パイロマンサー
宜しくお願いします
100匹の巨体を持つ狼に囲まれた1人の美少女はその頭に生えた狐耳をピンと立たせ、お尻から生えている三本のフワフワの狐尻尾をユラユラと揺らしている。
狼の群れの前にのこのこ出て来た狐の少女。柔らかそうな餌が自ら食ってくれというように前に出て来たタンポポに、気の早った一頭が駆け出し襲い掛かった。
「寄るでない、無礼者が。」
飛びかかってくる狼に否定の言葉をぶつけたタンポポが腕を振るうと、その手の平から大きな火の玉が生み出されると襲ってきた狼を一瞬で消し炭に変えた。
仲間がやられて怒ったのかさらに10頭の狼がタンポポに襲い掛かろうと駆け出すが、今度は槍の様に細められた炎が飛び出し、駆け上がろうとした10頭の狼の眉間を貫き地面に縫い付けるとゴッと火力が上がり最初の一頭と同じように真っ黒い炭へと変えて行った。
仲間が次々と殺されて行く現状に狼達は怯えてしまっていた。群れの中でも一際大きな巨体を持つリーダーはヤバイ相手を襲ってしまったと後悔していたが、幸いな事にまだ殺られたのは群れの一割である。今撤退すれば群れの損害は軽微で済む。
唯の動物よりも知能が発達した魔物である【カーサスウルフ】のリーダーを務めているだけあってこの個体はなかなか高度な現状把握能力を持っていた。予想外に強力であった襲撃ターゲットにこのまま戦闘を続行する事の危険性も理解していた。
リーダーは大きく息を吸い込むと撤退の意味を持つ雄叫びをあげようとした所でそれに気が付いた。
ゴオゴオと燃える炎の壁が狼達の後方をグルッと一周しており、逃げるにはあの炎の壁を突き抜けなければならない。しかしそれは無理だろうと本能が警告していた。先ほどの仲間が一瞬で炭になる様を見ているのもあるが、ある程度炎と距離が離れているというのに感じる猛烈な熱さが警告を確信だと思えた。
これだけの炎を扱えるというのに自分と襲撃者の間ではなく、逃げ道を遮るように壁を作り出すのは余程の自信の表れなのだろう。リーダー狼は目の前で笑っている少女に過去感じた事のない恐怖が襲ってきた。
「逃がしませんよ、私は【紅蓮術師】のタンポポ。私の有能さを彼らに教え込む為に生贄となりなさい。」
タンポポの言葉に呼応するかのように、三本の尻尾の先っぽから炎が生まれる。赤く轟々とした燃え上がる赤い炎だ。
不穏な空気を感じたのか、逃げ道を断たれたリーダー狼は慌てて突撃の雄叫びをあげた。約90頭の狼が中心にいる1人の少女に襲い掛かった。
「……【燎原之火】。」
タンポポが呪文を唱えると、尻尾の火が勢いよく燃え上がった。タンポポとユキナリ、シャナがいる広間以外に赤い閃光が通過した。
立ち昇る火柱、炎の波が広間を中心とするように外側に向けて進んでいく。前方から迫る炎の波と、後方に立ち昇る炎の壁に挟まれた狼達に逃げ場はなかった。
肉や油が焼ける匂いも残さず殲滅された魔物の群れの残骸。シャナが念じると風の精霊によって生み出された風によって闇の中に消えて行った。
「どうでしょう?私の有能性を理解していただけましたかしら?」
どやぁと私を褒め称えろという顔で仁王立ちするタンポポ。
普通の相手であれば、その圧倒的な力に恐怖心を持ちカタコトで褒める奴や、その力に嫉妬して悪態をつく偏屈な奴と相場が決まっているのだ。
しかし、我らがユキナリ君にそのような常識は通用しない。
「おお、やるな!タンポポ。助かったよ、サンキュー!」
「きゃ!?」
彼女の頭を撫でながら普通に笑顔で褒めるユキナリに呆気にとられるタンポポ。
(なんなの、この男は!?)
自分よりも遥かに強い力を持つタンポポ相手に、子供を可愛がるように褒めるユキナリの行動に戸惑っていた。
普段のタンポポであれば頭を撫でられている手を払って炎で追い散らすのだが(撫でれた経験など皆無なのだが。)混乱しているからだろうか?撫でられる感触が心地よく撥ね飛ばしづらかった。
(何なのよ、もう……。)
頭を撫でられる感触を感じながら、自分の中に生まれた違和感に首を傾げるタンポポなのであった。
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