異世界で金融業
宜しくお願いします
2章 同郷者との出会いからの続きのセリフになります。
「我々が始める商売は【銀行】です。」
随分と長く感じた回想からやっと戻って来れた。次の課題はフリーランドの実質的支配者である五権に認められるように説得する事。ユキナリは気合を入れた。
「構いませんよ。」
あっさりと許可が出た。
「そもそも私は五権などという大業な役割を担ってはいますが、フリーランドの住民は皆平等です。どんな商売をなさるのも誰の許可も必要ありませんわ。銀行?という商売がどのような物かは存じませんが、【アルテミス様】が気にされている九重さんがやろうとしている事なら大丈夫でしょう。やってみるといいですわ。」
コンコン
「失礼致します。お母様、お呼びですか?」
ノックされたドアを護衛の男の1人が開けると、タンポポとクロエが立っていた。いつの間に呼んでいたんだ?そんな素振りは感じられなかったのにな?とユキナリが疑問符を浮かべていると。
「いらっしゃい、タンポポ。あなたも先日10歳になりましたから五権の後継者としての初任務を与えますわ。」
飄々とした口調は変わらずとも、さっきまでのユキナリとの雑談の時に浮かべていた顔とは違う真剣な面持ちで、娘へと語りかけるユウガオ。
幼いながらも、英才教育を受けて来た聡明なタンポポは表情を引き締める。突如出来上がった親子間での真剣な雰囲気に、部外者であるユキナリとシャナは置いてきぼりであった。
「ここにいる九重さんが南部で商売を始めるらしいのですが、そこのスタッフとしてお手伝いに行きなさいな。」
部屋にいる殆んどの人物が唖然とするようなユウガオの独断専行によって、いつの間にか従業員が1人確保できてしまったユキナリであった。
「決まってしまったことは仕方ありません。甚だ遺憾ではありますが、尊敬する母上からの指令です、私が関わるのですから繁盛する事は決まったようなものですね。それで?銀行とはどんな商売なのですか?」
終始偉そうな態度を崩さないタンポポを加えたユキナリとシャナは、部屋を取っている宿に戻るとユキナリの部屋に集まっていた。ちゃんとタンポポ用にもう一部屋取ってあるから大丈夫だ。
さて、そろそろ本題に入ろう。
ユキナリがやろうとしている【銀行】であるが、正確には日本にあるような銀行よりも、レ○クとかプロ○スみたいな金融業の方をメインにやっていくつもりである。
運営する項目は大きく3つ。
1つ目は銀行の貯金システムである。個人や商店からの金銭を預かるシステムで、この世界では各職業ギルドが自身の所のギルド員のみを対象にやっている事業である。預かった元本の増額はないが、減ることはなく手数料も必要ない。本当に預かるだけのシステムだ。
2つ目は投資である。才能や技術力を持っていながら経済的に不遇な人達、正確にはユキナリがこの世界を楽しむために必要な人材を発掘する為のシステムである。投資金は掛け捨てなので金は減るが、稀有な人材を得られるかもしれないギャンブルでもある。
最後が本命の3つ目、貸し出しである。こちらは簡単な審査はするが、基本的に貧富職業の差なく金銭の貸し出しを行う予定である。僅かな利子はいただくが、真面目な人なら十分返せる程度である。
「それって利益出ますか?貯金は無償ですし、投資は減っていきますよね。貸し出しの僅かな利子だけじゃ厳しくありませんか?それに貸したお金がちゃんと返ってくるか分からないですよね、国外逃亡とかされたら回収はほぼ不可能ですよ。」
そう、タンポポの言う様に通信の発達していないこの世界では、逃亡した個人を追跡するのはかなりの困難である。国外に逃亡した顧客を追いかけて行ったら不法入国扱いになるような国だって存在するのだから、タンポポが心配するのも理解できるのだ。
「大丈夫だって、俺には新しいアーツがあるからな。」
一般人であったなら問題点が大きく、手を出そうとは思わない金融という仕事。だがこの世界でユキナリだけは、資金源とリスク対策という課題を同時にクリアすることのできる能力……アーツを持っているのである。
ユキナリは指輪から金貨を20枚取り出して巾着袋に入れるとタンポポへと渡した。
突然の大金を持たされたタンポポは、手元の巾着袋とユキナリの顔を交互に見ている。いきなりの展開でこれどうするの?と、目で問いかけてくる。
ユキナリは、その袋を何処かに隠してきてくれとタンポポにお願いしてみると、困惑しながらも一度宿屋から出ると、10分程で戻って来た。
じゃあタンポポが隠してきてくれた金貨の袋を見つけますと宣言すると、余程分からない所に隠したのか、タンポポは自信満々にニヤリと笑った。
「絶対に無理ですね。あなたでは見つける事など……!?」
「ほれ。」
会話中に腕を振るったユキナリの膝の上に、先程タンポポが隠した物と同じ巾着袋が現れた。驚いているタンポポとシャナの目の前で袋を逆さまにして中身を出すと、ジャラジャラと大量の金貨と数枚の銀貨、そして何故かクルミが入っていた。
「あ!クルミ……。」
如何やら隠した時に証明としてクルミを一緒に入れていたようで、ここにある巾着袋が先ほどの物と同じものだという事がわかったようだ。
「な、リスク面はこれで解決だろ。」
逆にドヤ顔を決めたユキナリは、クルミと一緒に入っていた銀貨をタンポポに渡した。クルミはともかく銀貨を渡されて首を傾げるタンポポに、それはタンポポのお金だよと言うと、急いで財布を確認したタンポポの顔が青ざめた。財布から銀貨が減っている事が分かったのだ。
「これが俺の新しいアーツだ。持っていかれた俺の所有物をどんな遠距離であろうと回収し、更に相手の罪状によって超過金を一緒に持ってこれるという、まさに借金取り専門といっていい月級アーツ、【絶対零度心】だ!」
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