虚ろな瞳と暇神
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戦女神アテナによる地獄のロードワークが一年を過ぎた頃、過酷を極める毎日にユキナリの目からハイライトが失われていった頃、彼が間借りしているアルテミスの家に来訪者があった。
「随分やつれたのぉ!ユキナリ君。」
手土産のどら焼きの詰め合わせを片手にやって来た最高神は、力なく項垂れているユキナリを見つけると驚いた声をあげた。
ユキナリを気に入っている最高神としては彼を保護したいのは山々ではあるのだが、上司相手でも容赦なく物申すアテナは苦手だった。名目上だけの取締役が現場でのバリバリの指揮官に頭が上がらないような物だ。ようはアテナと関わりたくないのである。
「最高神様、本日はどのようなご用件ですか?」
お茶を出すついでに要件を聞くアル姉さん。アテナの事を何とかしてくれませんか?と目で問うているのだが、最高神は目を合わせようとしなかった。
「うむ、やっとユキナリ君にぴったりな能力が見つかったのでな、どうするか聞きにきたのじゃよ。」
さすがは暇神代表である最高神。ユキナリがしごかれていた1年もの間、数多の能力からユキナリの【無限黄金郷】と相性の良い能力を探し出していたのだった。
虚空を見つめていたユキナリが僅かに反応したことを確認した最高神は、その節くれだった手の平を彼の頭の上にのせると呪文を唱えた。
そこから僅かな発光が起こると、成功したのか手を離した。
ユキナリが新しく取得した能力、その名も【絶対零度心】という月級のアーツである。
その主な効果は『回収能力』である。能力者の所有物が許可なく、または違法に奪われた場合、それがどんなに遠くに持っていかれても、隠されても、念じるだけで即時取り戻す事ができるのである。
またしても戦闘力向上のアーツではなく、【無限黄金郷】のように単体で活躍させる事ができるものでもなく、アリエントで言われている【月級】と称される希少で強力なアーツの中でも最底辺の人気の無さを誇っている。一年も探さなければ見つからないであろうという程の不遇っぷりであった。
しかし、意識が上の空の状態で手に入れた能力が転生した後のユキナリには心強い力になるのだった。
「まぁ、そうゆう訳で天界で新しいアーツを手に入れられたって訳さ。」
天界での出来事を語ったユキナリに対して聞いていた2人からの視線には相反する意思が込められていた。
タンポポの場合。
(なんなんですか!?この男は!天界であったり神であったり荒唐無稽な話しすぎます。普通であればそのような与太話など信じる必要はないのですが、希少な月級のアーツを2つも持っているのは事実、まさか本当なの?)
シャナの場合。
(さすがはご主人様です!まさか神すら虜にするとは……。だからといって私も負けません!せっかく愛して頂けたのですから、神様とて引くつもりはありませんから!)
その後、一泊した3人は南部地区へと進むのであった。
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