高飛車狐少女襲来
宜しくお願いします
微妙な空気が流れる室内で備え付けの椅子に座った狐の少女とベッドに腰掛けたユキナリが対面していた。
それぞれの側には、シャナと少女が連れて来た護衛と思われる青銅色の鎧を着た女性騎士が立っている。
訝しそうにユキナリを見る狐少女。苦笑いするユキナリ。直立不動で真面目な表情を変えない女騎士。いちゃいちゃタイムを邪魔されて狐少女を睨んでいるシャナ。
このままではいつまでも話しが進みそうにないので、ユキナリから狐少女に何の用なのか聞く事にした。
「そうですね、いつまでもこのままではいけませんし……。おほん、私は中央地区ベルファニアの代表である【ユウガオ・ラインストーン】の娘【タンポポ・ラインストン】と申します。本日は、母上からの手紙を【ユキナリ・ココノエ】殿に渡すよう言われやってまいりました。【クロエ】、件の手紙をここへ。」
狐少女のタンポポから命令を受けた女騎士のクロエは「はっ!」と力強く返事をすると、その重厚な鎧姿のどこから取り出したのか、一冊の便箋に入った手紙を渡してきた。
差し出された手紙を受取ろうとするユキナリを遮ったシャナが先に手紙を受け取ると、何かを確認したのかユキナリに渡してきた。後で知った事であるが、格の高い者っ同士での会談の際のやり取りは配下を使うのが基本であって、主人は指示を出すだけであるらしい。ユキナリは特に権威を持っている訳ではない一般人なのだが、相手に自分の主人がなめられないようにシャナが機転を利かせたのであった。
手紙を受け取ったユキナリが目を通すと、なんと中央地区の五権自らからの招待状であった。娘に案内させるからこの後会えませんか?という権力者からの手紙とは思えないような非常に軽いお誘いの文言であった。
一緒に手紙をのぞき込んでいたシャナが(お行儀は悪いが……)どうするのかと目で問いかけてくるが、そもそも選択肢等存在しないのだ。一般人であるユキナリに権力者である五権からの誘いを断るような博打は打てる訳がなかった。
(まぁ、元々会いにきたんだしアポイント取る手間を考えれば楽できたと思っておこう。)
お誘いの件を了承した旨をタンポポに伝えると、タンポポは当然よねという様にフンっと1つ鼻を鳴らし、クロエは安堵したように少し表情が柔らかくなるとお辞儀をした。
クロエはともかく高飛車な態度のタンポポの扱いは気を付けなければと思ったユキナリであった。
「それでは母上の元へと向かいます。はぐれたら置いていきますので迅速な行動を心掛けてください。」
そう言うと、さっさと部屋を出て行ってしまうタンポポ。クロエも直ぐに後を追っていく。
一瞬ポケッとしたユキナリとミールであったが、すぐに意識を戻すとバタバタとタンポポの後を追っていくのであった。
「それで、あとどれくらい歩いたら目的地に着くんですか?」
宿屋を出てから早2時間。先行するタンポポに付いていっているのだが、いつまでも目的地に着く気配がない。
「う、うるさいわね!?もうすぐ着くわよ!」
同じセリフを聞くのも3回目である。そもそも今ユキナリ達がいるのは鬱蒼と茂る大森林なのだがこんな所に会談場所があるとは思えないんだけどな。
「クロエさん、道って合ってるんですか?」
タンポポに聞いても埒があかないので冷静そうなクロエに聞いてみる事にした。
「…………。」
しかし返事はない。タンポポの少し後ろを黙々と歩いているのだが、こちらの言葉が届いていないような反応だ。
頭に疑問符を浮かべるユキナリであったが、様子を伺ってみるとクロエの口からブツブツと何かを呟いているような声が聞こえて来た。
気になったユキナリがさりげなく距離を詰めて耳をすますと……。
「ああ、焦っているお嬢様もお可愛らしい……。重度の方向音痴だというのにお客人たちに見栄を張られて引っ込みがつかなくなってしまったのですね。ああ、抱きしめたいです。あの小さく可愛らしい肢体をギュッと抱きしめてあげたいです……。」
こっちもまともじゃなかった。母性が強いというか百合というか……。関わらないほうがいいな。
とはいえタンポポが方向音痴だという情報を入手したユキナリは、文句を言ってくるタンポポから無理矢理に地図を奪って目的地を確認した。
「宿から5分の会議場じゃねぇかよ……。なんで迷うんだよ。」
無礼者だのなんだのと五月蠅いタンポポと、そんな怒っているタンポポを見て悦に入っているクロエを置いて、ユキナリとシャナは2人でとっとと目的地へと向かうのであった。
最短距離で街に戻ったユキナリ達は大幅に遅刻をして目的地の会議所へと入って行った。ここで分かれるという2人と離れたユキナリとシャナは、入口で待っていてくれた【シロナ】という五権付きのメイドさんに案内され、執務室だという部屋に入って行った。
「ようこそいらっしゃいました、九重さん。」
部屋に居たのは、タンポポを成長させたような狐耳と9本の狐尻尾を生やした絶世の美女であった。彼女を美女だと認識しない生物はイカレタ感覚の持ち主だけだという程の完成された美貌の持ち主である。
「初めまして、ユキナリ・ココノエと申します。こちらはシャナと言います。お目道理叶って恐悦至極でございます。」
限りなく丁寧な口調と所作を心掛けてはいるが、慣れていない為違和感バリバリの挨拶になってしまったユキナリであった。
「そんなに畏まらなくても大丈夫ですわよ、あなたの事は【アルテミス】様から助けになって下さいとお願いされておりますのよ。」
「え!?じゃあ【アル姉さん】が言っていた地球出身の協力者ってあなたですか?」
「はい、そうですわ。申し遅れましたが、私、フリーランド意思決定機関、通称【五権】に席を置きます【ユウガオ・ラインストーン】と申します。地球での名前は【妲己】、【玉藻の前】等と名乗っておりましたが、死後この世界へと転生されましたの。恩人、いえ恩神であるアルテミス様からの願いにより、九重さんの手助けをさせていただきますわ。これから宜しくお願いしますわ。」
そう言って、かつて地球で悪女・傾国の美女などと呼ばれた人物はニッコリとほほ笑むのであった。
ご覧いただきまして有難うございます。
これで2章の『同郷者との出会い』から続いていた回想が終わりました。
ユウガオ、タンポポとの出会いを得たので、次回からユキナリが生き返るまでの話しに入っていきます。




