神々の悪戯 1
宜しくお願いします
約1か月前、ミールとの買い物途中に誘拐され、殺されてしまったユキナリは、自身2度目となる天界へとやってきていた。
白亜の街並みの中にある白いベンチ。最高神でありながらも暇人であるお爺さんから話しを聞くと、どうやらユキナリは異世界での2度目の生を終えてしまったとの事であった。僅か2か月程の短かったが大切な仲間を得られた、1回目よりも有意義な人生であった。
「もう1度生まれ変わるかの?」
どうせ死ぬのならば、我慢なんてしないでシャナを襲っていれば良かったと、中々外道な後悔をしていたユキナリに予想だにしていなかった言葉が聞こえた。
なんと2回目の転生を最高神直々に許可してくれたのだ。しかもとーっても軽い感じで。まぁユキナリが最初に転生された理由も、不憫なユキナリに最高神が同情して生き返らせてくれたくらいなので、このお爺さんからしたら簡単な事なのだろう。
その提案に迷いなく頷いたユキナリであったが、思い返していた最初の転生の際、ほのぼので楽しい平和な世界だと紹介されて行ったのだが、実際は全然平和な世界ではなかったのは皆さん分かっている事だろう。
いきなり暴行された獣人の女性の死体を見つけた事に始まり、人間ではないというだけで無理矢理奴隷とされていたシャナ。権力を振りかざしてカツアゲのような事を平然とやっている貴族。王侯貴族の陰謀に巻き込まれて追い出されたミール(これは確定していませんが。)。ユキナリが殺されたスラム街も含めても、全く平和には思えなかったのだ。
思い切って最高神に本当に平和な世界なのか疑問をぶつけてみると、最高神は「マジで!」というような驚いた顔を見せた。様々な世界・様々な次元の最高責任者であるこのお爺さんには、各世界の管理神から要約された報告しか送られてこないらしい。
ユキナリが転生した異世界【アリエント】の管理神は、差別と対立で染まってしまっている現状を隠して良い面だけを抜き取って報告をあげていたようだ。まるで日本での不正政治家のような行動ではあるが、神様にもそうゆう輩がいるという事に驚くユキナリであった。
ユキナリの話しを聞いた最高神は、いつも浮かべていた好々爺のような顔を引っ込め、真面目でそして神らしい威厳に満ちた表情になると何やら考え込んでしまった。
最高神が黙ってしまったので手持ちぶさたになってしまったユキナリは、ふと何処からか視線を感じて振り返った。
白い壁の家々が立ち並ぶ街の脇道に何やら緑色の物体が見える。暫く見ているとその物体(どうやら髪の毛のようだ。)が動いて、顔がチョコンと出て来た。俺が見ている事に気付いた緑髪の人物?はすぐに顔を引っ込めてしまったのだが、その僅かな時間でさえユキナリが彼女の顔を忘れている事は無かった。
「アル姉さん!」
叫ぶように呼びかけるユキナリの声に、恐る恐るといった感じで1人の女性が路地から出て来た。
「ひ、久しぶりだねユウ君……。」
ウェーブのかかったロングの緑髪。医者や研究者が着るような白衣の胸元を押し上げる、爆乳と言っていい程の盛り上がりを見せる胸。整っているが、たれた眉毛と飾り気のない眼鏡によって気弱で地味な印象を与える顔。髪の毛の色だけ茶髪から変わってしまっているが、他に変わっている所はなかった。
「また会えて嬉しいよ、アル姉さん。」
女性に近づいてギュッと彼女を抱きしめたユキナリ。2度と会えないと思っていた彼女に会えた喜びを伝えるように力強く、優しく、愛を込めて。
彼女は【猪狩アルナ】。最初の人生である日本で悲惨な幼少期にユキナリを助けてくれた女性である。ユキナリにとってまさに命の恩人という訳である。
最高神が涙するほど悲惨であった日本でのユキナリではあったが、2人の女性と関わって来た期間は幸せであったと本人も認識している時があった。1つは22歳の時、初めて彼女が出来た時。そしてもう1つが目の前の女性の家に転がり込んでいた3年間である。
そう、ユキナリが抱きしめている気弱そうな女性こそ、少年期のユキナリを養っていく対価として肉体的関係を持っていたショタコンのお姉さんだったのである。
ユキナリの決意により別れてしまった2人であったが、嫌い合って別れた訳ではないので2人は再開を喜んでいた。ユキナリの胸に抱かれた【アル姉さん】の顔はデレッと蕩けた様な表情であった事に誰も気付いてはいなかったのだが……。
久しぶりに恩人と再会したユキナリは、アル姉さんの案内でカフェでお茶をしていた。1度考え込んだ最高神は中々戻って来ないと言われた事と、聞きたいことが沢山あった為である。
質問:なんでアル姉さんが天界にいるの?
回答:アル姉さんは実は人間ではなく神様だった。猪狩アルナという名前も偽名であり、本名は【アルテミス】。ギリシア神話に登場する月と狩猟の神である。神様なのだから天界にいても問題ないのである。
質問:神様であるアル姉さんが何でユキナリを助けてくれたのか?
回答:アルテミスは地球という次元を管理する神の1柱であったのだが、文明が発達しながらも多数の宗教があり、神への信仰心が強い次元であった為、神様達には居心地の良い世界であったらしい。その為、新人研修を終えたばかりのような若く経験の浅い神々の職場として人気であり、仕事量以上の人員が管理しているという結果になってしまったのだ。
アルテミスの様に実績と知名度の高い高位神の面々は、別の次元に転勤したり、基本業務とは別の仕事をするようになった。
アルテミスがやっていたのは『神の悪戯によって狂わされた者の救済』であった。生物の中には極端に神々から好かれる者、嫌われる者が稀に現れた。好意を得た者は、神の介入によって歴史に残るような偉業を成している者が大勢いる。偉人と言われるような人物の殆どは神の祝福を受けているのだ。
逆に何等かの理由によって神から嫌われた者は悲惨な生を送ることになる。とはいえ神が直々に害を加える訳ではない。『運』が最悪に悪くなるのだ。
神の嫌がらせがその程度かと侮った奴は廊下に立っているように!生物が生きていく上で『運』は非常に大事なステータスである。もし大事な試験の日に人身事故に遭遇してしまったら。もし自分が乗った飛行機に不具合が発生して不時着を強いられたら。
これによって人生が変わってしまうような事を「ああ、不幸だったな。」と一言で終わらせられない事も起きるのである。
そんな神からの介入によって不幸な人生を送ることになってしまった者の救済がアルテミスの仕事であったのだ。
ユキナリの不幸な人生の中で、神の悪戯の痕跡を発見したアルテミスは職務通りに少年ユキナリを保護した。唯一の誤算は保護対象でしかなかったユキナリに本気で惚れてしまっていたという事だろう。一目惚れであった。
ギリシア神話にて処女神と祭られているアルテミスは、神としての長い時間で恋等したことはなかった。そこに現れた一目惚れした保護対象の男の子。どう接すればいいのか分からなかった初心なアルテミスは、過去に神の悪戯によって殺されかけた所を救出した女性に助言を求めた。それが妲己ことユウガオであった。
日本と中国で数々の男性を虜にした相談してしまったのだ。
命の恩人であるアルテミスからのお願いに真剣に考えたユウガオは、1つの結論。いや真理を唱えた。
「男は身体で繋ぎ止めてしまいなさい。」
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