなかったんだ。
商業エリアで防具屋を探していたら、奴隷商だと名乗ってきた小さな男が話しかけて来てさ、どうやら昨日大金を使った俺を金持ちだと思って近づいてきたらしい。ピンからキリまであるんだろうけど、命を売買する奴隷は基本的に高い。ゴブリンなんかだったら銀貨1枚からでも買えるようだけど、愛玩奴隷や性奴隷、戦闘奴隷なんかだとそれなりの質を求められるから値段も跳ね上がるらしい。
俺の前を歩く小さな男、【ケピン】と名乗っていたそいつは、店の一番奥に案内しているようだ。
俺がここにいる理由は、なにもエロイ事が目的の訳ではない。ないったらない。魔物の中でも人間に近い姿の魔物は愛玩目的や性処理目的に買われる事が多いらしいが関係ないからな。ケピンの誘い文句が美しい魔物はご入り用ですかとか言って近づいてきたのが理由でもなんだからね!……だって男の子だもん。
そんなこんなの言い訳を心の中で発しているユキナリは、ケピンに連れられてテントの最奥へとやってきた。奥に行くほど高級品なのか、檻の数が少なくなっていって最奥には檻もなかった。
俺は、言葉を失った。
部屋に居たのは、茶色く長い髪を後頭部で縛ったポニーテールに意志の強そうな切れ長の瞳。粗末な布を着せられて隠れてはいるが引き締まった身体と小ぶりながらちゃんと主張されている胸から女性だと分かる。下半身は包む美しい黒い毛に覆われており、力強い四肢からは戦士のようなパワーを感じる。さらに指通しの良さそうな尻尾がお尻の上でフリフリしているのが愛らしい。
目の前にいたのは、人間の上半身と馬の下半身を持つ【ケンタウロス】の美少女だった。
俺はとぼとぼと夕焼けに染まる街を宿に向けて歩いていた。隣にはポニーテールをフリフリと揺らしたケンタウロスの美少女が・・・・いない。
いない理由。単にお金が足らなかったんだ。
現在の俺の所持金は約232万円だ。(分かりやすいように日本円でいくぜ。)
普通だったら生活していくにも充分な金額だ。日本での俺だったら数年生きていけるだけの金が手元にあるというのに、美しい彼女を助け出せなかった。
ケンタウロスの美少女。彼女は【シャナ】という名前だった。ケピンが気を利かせてくれたのか、部屋に二人っきりにしてくれたので話しを聞く事ができた。
シャナはホナップ草原からさらに東に行った所にある集落に住んでいたケンタウロス部族の出身なんだって。ケンタウロスは狩猟民族で女子供関係なく狩りを行う。シャナも一族の戦士として若い戦士達と連れ立って森に狩りに向かっていた時に冒険者に見つかってしまった。若い戦士達を逃がすために囮になったシャナは必至の抵抗むなしく捕縛されてしまったんだと。
捕縛されたシャナは、奴隷商の元締めに引き取られた後、各都市の奴隷商にセリにかけられた。下半身が馬の為万人受けするわけじゃないが上半身が美少女の為性奴隷としても需要があり、狩猟種族として高い戦闘力を持つので戦闘奴隷としても優秀な為、人気商品だった。高級奴隷を専門に扱うような大手の奴隷商は互いに牽制をしあっておりどれだけの高値がつくのかと関係者の中では注目だったらしい。
そんな中、地方都市の弱小奴隷商でしかないケピンが競り落とせたのは、大御所が牽制しすぎたせいで驚くほど安値で落とせたということで運が良かったらしい。
「ケピンは私を競り落とす事は出来たようですが、明確な販売ルートを持たない彼は高値で私を売ることが中々できずに焦っているようです。」
可愛いだけじゃなく声も凛としていて美しい。その全てを諦めていますという表情がなければ最高なんだけどな。じゃなくて、弱小奴隷商でしかないケピンが大手奴隷商の面目を潰してしまった為に早々に売らないと目を着けられてしまうから焦っているらしい。これは大幅な値引き交渉ができるかもしれない。
「あなたは、私を買ったら何をさせるつもりなんでしょうか?」
どうやって値引き交渉に持ち込もうかと思案していた所、余程悪い顔になっていたのだろうか少し不安な顔をしたシャナが聴いてきた。絶望に沈んだ顔に不安の色を加えると少しマシになったような顔になった。この娘笑ったらどれだけ可愛いんだろうか?
うーん、彼女に何をさせるか?かぁ。彼女は奴隷として売り出されているわけだから、俺が彼女を買うとしたら、なにか目的があるはずだ。彼女はそれが不安なんだろう。草原で殺されていた猫の女の子を見るに、魔物奴隷の命はこの世界ではとても軽いのだろう。変な相手に買われたら人生終了のお知らせなわけだ。彼女に拒否権は存在しないのだろうが気になってしまうのだろう。
そうだなぁ。俺がシャナに求めるとしたら、友達になってくれる事かな。
青臭かったかな、少し赤くなった顔で笑いかけるがシャナはポカーンとした顔をしていた。
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