戦女神のしごき 1
宜しくお願いします
驚愕の新事実が発覚した。なんと、俺の大好きなお金を生み出せる素晴らしいアーツである【無限黄金郷】と、犯罪に巻き込まれてから改めて必要だと感じた戦闘系チート能力である【万夫不当】を一緒に修得しておくことはできないということなんだと。
なんという事だ。どちらかしか選べないとか究極の選択をさせないで頂きたいものだ。なんかアーツ同士の相性の問題らしいんだけど融通利かせてくれないかなぁ?
【無限黄金郷】か?【万夫不当】か?、経済の金か?戦闘力か?、資金力か?攻撃力か?財力か?自衛力か?現実の力か?ファンタジーの力か?黄金か?物理か?金か?力か?金か?力か?金か?力か?金は?力は?金は力?…………金=力!?
そうだよな。金こそが力なんだから、無理矢理戦闘力を付ける必要なんかないんだ。そう、今までの俺で十分なんだよな、別に俺は勇者になって魔王を倒したい訳じゃないし、世界一の大剣豪になりたい訳でも王様のような権力者になりたい訳ではないのだから。
ただただ安定した人生を過ごしていきたいだけなのだから、そこに気の合う仲間達というスパイスと、やりたいことに困らない資金力があれば十分すぎる程の幸せなのだから。
と、いう訳で新しいアーツの取得を諦めたユキナリは部屋でゴロゴロしているのだった。だってやる事ないんだもん。ひまー。
ユキナリはただ暇なだけなのだが、部屋に引きこもっちゃっている姿を心配していたアルテミスは、ユキナリが2つ目のアーツを取得出来なかった事で落ち込んでしまっているのだと勝手に勘違いしていた。
「ユウ君優しいから……、大切な仲間を護る為の力を手に入れられなかったのが悔しいんだと思うの。」
完全に間違っている訳ではないが、かなりのプラス評価の勘違いを繰り広げていた。
だがユキナリとの面識のない【アテナ】にはいまいち疑問だった。付き合いの長いアルテミスが初恋の相手であるユキナリを特別視するのは理解できないでもない。神として無限に近い時間を共に過ごしてきた親友が初めて抱いた恋である。応援してあげたい気持ちは勿論あるのだが、どうにも相手の男が彼女に相応しいとは思えなかった。
「強さを諦めてまで金に走るとは、俗物め……。日本男児だというのに情けない。」
熱い日本茶をズズっと飲みながら悪態をつくアテナ。アルテミスには聞こえないように小声で呟いている辺り親友への配慮は忘れてはいないようだが、顔は不機嫌丸出しである。
アルテミスと同じくギリシア神話に登場する神様であるアテナは、戦乙女の呼称を持つ戦いを象徴する女神である。アルテミスと同じく三大処女神として有名な事もあり、意外にも?好色な者が多い神様の中であっても未だに恋も知らない稀有な存在であった。
そんな彼女も若手の神がどんどんやって来た地球にあって、アルテミスと同じく第一線から引くとかねてから興味のあった日本へと向かった。
戦いを司る神として世界各地の戦争、戦闘、武芸、武術を見て来たアテナが最も興味を持ったのは小さな島国である日本であった。特に戦国時代から幕末までに活躍した【武士】や【侍】への惚れっぷりは凄かった。
惜しむらくは天界における地球ブームによってアテナに暇が出来たのが昭和の中頃であった為、実際に武士と触れ合う機会がなかった事だった。その為、彼女は映画やドラマ、漫画などの資料から武士を学んでいった。当然それらの媒体にはエンターテイメントとしての誇張された表現がふんだんに使われている。
そんな物ばっかり参考にしていた為に、彼女の武士像は著しく美化されてしまっている。武士は志高く、清廉潔白。一対一の真剣勝負を尊び、武士道とは死ぬ事と見つけたりという二次元にしかいないような人物を理想としているのだ。
その影響があるのだろう、武士=日本男児、武士=最強最高の男という方程式から、日本男児=最高最強の男という3段論法が彼女の中で成立してしまっている。
さらには、ユキナリ=日本男児、日本男児=最強最高の男という方程式によって、ユキナリ=最強最高の男でなければおかしいという前提がアテナの中では当たり前となってしまっている。
その為、弱っちいくせに努力もしないユキナリは、日本男児として武士としてなっっとらん!と頑固おやじのように怒っていたのだった。
「よしっ!」
何を思ったのか急に握り拳を掲げて立ち上がったアテナに驚く対面のアルテミス。
「安心しろアルテミス。」
アテナはテーブルに立てかけて置いた黒光りの鞘に入れられた刀【神殺し】を握ると高らかに宣言した。
「あのボンクラが貴女に相応しい男になるよう、俺が鍛えてやる!」
そう言って店を出て行くアテナを見送る形になってしまったアルテミス。その視線がテーブルに向かうと彼女はあることに気付いた。
「アテナちゃん……、お会計……。」
テーブルの上にはアルテミスの飲んだジュースのグラスが1つと緑茶用の湯呑みが1つ。そして34杯にも積み上げられたクリームあんみつの皿であった。
ご覧いただきまして有難うございます。




