客の行列(一時的)
宜しくお願いします
「ハッハッハ!世話になったね君。有難く頂いていくよ。」
「あげたのではなく貸したのですよ、お間違えないようお願いします。」
「失敬、失敬。それでは借りていくよ。ハッハッハ!」
威風堂々高笑いをあげながら立ち去って行く大将軍と秘書騎士、その他大勢の騎士一行。
その姿が見えなくなるまで至高の営業スマイルを浮かべたまま見送ったユキナリは、苦虫を噛み潰したような顔を隠しきれていないタンポポを促すと店に戻って行った。
「ねぇ、大丈夫なの?」
「なにが?」
客が帰った店内で、自分用のコーヒーとタンポポ用のオレンジジュースを入れなおして持ってきたユキナリに彼女が疑問をぶつけて来たのだ。
「さっきの男、絶対返す気ないわよ。いくら貴方のアーツで取り返すことができても、それじゃあ利益なんかでないじゃない?貴方の話しじゃ預金はサービス、投資は金銭以外の利益が目的で、純粋な利益は融資で稼ぐって言っていたじゃない?これじゃあそれも稼げないわよ。」
確かにタンポポの疑問も最もである。
そもそもユキナリが異世界で始めた銀行擬きの商売は、日本での本家をモデルにしているとはいえ、僅か2人で運営していかなければならない事もあり、かなりの簡略化をされている。
手数料や金利の設定がなく、銀行としての体制維持の為に設定している預金。技術や知識といった才能を発掘し伸ばす為の投資。
そして業務の中での核となるのは融資である。現在の設定年利利息率は5%でやっている。例えば金貨1枚(100万円)を貸し出すと、1年間で付く利子は銀貨5枚(5万円)になり、1年が10か月計算の【アリエント】では1か月毎に銅貨50枚(5000円)が発生するようになっている。
お客は元本に関しては返済期限は決められてはいないが、利子に関しては毎月毎の支払いに遅延を認められていない。極端な話、毎月利子である銅貨50枚を払っていれば、元本である金貨1枚を払わなくても大丈夫という事である。
では、どうやってコンビニやATMがない異世界で金の回収をするのか?というと、我らが工匠である【ミール】細工師の作品である魔法のガマグチ【ペロリン・マネー】が使われるのだ。
【ペロリン・マネー】はユキナリの指輪と同じように闇の精霊の力が宿っており、亜空間へと繋がっているのだ。効果は以下の通りである。
・財布程度の大きさで場所を取らないコンパクトさ。
・中に入るのは管理者が決めた物のみ。現在は金銭のみが設定されている。
・ガマグチには客に配る子機と、ユキナリの店舗に設置されている大型の親機がある。
・子機に入れた金銭は親機へと転送されてくる。子機から子機、親機から子機への転送は不可能。
・親機からの操作によって子機自体を転送する事も可能である。
・あと幾つかの機能がちょろちょろと。
キャノーラ大将軍には、この子機を1つ渡してある。契約上は毎月返済金と利子を【ペロリン・マネー】を通して送られてくるよう契約として決められている。
将軍に貸した額は驚異の金貨200枚(2億円)もの大金である。契約通りに支払われるのであれば、利息は金貨10枚(1000万円)。来月には金貨1枚が月の利息として支払われるのだろう。
ちゃんと支払われるのであれば、ではあるが。
「まぁ、大丈夫だよ。なんとかなるさ。」
コクリといつもの様にコーヒーを飲むユキナリに対して、「ちゃんと説明しろや、コラ。」というジト目を向けるタンポポ。そんな彼女の可愛らしいふさふさの狐耳が何かに反応するようにピコピコと動いている。
「どうした?タンポポ。」
「……何かが大量に近づいてくる。」
目を閉じて耳をピコピコさせていたタンポポがそう呟くと同時に、店舗のドアが勢いよく開いた。
入ってきたのは一目でスラム街の住人だと分かるような100人にも及ぶゴロツキ共であった。
すわ!カチコミか!確か俺が死んでいる間にシャナが大量のゴロツキを粛清していたって聞いていたから充分ありえる。
ヤバいぞ、俺は逃げるだけで戦力にはならないし、タンポポなら楽勝だろうけど店も全焼しちまうだろうし。どうする!?
「話は聞いたぜ!俺達も融資してくれや!」
ゴロツキの先頭に立っていたカバの獣人なのだろう鼻の穴と口が大きな巨漢の男が発した言葉が、客としてやってきた事を示していた。
この日、異世界初の銀行【ゴールド・バンク】は、開店1週間で106件もの融資依頼を受けたのであった。
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