お風呂場でのガールズトーク
宜しくお願いします。
ざばぁーー。っと掛けられたお湯によって身体に付いていた泡が流されてシャナのスレンダーな裸体が露わになっていく。その隣では湯船からお湯を桶でくみ上げたミールがシャナにお湯を掛けている。身長が足りずに脚立を上り下りしているミールは大変そうではあるが、年上のお姉さんとして(お忘れかもしれないがミールは最年長の25歳である。)年下の妹分であるシャナの世話を焼くのを楽しんでいる面もあるのだ。
「ありがとうございます。ミール。」
今日行われたユキナリの埋葬によって自分の中で何かの区切りを付けることが出来たのか、少しではあるが感情を返せるようになってきた事にミールは笑顔で桶の中のお湯を頭からシャナにぶっかけた。
「そうですよ、申し訳なく思っているんでしたら早く調子を戻してくださいね。」
笑いながら更にお湯をぶっかけるミール。お礼を言われて照れているのか何度も何度も脚立の上り下りによる高速上下運動での連続お湯ぶっかけを敢行中であった。
ざばぁぁーー。
「もう大丈夫ですよ。」
ざばぁーーーーー。
「いえ、ミールもういいのですよ。」
ざばぁーーーーー、ざばぁーーーーー。
「ですから、うぴゃ!」
喋ろうとした所に頭から掛けられたお湯が口に入ってしまうシャナ。
ざばぁーーー。
ざばぁーーーーーー。
ざばぁーーーーーーーーー。
「いい加減にしなさーーーーい!!!」
無限ループで掛けられるお湯についにキレたシャナが両手を振り上げて怒りだした。
「まったく、変な事してないでさっさと温まりますよ。」
そう言ってシャナは全自動お湯掛けマシーンと化していたミールを小脇に挟むと、シャナでも楽々と入浴できる程の広さの湯船に身を沈める。ミールが座れるように浅い位置に取り付けられている椅子に座らせると2人して「ほぅ……。」と息を吐いた。
約一月前の事件から初めて落ち着いた時間を過ごせてている2人。
「シャナさんってユキナリさんにべた惚れしてますよね?」
吹き出すシャナと一言で雰囲気をぶち壊すミール。
「な!なにを言うか!?私がご主人様に抱いているのは敬意と感謝であってだな、ほ、惚れているなどというそのような軽薄な感情などではなくてだな!えー、あー、いや決して嫌いという訳じゃないんだぞ!ご主人様の事は大好きだからな!だからといってその好きは敬愛の好きであって恋愛ではないんだ!そこは間違えないで頂きたい。」
怒気と照れによるマシンガントークでの否定にもニヨニヨ笑いのミールには効果がなく、次第に反論のトーンが落ちていくとついには観念したのかボソボソと話し始めた。
「ミールはご主人様の一番大切な物って何だか知っているか?」
「勿論お金です!ここで仲間とか愛とかだったら物語の主人公みたいでカッコいいですが、ユキナリさんは100%お金が大切ですね。」
「ああ、その通りなんだ。ご主人様の中でのヒエラルキーはお金がダントツでトップを独走している。今回の事もそうだったけど自分の命の価値すらお金よりも下に置いてしまっているんだ。前に聞いた話しだと、ご主人様は幼少の頃(実際は前世の頃)に極貧生活を強いられ不幸な目に会ってきたという過去があったらしくてな、異常にお金への信頼度が高いんだ。」
「あー、そうゆう理由だったんですねぇ。結構異常だなとは思っていましたが。」
「今でこそご主人様は20枚もの金貨を簡単に出せる程になっていましたが、私と出会った時はもっと所持金が少なかったのですよ。当時奴隷だった私の価格は金貨10枚でした。値引き交渉などで金貨5枚まで下げられたようですが、そうそう平民がポンと払える額ではありません。」
右手で左手を包み込んだ祈りをささげるようなポーズのシャナはギュッと手に力を込めた。
「だというのにご主人様は戦士の魂ともいうべき己の武器を貴族に売り払ってでも私を買おうとしてくれたのです。あのお金大好きなご主人様が全財産を使って私を手に入れてくれました。性奴隷としてでもなく、弾除けの壁としてでもなく、ただ友達になってほしいと……。」
シャナから語られる告白に真面目に聞くミール。その顔はいつものほにゃっとしたものではなく真剣である。
「思い返せば初めて会ったあの時に私の心はご主人様に奪われてしまっていたのだろうな……。」
その時の艶やかなシャナのはにかんだ様な笑顔は、同性であるミールから見てもとても美しい恋する乙女の顔だった。
「ふー、すっかり長湯をしてしまいましたね。」
シャナの告白を聞いていたおかげで結構長い入浴になってしまったと脱衣所でのぼせてしまったミールの身体を拭いてあげているシャナ。
ミールのパジャマを着せた後、自分の寝間着を着ようと思ったが見つからなかった。ここ一か月程夢の世界に精神が旅立ってしまっていたシャナは寝間着を用意するのをすっかり忘れていたのだった。
「取りに行かないと。」
身体をササッと拭いて水気を取ったシャナはお風呂場の扉を開けてリビングへと向かった。すっぽんぽんで。
ミール監修の元、飛鼬組の手によって建設されたこの住居は、ケンタウロスのシャナでも楽に利用できるように廊下や扉が大き目に作られた二階建ての豪邸である。一階には大きなリビングを中心に台所や風呂場などの共用スペースと、シャナとミールのプライベートスペースの個人部屋がある。何処に向かうにしても中央のリビングを通らなければならない仕組みとなっているのだ。
つまりシャナが自分の部屋に寝間着を取りに行くにはどうしてもリビングを通る必要があるのだった。とはいえミールとの2人暮らしの現状で裸で家の中を歩き回っても大した問題ではないのが普通である。だからシャナも油断していたのだろう。
「なんちゅう格好してるんだよ、シャナ。まぁ俺には眼福ではあるけど。」
リビングに置いてあるソファに座ったユキナリが煎餅をかじりながらこっちを見ていたのだから。
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